46話 戦争と魔法『少女』
戦争となり数日後、我らはティルファング領へと進行。
最寄の街で近隣の貴族軍と交戦し、制圧のちに落とした。
うむ。言葉にするとこれしかないのだ。
「圧倒的ではないかわが軍は!」
「イヴさん、それ言ってみたかっただけですよね」
「うむ」
制圧した街を見下ろしていると美月が即座に突っ込んでくるが仕方ないだろう。
これしかいう事がない。
そもそも戦力差があり過ぎる。貴族軍が総勢三千といっても、実際三千と一斉に当たる訳ではない。
一度に当たるのはせいぜい二百か三百。重火器は火縄銃程度で収まり、魔法杖が左程普及していない今は軍隊の動きも陣形を重視に置かれている。
我が『パンゲア』も同様だが、別に馬鹿正直に当たる事はない。
相手の数が多いのであれば、こちらは機動力の利を生かして掻きまわし、隊列が崩れた所を一点突破で突き破る。中央が崩れれば隊列など意味はない。
上空からはアリシア直属の飛竜部隊と小鴉丸による空中からの魔法杖による面制圧で片を付けた。一般的な魔法杖の射程は30m程。こちらは威力の代わりに弾数と連射力、飛距離を伸ばして100m程。
ロングボウならば200m程の射程があるが、それは相手が地上にいる前提。
弓は頭上を狙えず、魔法ですら訓練しなければ困難だ。
頭上からの一方的な魔法攻撃……もはやあれは爆撃だな。飛竜体五人、小鴉丸一人によるたった六人の爆撃だが陣形を崩すには十分。
『ティルファング共和国』の貴族軍はなすすべもなく敗北した。
そのまま軍を進ませ、ティルファング軍を文字通り蹴散らして予定通り3つの街を制圧し、街の郊外で野営をする。
何故街中で休息を取らないのかと言うと思われるだろうが、未だ3つの街とも完全に制圧した訳ではない。
各町共に友好国であるクサナギ国の将軍たちに滞在し、一時的に制圧してもらっている。
こちらは兵は少ないのだ。街の制圧で人手を割くわけにはいかない。
この頼みにテルミズ王も快く受諾してくれた。この機会に連れ去られた奴隷たちを解放したいとの考えもあるようだ。
その辺りは我に考えがあるので、一度パンゲアに送る様に頼んである。
地球でも奴隷解放に関して色々な問題が起きたからな。同じ過ちを繰り返さないためにも手を打つ必要がある。その為にも奴隷マーケットの壊滅は必須だ。
話は戻して、街をクサナギ国の将軍に抑えて貰っているが、下手に我らが入り住民達に不安がらせるよりもここに留まり抑圧や無体を働くつもりはないと示すためだ。口で言うだけよりも、こうして行動で見せる方が効果的だ。百聞は一見にしかずだな。
まぁ……宿よりもゲセルシャフトから出したテントや寝袋の方が寝心地がいいからな。飯も美味いとあれば兵士達からも不平不満の声は聞こえない。
我も今は『シルバーイーグル』の船内で戦後処理を行っている。戦争の最中でも書類仕事は普通にある。
物資の残量や被害報告、各街の状況など。この辺りは疎かにすると、痛い目を見るのは歴史が示している。
とはいえ一人でやっているわけではない。書類が得意なレイ、アリシア、シルバーイーグルの三人も一緒だ。一人でやるより皆でやれば早く終わるからな。
「レイ、こちらの損害はどうだ?」
「軽傷が三十名、重傷、死傷共になし。軽傷の隊員も既にポーションジェルによる治療で完治してるよ。魔法薬さまさまだねぇ」
この世界だと一瞬で治る魔法の薬が本当に役に立つ。何処の軍でも採用している常備薬だ。無論我が軍でも採用し、更に効果的になるようにとレイが改良してある。
大量に生産し、『パンゲア』では薬師や錬金術師、見習いまで雇って大量生産の体制も整えてある。
そのうち、すでに半分は消費してしまったが、それは今まで戦った貴族軍が原因だ。
『イヴ、これ以上の消費は問題だと思われます』
「判っている。流石にこれ以上は使えん」
圧倒的な力で蹴散らされた貴族軍はほぼ壊滅しており、死傷者、重軽傷者多数。投降し無事な者は極わずか。
このまま放置して進んでもいいのだが、痛みは苦しみ、憎しみ、恨みを生む。それが例え、貴族によって戦場に駆り出されたとしてもだ。
「そもそも、敵対した相手を治すこと自体おかしいですわ。流石に甘すぎではなくて?」
「我とて何の考えもなく施した訳ではない。今後の事も考えてある。ここまでして逆らおうとは思わんだろうさ」
「……まぁ、やりやすくはありますわね」
アリシアが渋々ながら納得した。
捕虜とした兵士達には分け隔てなく薬と食料を施した。
何れ我らのものとなる土地だ。反乱の芽は摘むに越したことはない。
生かすも殺すも自由なのだ。そうそう逆らう気にはならんだろう。もしそれでも反抗する気概があるのであれば消すだけだ。
古傷や軽い傷をあっと言う間に治すレイ特製のポーションジェルの効果は劇的だ。
重傷者も捕虜とした軽傷者や無傷の者の手を使い、出来る限りの治療を施す様に命じた。
最悪手足の一本や二本は切れと命じたが、この世界ではそれは当たり前のようだ。
回復魔法などもあるが、それでも手足を治す手段はほぼない。
唯一『ニーベルング神聖教国』の聖女とやらが治せるらしいが、我らには四肢切断ですら治す技術がある。
死にさえしなければ助ける手段があると伝えると、驚きながらも従ってくれた。
ふむ……この手は使えるな。戦後にアリシアと相談しよう。
兵士の全てを改造人間に仕立て上げ身体能力を引き上げた甲斐もあり、一日で三つの街を落とした強行軍だというのに兵士達は平然としており、外から笑い声まで聞こえる。
激しい訓練を乗り越えた連中だからな。この程度ならば問題ない。100キロの荷物を背負い、三日の行軍と比べれば楽なものだ。
それに敵の一部は略するために我が出張って壊滅させた。
こう、グラビトンでぷちっと。
死傷者は出さなかったが、全員押さえつけられ首元に刃を付き付けると直ぐに降伏した。たまにはこうやって力を使わんと加減の具合を忘れる。
美月もまた、大砲を防壁で防ぎ兵士の被害を大幅に減らすだけでなく、臨機応変に防壁を叩きこんで多くの敵を噴き飛ばしていた。
彼女の力が無ければ被害は増えていただろう。
「そういえば、美月はどうした?」
「彼女ならば先にお風呂に入っているよ。流石に戦場の気に当てられたからか、きつそうにしていたからね」
「……まだ14歳だからな。もっと気を使ってやるべきだったか」
最強の魔法少女の一人とはいえ、精細な年頃だ。怪人と言う分かりやすい悪との戦いではなく、人と人とが殺し合う戦争は酷というものか……。
「14歳といえば、イヴ様もそろそろ切り上げた方が宜しいのではありませんか?」
「む、我はまだ大丈夫だが」
「だーめ。イヴは精神はともかく身体は13歳相当だよ? 成長期なんだし休まないと」
思った以上に我の身体、低年齢でびっくり。
『成長の阻害になる可能性があります。イヴ。残りは私達がやりますのでお休みください』
やれやれ、シルバーイーグルにまで言われたらこれ以上は無理か。艦内は全てシルバーイーグルの思うがまま。抵抗するだけ疲れるというものだ。
「ハァ、わかった。だがお前達も無理はするな。まだ戦いは続くのだからな」
「判っているよ」
「その辺りの分別は出来てますわ」
『私は疲れと言うものはないので引き続き行います』
機械の身体はこういう時羨ましいと思うぞ。
さてと、あいつらの好意に甘えて美月の様子でも見にいくか。
予想通り、美月はまだ入浴中だった。
本来ならば、入るのにも躊躇するのだが、今回は別だ。
「美月、入っても大丈夫か?」
「……え、イヴさん!? あ、はい……大丈夫です」
声色の所々に憔悴した様子が見える。無理していたか……。
入浴用の桶に色々詰めて風呂場に入ると、湯船の隅で美月が足を抱え込んで座っていた。
タオルは付けておらず、中学生に不釣り合いな大きな胸が膝で押し潰されてるが見えない事に我はホッと安堵する。
「イヴさんが一人で入りにくるって珍しいですね」
「稀にはな」
出来るだけ見ないようにしながら、掛け湯して湯船に入ると何かに気付いたのか美月が慌てて我の元に来る。
「あっ! もう、イヴさん。お風呂入る時は髪を纏めないとダメですよ!」
「む、すまんな」
最近は一人で入るようにしていてすっかり忘れていた。
豊かな果実が目に入るが美月は全く気にすることなく我の頭に両手を回して髪を覆うようにタオルを撒く。
「これで大丈夫です。あれ、イヴさんその桶の中に入ってるのって」
「牛乳だ。風呂に入りながら飲む一杯は格別だぞ。無論美月の分もある」
「お風呂に入りながら飲む……罪悪感があるけどそそりますね」
「ふふ、ヒーローとしてはあるまじき所業だろう。今は我らの仲間なのだからこれくらいは当然だ」
「……そうですね。仲間だからお風呂入りながら飲んじゃってもいいですよね」
キンキンに冷えた牛乳瓶を美月に渡すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「そうですよね……、今、私はイヴさん達の仲間」
「ああ。だから相手の兵士が死んだことは気にするな」
「……はい。クサナギ国の時は……こうじゃなかったんですけど」
「あの時は相手が明確な悪だと心の中で思っていたのだろう。今回は違う。大義名分があるにせよな」
「私の攻撃で、人が死にました。私が……人を……命をっ……」
今、ヒーローとしての矜持が美月の心を苦しめている。
防壁だけでなく、防御壁を敵兵に叩きつけ制圧したが、この戦いでは既に相手側に多くの死傷者が出ている。
その手を下したことに美月の心が悲鳴を上げている。
これがクルセイダーズやデモンロイドならば別だっただろう。
あ奴らは自らが敵と断じた相手を殺す事に躊躇も後悔もしない。それを乗り越えるだけの下地がある。
魔法少女は違う。その名の通り『少女』なのだ。まだ心が育ち切っていない子供だ。
ならば、その子供を護るのは大人の仕事だ。
「違う。我が殺せと命じた。美月を戦場に駆り立てたのは我だ。その責はお前でなく、我にある」
「そんなっ……!」
「もっと大人に頼れ。お前はまだ子供だ。我らの所為にしろ。大人は子供を護るものだ。それとも何か、そんなに我らは頼りないか?」
「そ、そんな事はないですけど……」
「それにな、殺してしまったという事実にばかり目を向けるな。お前が救った命にも目を向けろ」
「私が……救った命?」
どうせ見てるだろう。シルバーイーグル。
「シルバーイーグル。外で騒いでる連中の映像を映せるか?」
『了解しました。投影します』
我らの前に半透明の画像が現れる。そこでは野営しながらも楽しそうに歓談する戦闘員達の姿があった。
その中でとある戦闘鬼と戦闘員の集団にズームする。
大柄なオーガの男が隠れるように一枚の写真を見ながら酒をちびちびと飲んでいる。
そこに無精ひげを生やした男、確かガドラムの報告に上がっていたクーダラン公爵の元にいた騎士がやってきた。名前はザックだったか。
『一人で飲んでると思ったら何だそれ? 妙に綺麗な絵だが』
『こいつはシャシンってんだよ。ちょいとチャールズ隊長に頼んでガキの姿を取ってもらったんだ』
『はー! まるで本当にそこにいるみたいな絵だな。ガキって事はそいつはお前の子か? 幾つになる?』
『今年で六つだ。まだまだヤンチャ盛りで母ちゃんを困らせてるぜ』
『ははっ! ガキは元気が一番だ。『パンゲア』に来て本当にそう思う』
『里に入る頃はひもじい思いをさせてしまったが、今じゃ元気いっぱいに近所の人族の子供と一緒に遊んでいるよ。すくすく育ってな……ボスには感謝してもし足りない。それにあの子にもな』
戦闘鬼はぐいっと酒を飲み干すと、酒精漂う息を吐いていた。
『あの子っつーと、ミツキって子か』
『ああ。あの子が砲弾を魔法で防いでくれたおかげで命拾いした。強くしてもらったとはいえ、死なない訳じゃないらしいからな』
『ガキの為にも死ねぇモンな』
そういうザックの眼は何処か遠い所を見ているかのようで、戦闘鬼は写真に写った女のオーガと子供のオーガをじっと見ている。
『ああ。ボスの為にもだが、ガキや母ちゃんの為にも生きて帰らないとな』
『か~いいねぇ、そういう家族がいるって奴は。俺もそろそろマジで嫁さん探すかな』
『おう、そうしろ。なんなら、知り合いの女でも紹介するぜ』
『それってオーガだろうが! あ、でも紹介だけ頼む』
和気あいあいと他愛もなく、故郷を、家族を、友人の話を戦闘員達はしていた。
美月が守った光景だ。失った物ばかり見ていた美月は、その彼らの姿を見てうっすらと涙を浮かべていた。
「後ろを向くのは良い。だが、その後ろで支え、感謝する者達の事も見ろ」
「……はい」
美月はぐいっと勢いよく牛乳を一気に飲み干し、我もそれに習って飲み干した。罪悪感の味だが、これが良い。
「お風呂で飲む一杯は格別ですね。……あの、イヴさん。たまにはこうやって一緒に……」
「良いぞ。今度はアイスも持ち込もう」
「ふふ、悪い子ですね私達」
「悪だからな」
二人そろって笑いだす。もう美月に取り巻いていた影はない。
これならば大丈夫だろう。
後ろには倒した者だけでなく、救った人たちが支えてくれるのだと理解したのだから。
これからもっと苦しい戦いも悲惨な戦いも見るだろう。ヒーローと対峙する事すらあるだろうが、これなら大丈夫だと我は断言できる。
より一層、魔法少女『プリズム・ムーン』天王寺・美月と絆を結ぶことが出来た夜だった。
その後、二日間止まることなく進軍し続け、四日目の朝には奴隷マーケットがある『ティルファング共和国』の首都、アルスライを目前とするのだった。
その間の戦い? 防衛を任されていた貴族軍がいたがアレは戦いになっていない。 ただの蹂躙だ。特筆するようなものもなく、蹴散らされ敗走。中にはあっさりと降伏して下った貴族すらいた。潔いのは良いぞ。奴隷も先んじて解放していたしそういう素早い動きは好評過だな。
このまま順調に進むと皆は思っているが、我はそうは思わない。
一人、この地に置いて死んだ部下がいる。『ルートズ』と見破り殺すだけの技量を持った明確な敵がここにいる――。
連続更新はここまでになります。次回は日曜投稿予定です。
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