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45話 戦の前に

 奴隷解放要求と言う名の宣戦布告状を付き付ける前、我は美月に戦争について説いた。


「美月、戦争で勝利以外で一番優先すべき事なのは何なのか判るか?」

「え? えっと……補給、でしょうか? 前に補給路を絶たれると、一気に不利になるって聞いたことがあります」

「ふむ、確かにそれは間違っていない。だが、一番は被害を抑える事だ。それをするには何が一番か、判るか?」

「被害を抑える……には……、えーと……あっ! 早く終わらせることです!」

「正解だ。戦争において、時間を掛けてはいけない。時間を掛ければかけるだけ、被害が大きくなり、落としどころすら難しくなる。今回の戦い、美月には最も大事な任務を請け負ってもらう」

「……それが戦争を早く終わらせることになるんですよね?」

「ああ。その為にも美月の力が必要だ」

「じゃあ、私やります!」


 こうやって迷いなく受けてくれるのは流石は魔法少女と言うべきか。ヒーローとは言え、少女に酷な場面を見せてしまうだろうが、美月ならば乗り切ってくれると我は信じている。



◆◆◆



 そのためには様々な準備が必要だ。


 戦争するに至り、まず優先するべきは兵士の増員だ。

 その兵数の数は凡そ千。治安維持の騎士達を除けば五倍ほどに数を増やした。

 この兵達は宣戦布告を付き付ける少し前に、辺境伯他反乱貴族達が有していた兵士達は全員新たに我らの兵として雇い直している。

 烏合の衆という言葉もあるが、数は力もまた真理。

 下手に彼らを野放しにすれば野盗や山賊になり、ティルファング共和国に内通されれば折角安定していた治安がまた乱れかねない。

 それならと多少の負担がかかるとしても兵として雇う方がいい。費用は取り潰した貴族達の財産から捻出しているので大した負担でもないがな。

 無論、全員2~3倍程度の改造手術を施している。時間の都合上。千人規模の改造だとそれが限度だ。

 今、我と美月の前では改造された身体を馴染ませるために、兵士達が全速力で走り回っていた。後ろから追いかけるのはオーガのキバオウだ。手には大金棒を持っている。何処の鬼だ――異世界の鬼だった。


「がっはっはっはっは!! 走れ走れ! 追いつくぞ!!」

「ひいいいいっ!!!」

「前よりも、走れるようになってるけどあのオーガはえええぇえええ!!!」

「スタミナも何か増えてっけど! 怖さだけは変わらないって何だよ!!」


 阿鼻叫喚の声が聞こえるが、これもお前達が生き延びるためだ。頑張ってほしい。

 栄一達も乗り越えた訓練だ。お前達ならやれる。……栄一の時は八面六臂の鬼型怪人だったからな。あれは我ながらやり過ぎたと思った。


「やっぱり、戦闘員さんたちは速いですね。ちょっと懐かしいです」


 そんな光景を美月は見ているが、動じておらず兵士達の動きに感心している。

 ……ちょっとうちに馴染みすぎてないだろうか。もっとこう、慌てるとかするだろう。

 馴染んでくれた方が助かるのでいいのだがな、うむ。


「それにしても、あんなに早く手術が終わるものなんですね」

「それ専用のアンドロイドがいるからな。お前達が戦闘員製造工場を潰さずにいてくれて本当に助かったぞ」

「あはは……光ちゃんが先に総帥さんを倒すべきだと主張してましたので。何が幸いするか判りませんね」


 全くだ。

 戦闘員の手術に関しては8割は自動化が住んでいる。これには洗脳も含まれ、洗脳に関しては裏切ることに対しての強い罪悪感程度で済ませている。この辺りを強くすると精神に負担が掛かったり、色々な問題が起きかねない。

 己の意志があってこそ、いざという時力を発揮するものだ。完全なる洗脳はタダのロボットと変わらん。それはそれで使い道はあるのだが。

 残り2割はレイとシルバーイーグルによる調整だな。オーガ達の改造手術もここに含む。細胞単位で違うので、こちらは早々自動化は不可能。

 個人個人の聞き取り調査やアンケートなど、その結果により再調整することがある。下手な強化で大けがしてはうちとしても困る。

 

 兵士達は元々各領地で雇われていた事もあり、訓練要らずとは言わずとも、強靭な身体に慣れてもらう程度の訓練で済んだのは幸いだった。これならば即戦力として申し分ない。

 危険手当も弾むと言ったら全員喜んでいた。一部は泣く程に。……元の雇い主たちは相当低賃金で雇っていたようだ。


 人数が増えたとなると、出来る事が増える。その一つが特殊部隊の設立だ。


 次の訓練室に移動すると、そこでは大勢の兵士達が魔法杖を使った実戦さながらの戦闘訓練が行われていた。訓練室のフィールドは市街地だ。

 数人のチームで組ませ、絶え間ない射撃。陽動から強襲など、およそ騎士道精神から離れた戦い方だが、これが異常に山賊達と盗賊達に合っていた。

 各チームで勝敗を競わせる中、既存の剣や槍をメインにする騎士達が押されるかと思いきや、連携して動くことに関しては一日の長なのか、魔法杖を牽制に使い近接戦に持ち込み、盾や剣で制圧する動きは目を見張るものがある。


「行きますよ!!」


「くそっ!! エーイチさんがくる!! 止めろ!!」


 今も栄一率いる騎士チームがオーガチームを栄一が陽動し、それに意識が向いた瞬間に盾で身を隠しつつ、足を魔法で斉射。

 訓練なので実際の怪我はないものの、痛覚はそのままだ。痛みで怯むオーガ達に追い打ちをかけるようにしゃがんだ首目掛けた模擬剣が振り下ろされる。

 一人が倒れ、人数的に不利になるも身体的に人間よりも屈強なオーガチーム。そこから騎士達を3人倒すものの、魔法杖の集中砲火を受けオーガチームは敗北した。あれの敗因は栄一に意識を向けすぎたのもあるが、咄嗟の動きがまだ甘い。

 それでも動きは及第点といったところか。

 眼前で殆どが息を荒くし、倒れこむか座り込む中、唯一平然としている栄一に向けてガラス越しに通信を繋げる。

 

「栄一、各部隊の魔法杖の習熟度はどうだ?」

「はっ! 第一、第二、第三、第六、第十部隊は合格ボーダーラインを超えています。第四、第五、第七、第八、第九はもう少しといったところです」

「そうか。ならば第九オーガ部隊は次の段階に行っていい。見た所、魔法杖とは相性が悪そうだ」

「了解。他の部隊の訓練は引き続き行い、締め切りまでには終わらせます」

「頼んだ。だが無理だけはさせるな」

「勿論です」


 無理をさせて故障しては元も子もないからな。

 魔法杖はエッケザックスが所有していたもので、アリシアがカスタマイズできるという事なので、威力重視から弾数と飛距離に重点を置かせ、現代の重火器に近くしてみた。

 比較例がエッケザックスとウケラノス帝国しかないが、基本的に姿勢を低くし、隠れながら打つ事をしない。

 制圧だけに重点を置き過ぎて、遠~中距離から強襲できるという利点を活かせていない。

 元々魔法という術があっただけに、自然と戦い方も寄せてしまったのだろう。

 だが、それは一方で好機でもある。

 どの国も、遠距離から強襲できるという利点に気づいていない。いち早く部隊を作れば、それだけ戦いにおいて有利となる。

 特に今回の戦いはこの特殊部隊が重要となる。


「美月、全員の顔をしっかりと覚えるんだ。この者達、全員が――美月、お前の部隊だ」

「……はい」


 美月は手が白くなる程に強く握りながらも、全員の顔を覚えようと目を凝らしていた。

 それは戦争を忌避するような幼い少女の顔であり、同時に戦いに挑む戦士の顔。


 美月よ。魔法少女(お前)ならできる。魔法少女(お前)だからこそできる。

 だからこそ、お前にこの部隊を託したのだ。

 それが―――最も人を多く救う手段だから―――。



 この日より数日後、『ティルファング共和国』は『パンゲア』の書状を宣戦布告として受け取り、戦争となった。

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