55話 雷神vs凶星
トライデント連合王国を束ねる三つの国の一つ『ゲイボルグ』の若き王であるガルバリオは目の前で繰り広げられている戦いを遠巻きに眺めていた。
「あのような、あのような化物と我らは戦うところだったのか……」
それはどちらの事を言っているのか。
城の如く巨大な雷の巨人となった王国の『祝福』を得た黄色の騎士か。
小さな小柄ながらも、その巨人に真っ向からぶつかり合い無数の雷龍を蹴散らす黒き少女か。
ただ一つ言える事は、ティルファング共和国・パンゲアのどちらに攻め込んだとしても滅びるのはトライデント連合王国だったのは間違いない。
「我らは、もはや見守るだけしか出来んのか……」
それでも戦士としての矜持が何かできないかと模索する。
あの戦いに割って入ることは不可能。もし無理やり入ればイヴの邪魔になるか、無駄死にするかのどちらかだ。
「見守ってあげてください」
「何……?」
誰かに掛けたわけでもない呟きに答えた者がいた。
それは多少砂埃に塗れながらも、無事に奴隷達を逃がし終えたプリズム・ムーンこと、天王寺美月だ。
「あの人は、元々私達の敵でした。最強で、でも優しくて、それでも自分を慕う仲間の為に戦う立派な人でした」
「敵であったのにか?」
「はい。何度か危ない時は共闘したりして、それでも私達は戦うしかありませんでした。私達には背中を見守ってくれる人達がいて、希望を背負って戦い、勝ちました。あの人の背中を見守ってくれる人はたった一人でした」
美月は知っている。誰かに背中を見守ってくれることの嬉しさ、心強さを。
勝敗を分けたのは、そこにあるのだと知ってる。
「だから、イヴさんが勝つと信じて見守ってあげてください」
「……ああ!」
優しげで、どこか強かさのある笑みにガルバリオはしかと頷き、騎乗しながら地を砕く激闘を繰り広げる戦いを兵達と共に見守る。
兵達もイヴが負ければ次は自分たちの番だと判っている。奴隷兵団や戦闘員達、助け出された奴隷達もだ。
美月はステッキを握りしめながら、戦いを形勢を見守る。
(イヴさん、頑張ってください。私も頑張ります)
美月はいつでも動けるように、ステッキを握りしめながら意識を集中するのだった。
◆◆◆
極太の雷を見極め、回避、雷球を拳で弾き時には足場にし我を見下ろす雷の巨人へと迫る。
これがヒーロー達が我らに挑む視点か。中々に悪くはない。
「「「「「「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」」」」
六体の巨大な雷竜が我を喰らわんと襲い掛かる。
一発一発がヒーロー共の必殺技の威力だ。マトモに受ければ我とてただではすまん。
当ってやる道理はないがな。
「至極・天!! 散れぃ!!」
手に超重力の刃を纏わせ、手刀で先頭の龍の頭を斬り落とし、続けざまに前に加速度的に落ちながら龍が反応するよりも速く腕を振るい六匹の龍をバラバラに切り裂く。
たかが獣が我に触れられると思うな。
残り40秒。
加速度的に横への落下の勢いを増しながらクルセイジャーイエローに迫るが、奴もここにきて死にもの狂いになったのだろう。
胸部から千を超える雷球を生みだした。その数は優に千を超える。
視界を埋め尽くす無数の雷球は決して逃さないという意思表示か。
雷球は一斉に我へ目掛けて、驟雨の如く降り注ぐ。
攻撃が当たらぬと判断し、直ぐに手数で埋めるその切り替えの良さは敵ながら見事。防ぎきるのは難しい。
だが、無意味だ。
「ダークホール!!」
掌に直径72mm程の野球ボールサイズの黒き球体を生みだす。
その黒は光すら飲み込み逃さない超重力の塊。いわゆるマイクロブラックホールだ。
ダークホールを我が道を立ちふさがる雷球の群れに投げつければ、雷光に触れた瞬間に黒球から黒い渦が巻き起こり千を超える雷球の全てを地面ごと飲み込む。ヒーローには当たらんが、こういう場面には役に立つ小技だ。
雷の放電音が一瞬にして失われ、静寂が辺りを包み込んだ。
ここにきて、初めてあの『祝福』に動揺が見えた。
「ようやく見せたな。その感情、我にとって馴染みのあるものだぞ」
残り30秒。
クルセイジャーイエローと戦ううちに、『祝福』とやらに意志があるのは分かっていた。
もし『祝福』とやらが機械的なシステムで宿主を操っているのであれば、もっと捨て身で襲い掛かってくるはずだ。
その方が効率がいいからな。
だが、この形態になってからは距離を置いた攻撃ばかり。
理解していたのだ。近づけてはならないと。マトモにやりあっては負けると。それはすなわち――。
「その感情の名を教えてやる。お前は我を――恐れている」
恐れを感じる意志がある。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!! アリエヌアリエヌアリエヌゥウウウウウウウウウウ!! コノワシガ、人間ヲ恐レルナゾアリエヌ!!」
「本性を現したな。三下」
「三下ダト!? ワシハ雷神ナリ!! 下等ナ人間フゼイガアア!!」
怒りの余り、化けの皮がはがれた様だ。何が祝福だ。ヒルダの言う通り、お前は呪いだ。
残り20秒。
「神ノ名ノモトニ滅ビヲオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
とうとう外見を繕う気もなくなったのか、怒りを露わにし巨大な雷撃の拳が振り下ろされる。
その拳は神の拳と言っても差し支えはない。
ならば、その紙のように薄っぺらなプライドごと打ち砕いてやろう。
拳を避けるように大きく跳躍し、天高く飛べば『祝福』を見下ろす形になる。
「ワシヲ見下スカ人間ンンンンン!! 不敬ノ極ミナリイイイイイイイイイイ!!」
予想通り拳を我へ向けて飛んでくるが、もうお前は終わりだ。
「お前は神でもなんでもない。ただの寄生虫だ。滅びとはこうやるのだ。グラビティ・スマッシュ……!!」
眼前に形成した重力場のリングを潜り抜け、亜音速を超えた必殺の一撃は雷撃の拳を容易く打ち砕き、そのまま腕を切り裂きながら雷神の胴体を貫き、巨大な風穴を作る。
雷神は一瞬、自分に開いた風穴に驚きながらも余裕の笑みを浮かべていた。
残り10秒
「クククク……コノ程度デ滅ビハセ、……何っ……!?」
「いっただろう。滅びとはこうやるのだと」
風穴の中央から超重力の渦が生まれる。それは先ほどのダークホールと同じマイクロブラックホール。
それに飲み込まれれば迎えるのは圧縮崩壊の末の大爆発。ヒルダの時はここまでやらなかったが、こいつ相手ならば何の問題もない。
「ウウウウウアアア!! 吸イ込マレルッ!?!? 力ガ消エっ! コノワシガ負ケル!? 何故ダァアァアア!!!」
「お前の敗因は人を侮った事でも、ヒーローに取りついた事でもない」
マイクロブラックホールに飲み込まれつつある雷神へ向けてたった一つの敗因を付き付ける。
確かにお前は強かった。ヒーロー達であっても苦戦は免れなかっただろう。
だが、決定的な敗因は単純明快だ。
「お前は我を敵に回した。その身を持って滅びを受け入れろ」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!??!?!!」
これまでにない怯え、恐怖、嘆きの声と共に雷神は大爆発を起こした。
爆発は雷雲すら吹き飛ばし、天から燦燦たる太陽が顔を覗かせる。
残り0。予定通りだ。
「おっと、忘れるところだった」
地面に落ち往く黄色の鎧。クルセイジャーイエローに向けて一気に飛び、地面に当たる前にその身を受け止める。
意識はないようだが、呼吸は安定している。どうやら生きているようだ。
先ほど撃ち抜いたのは『雷神』の力そのものだ。我ともなれば、肉体を傷つけずに中にいる何かだけ当てるのは造作もない。訓練したからな。
これでヒーローを一人確保完了か。ティルファング共和国を手に入れる予定だったが、ヒーローを一人確保できたのは最上と言っていいだろう。
戦いの結果は皆も見えていたはずだ。とにかくこれで我らの戦争は終わりだ。ティルファング共和国が滅ぶという予想外の結果だがな。
クルセイジャーイエローが起きたら色々と聞くことがある。そのためにも一刻も早く治療ポットに放り込まなくては。
そう思い、我は遠く離れた位置で飛んでいるシルバーイーグルの元へ向かい――風のギロチンが我へ目掛けて放たれた。
今日はここまでです。
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それでは、また次の日曜にお会いしましょう!




