47話 潜入
ティルファング共和国の首都までたどり着いたが、この辺りで一度ストップだ。
何故ならば、ティルファング共和国は三重にも及ぶ城壁に守られた強固な城塞都市。
三つの城壁は奴隷達を逃がさないためであり、敵国からの攻撃を防ぐ防壁でもある。
このまま城壁を壊し、力押ししても勝つことは可能だ。
ノワールスマッシャー数発ぶち込めば綺麗に風穴があくだろうが、その場合はティルファング共和国は間違いなく奴隷達を兵として前に出してくる。
ティルファング共和国が所有する奴隷兵団は使い捨ての肉壁として悪名高く、文字通り死兵として襲い掛かってくる。
進むも死、戻るも死。生き延びるには相手を倒すしかない奴隷達は中々に難敵だ。
死ぬ気でやってくる相手程厄介なものはないからな。
一掃するのはそう難しくはないが、ここはひとつ手を打つことにした。
奴隷達はさぞかし恨みが溜まっているであろう。
ここはひとつ、悪の組織として復讐の手助けをしようではないか。
と言う訳で、今は奴隷達を何とかすべく動いている最中だ。
この仕込には時間がかかるが問題ない。どうせトライデント待ちだ。
現在にらみ合う形になっているが、一気に侵攻したお蔭で王都には兵士達の数は少ない。戦争が始まって五日目なのだ。
近隣の貴族達は兵を集めて間に合ったが、遠方の貴族達はまだこちらに進軍している最中。更にトライデント連合王国も宣戦布告と同時に動き、既に街を二つ落としたと聞く。やはり機動力を生かした騎獣軍団は侮れないな。
「レイ、お前はトライデントの連中の何日後に着くと予想している?」
「そうだねぇ。あちらさんにも結構な兵数が回っているし、こちらからも陽動なりで手を回せば早ければ七日後ぐらいじゃないかな」
直接戦うだけが戦争ではないからな。
補給路の切断や陽動、ゲリラ的な動きでサポートすれば上手く戦況を進めれるだろう。
「判った。一応、我からもトラブル防止の為にトライデント宛に一筆認めておこう」
事前に相手にこういう動きをするがどうだろうかと、連絡をするのは大事な事だ。
報連相を怠れば余計なトラブルになりかねないしな。
「じゃ、ボクの方はこういうのが得意な連中に声を掛けてくるよ」
「だったら元山賊のロドリゲスや元盗賊のバーントに声を掛けると良い。奴らならばその手は得意だろう」
「確かにそうだね。元からそういう事をしてる連中だと気にせずやってくれそうだね」
ゲリラ活動は軍に対しかなり効果的だが、その分かなり忌み嫌われている。騎士や誇りを重視するオーガ達は難色を示すだろうが元山賊や盗賊連中ならばやってくれるだろう。リーダーは栄一に任せておけば問題ない。
シルバーイーグル前に待機していた戦闘員にロドリゲス達を呼ぶように伝えると、首都アルスライを取り囲む城壁が視界に入る。
「やっぱり心配かい?」
「いや、そうでもない」
「おや、いつもの君なら心配の一つぐらいはすると思ったのだけどね」
「いつもならばな。だが、今回は小鴉丸だけでなく美月もいる。心配するだけ野暮と言うものだろう」
「そうだねぇ。美月君は実力もあるし、姿を隠す魔法を使えると聞いた時は驚いたよ」
「あれは見事だったな。我とて集中せねば気配に気づくことが出来なかったぞ」
「ボクは全然だったね」
美月はこちらに来てから色々と魔法を学んでいた。この世界の魔法から魔法少女としての魔法も。
姿を隠す隠蔽魔法もその一つ。一度見せてもらったが目の前で存在感が極限にまで薄くなりそこにいるのに居ないという不思議な感覚だったな。
美月は元々向かわせる予定だったが美月と小鴉丸は首都アルスライに潜入してもらっている。
首都アルスライではすでにランペイジ率いるシャドウ部隊が宣戦布告以前より潜入しており、中で美月達と合流する手筈となっている。
目的は奴隷達を解放するため。これは奴隷兵団も含む。
奴隷達を解放するに当たり、一番の問題になるのはどうやって輸送するかになるのだが、美月達は内部で頑張ってもらう。
今回の作戦で一番重要となるのは銀二だ。
汎用型マニピュレーター式重工作機『マックスギア』(|掘削仕様)に乗り込んだ銀二に通信を入れると直ぐに応答した。
「銀二、やれそうか?」
「バッチリっすよ。特に今回はバックアップがあるっすからね」
作戦は割とありがちなトンネル作戦で行く。
奴隷達を連れてそのまま地上から脱出するのは現実的ではない。追手もかかる上に途中で脱落するものが確実に出る。
空からはもっと無理だな。ゲセルシャフトを動かせればいけるが、通路などの修繕は終わったものの、反重力炉など重要な部分は手つかずのままだ。我が無理すれば動かせるが、行きだけ力を使い果たしては今後が問題になるので却下。
実現可能かつ、一番現実的な所となるとトンネルを掘る作戦が良い。
トンネルならば五キロほど掘れば王都の中心までたどり着くことが出来る計算になっている。シルバーイーグルが偵察用ドローンを飛ばして確認したので間違いない。
特に今回は魔法のバックアップがある。土魔法で掘削したトンネルを固めれば崩落する心配もない。
トンネル計画を立てた際、物資の運搬で困っていた時にアリシアが「魔法でやったらいいのではなくて?」と助言してくれた。
どうやら帝国、というかこの世界では水路を作る際に土魔法で補強しながら掘り進めるのが一般的で、魔法で穴を掘るのは難しいらしい。基本的に人力で掘るしかなく、人の手で五キロも掘ろうと思えば年単位での作業になる。
だが、こちらには重機がある。山だけでなく海底すら道を通した人の技術の結晶だ。
銀二は幾度となくこういった工作に関しては随一だ。一時期はモグラ型怪人と共に巨大地下秘密基地を作り上げたほどだ。今回も上手くやってくれるだろう。
銀二は既にトンネル掘りを始め、美月と小鴉丸達は潜入、栄一はロドリゲス達と共にトライデントの援護。
チャールズは他の戦闘鬼、戦闘員を引き連れて王都に集まる地方貴族軍を各個撃破しに向かっている。
「GOGOGOGOGO!! 左舷薄いヨ! もっとペース上げて! 投石構え、ファイア!! フォックスツー! ファイア!!」
投石といっても侮るなかれ。ベースボールでは投手は時速160km前後を出すという。
ゲセルシャフト屈指の改造手術により、戦闘員は三倍、戦闘鬼は五倍、チャールズは七倍の身体能力を持つ。
急速に大幅なばらつきがあるとはいえ、時速400km~1100kmのこぶし大の石が投げつけられるのだ。その威力は想像するのもおぞましい。運よく板金鎧に当たっても骨折か内臓の損傷。生身に当たれば消し飛ぶ。砕け散った石片で負傷率は倍だ。
こんなのが100発以上も飛んでくるのだ。正直相手にもならず数発で撤退するのもザラだ。
「こ、こんなの騎士の戦いじゃない! 剣を取って戦えぬのか!!」
「騎士じゃなくて戦闘員だヨ!! そんな小奇麗な戦い方はノーですネ! フォックススリー、ファイア!」
「ぎゃああああああ! 撤退、撤退ーー!!」
また悲鳴が聞こえる。
戦闘員の戦い方がこれでいいのかと思ったが、被害が少なくなるのならば問題ないか。
全員が一丸となり動き出した。
我は優雅にシルバーイーグルの艦内で足を組み、ワインを片手に報告を受け取る。
様式美として猫が欲しい所だが、いないものは仕方ない。
我はここで皆の吉報を待つだけの身。
ワインを一口飲み、美月が無事潜入に成功したとの報告書を眺める。
……レイにはああいったが、一番の不安は美月の所だ。それでも大丈夫だと信じている。
どのような奴が来たとしても負ける事はない。奴は我が認めた最強のヒーローの一人だからな。
◆◆◆
『ティルファング共和国』首都アルスライ。
首都では戦争特有の緊張感が街中に広まり、普段とは違う空気が支配していた。
だが、市場は変わらずに賑わっており、住民達が各々に買い物に勤しんでいる。戦争でも腹は減る。食べなければやっていけないのだ。
人々が賑わう市場の片隅では、頭を深く覆うフードを被った二人が路地裏に潜んでいた。それに気づく者は誰もいない。
時折路地裏を通る近隣のチンピラですら、彼女らの隣を素通りする。
チンピラが通り過ぎたのを確認すると、二人は路地裏の奥へと駆けていく。
二人は美月の魔法『エクリプス』により、気配や存在感を著しく薄くしており、獣人の聴覚や嗅覚ですら誤魔化す程の隠匿性を得ている。イヴでも余程集中しなければ見つけるのは困難な魔法だ。
イヴに託されたミッションを果たすべく、二人は中心街へとたどり着き、ほっと一息つく。
「ここまで無事これたでござるな。それにしても美月殿の魔法は凄いでござるな」
「こういうの慣れてなくてドキドキしました。それにしても意外と人は多いですね……。戦争中ってこう……もっと皆引き籠ってるイメージがあったんですけど」
現在パンゲアが首都アルスライを護る三つの城壁のうち、外郭である第一城壁の周囲に軍を展開させている。
危険に敏感な商人が態々こんな所まで馬車を向かわせる訳がない。特に商国の商人は意の一番に共和国から逃げ出している。
唯一、何も知らなかった村人が農作物を売りに来ており、イヴもそれに関しては止めることなく素通ししたお蔭で首都ではひどい混乱は陥っていない。もし、全ての通行を封鎖すればあっと言う間に食料が尽き、共和国は首都のあらん限りの力を結集してパンゲアの軍に猛攻を仕掛けていただろう。
「それで、待ち合わせの場所は何処でしょうか?」
「確か、赤のスカーフを窓枠に吊るしてると……あれでござるな」
二人は窓枠に赤のスカーフが吊るされた家を見つけると、『エクリプス』を解除しノックを五回し合言葉を口にする。
「秘密基地は」
「ロマンである」
ガチャリと扉を開くと、そこにいたのはかつてトライデント連合王国の諜報部隊の長をしていた男、現『シャドウ』部隊の長であるランペイジが顔を出す。
二人とも誰にも見つからぬように滑り込むと、先ほどの合言葉に対する疑問が美月の頭に過った。
「……あの、さっきの合言葉の意味が解らないんですけど……」
「拙者もでござる」
「私もです。多分特に意味はないかと……」
なお、この合言葉の製作者はレイである。話しを後で聞いたイヴですら深く深くため息を吐いたのは言うまでもない。
リビングに通されるとそこには同じシャドウ部隊の面々が待機していた。
ここに来てやっと本格的に一息つけた二人はフードを外し、顔をランペイジに見せる。
「改めて、ミツキ様、コガラスマル様、ようこそいらっしゃいました」
「お世話になります」
「世話になるでござるよ」
シャドウ部隊に所属する一人の女性が皆に暖かい紅茶を配ると、これからについての話が始まる。
「それで、奴隷マーケットの方はどうござるか?」
「予想通り警備が厳重になっており、現在は売買が停止されております。これ以上の移動は無いかと」
「レイさん達の予想通りですね」
「で、ござるな。それと奴隷兵団を取り仕切る者についてでござるが――」
その後、二人はランペイジから手に入れた情報を元に作戦の大詰めに入る。
ランペイジ率いるシャドウ部隊が手に入れた詳細な内部情報、護衛の人数、奴隷の数や位置など詳細を詰めていく。
この潜入部隊の動きにより、この国の奴隷達の運命は決まるといっても過言ではない。
決行はトライデント連合王国が辿り着く七日後。
―――その日は光陰の矢の如く、訪れ運命の日が訪れるのだった。
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悪の組織はコロナに負けない……!




