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43話 大義名分

「軽傷一人、重傷、死亡者ゼロ。初の任務としては上出来だろう」

「だね。元より怪人よりのスペックなせいか特に戦闘鬼達の戦力が群を抜いている」


 さて、初の軍事行動として元エッケザックスの各貴族達を凹るお仕事は何の問題もなく終わった。

 負傷者は太った山賊の一人が足首を崖から飛び降りた際、くじくなどの軽傷が出たぐらいで特に問題はない。足首くじいた山賊はダイエットと三日程度の療養休暇を与えた。足をくじきながらも仕事はしているからな。評価はしっかりとする。


「それで、各国の動きはどうだ?」

「おおむね予想通り。報告を聞いて大慌てのようだよ」


 あの軍事行動は各国への牽制でもある。

 如何に我らがゲセルシャフトの戦闘員が屈強と言えども、連戦の疲労は堪える。

 パンゲアに仇を成そうとする貴族たちの征伐を『ルートズ』を使い各国に伝えたので、あの戦いは多くの国々が見ていただろう。

 我としてはロケットランチャーの一つぐらいは見せて度肝を抜きたいと思ったが、その後の調査によると運送用の大型バスやトラック、そして少数精鋭による各個撃破は各国を相当驚かせたようだ。

 その中でも特に驚かれたのは”戦闘鬼”のキバオウ、ガドラム、盗賊頭のバーント、山賊頭のロドリゲスの四人だ。

 ガドラムはクーダラン公爵領を護る鉄壁の城壁を易々と飛び越え電光石火の速度で古城を落とし、キバオウは辺境伯の私兵を300人をたった一人で殲滅し、盗賊頭のバーントは支給されたバイクを巧みに使い部下と共に160人以上の騎馬兵を倒し、山賊頭のロドリゲスはダスト伯爵領の難攻不落の山岳砦を落とした。

 旧エッケザックスを北、東、南と三方からの侵略を食い留めていた貴族達を完膚なきまでに真正面から打ち倒した話は噂に多少の尾ひれを付け加えて国々は震えあがっているとの事。まぁ、その噂の出所は我らの仕込だが。


 今回の戦いで敵対した貴族達は全員捕えており、後日公開処刑となる。国を裏切った者達だ。今後の憂いを無くすために、一族郎党全て根切りだ。


「しかし、君も甘いね。子供だけは見逃すなんてさ」

「……ふん。我がこういう性分なのはお前が良く解っているだろう」

「ああ、だからこそボク達は君についてきたんだ」


 本来ならば子供含めて全てを処刑すべきなのは理解している。アリシアも国賊は断固として処刑すべきだと主張していた。

 それに真向に反対したのは美月だ。子供に罪はないので、殺すべきでないと。

 ヒーローらしい美月の主張だ。悪の組織としてはその主張を抑えこみ、子供であろうとも非情になるべきだというのは分かっているが、代りの案を飲ませることで美月、アリシア両方を納得させた。


「子供たちの方はどうなっている」

「処刑される貴族たちの10人の子供たち、全員の記憶処置は完了。貴族としての記憶の全てを消したよ(・・・・)」

「そうか」


 命を助ける代わりに、今までの記憶の全てを消す。勿論、日常を過ごすには不自由ないが全員生まれた時から孤児院で過ごし、シスター達に育てられた仮の記憶を刻んだ。『ルートズ』と同様の処置を施したので、二度と記憶が戻ることはない。

 それが我が出来る最大限の譲歩だ。これ以上は組織を治めるものとして出来ない。

 

 今回の戦いで得たのは大きく分けて三つある。


 一つは他国への牽制。力を見せる事により、攻めづらくさせる。やり過ぎると結託して襲ってくるが、内部から情報を弄ればそれも解決できる。

 二つ目は大規模な領地。

 各領地は一度王家直轄地となる。この場合だと我だな。

 土地の使い道は多い。貴族への報酬は勿論として、実験場や移民対策など様々だ。艦内で出来ない作業が出来るのは非常に大きい。大規模な農業地帯として開拓するのもありだ。ジャガイモ、トウモロコシ等穀物の類はぜひとも作りたい。


 そして三つ目だが、大義名分だ。

 戦争をするからには民衆を納得させる理由が必要だ。専守防衛で返り討ちにし続けて取るなんて手を取ってはいつまでたっても世界征服することは不可能。何かしら理由を作る必要性がある。

 

 事前に調べていた時にテーバイ辺境伯が奴隷売買に手を染め、他領から攫った民衆を売り飛ばし他国から奴隷を買っていたらしい。売り飛ばされた人の中にはクサナギ国の獣人も含まれる。

 

 この世界の奴隷について二つの種類がある。

 帝国法でも唯一奴隷として扱われる犯罪奴隷。殺人や強盗など重犯罪者が主にこれだな。

 所持できるのは国だけで、大貴族であろうとも所持することは出来ない。

 犯罪奴隷の使い道は強力な魔物相手の肉壁や人体実験など人扱いはされない。王族用の愛玩ペットとして使われることもあるとアリシアは言っていた。


 もう一つが違法奴隷。名の通り非合法に奴隷身分へ落とし、人権の全てをはく奪し道具として扱われる。

 道具とされた人の行く末は語るまでもないが、悲惨な末路しかない。性的に扱われ、嬲られ、使い潰された末にその存在すら消される。

 所持するのは王族でさえ厳禁で発覚すれば帝国の名の下に王権の剥奪、貴族であれば犯罪奴隷など重罪となる。王族や貴族としては死刑宣告に等しい罪だな。

 エッケザックスの王族でさえ犯罪奴隷は所持しておらず、あの王子……もう名前は忘れたからいいか。あれでも犯罪奴隷は持たなかったほどだ。

 だが、テーバイ辺境伯は違った。


 テーバイ辺境伯は長年エッケザックス国に忠誠を誓いながらも密かに他国とも内通し、奴隷売買に手を染めていた。

 クサナギ国との戦争の際も”他国に兵の動き有”と嘘の報告を国に流し国境線の防衛をする為に戦争に参加しなかったとされるが、その実は我が『パンゲア』と接する『ティルファング共和国』の外交官と密会をしていたようだ。

『ティルファング共和国』は『パンゲア』と『トライデント連合王国』と接する国で『グランギニョル王国』の傘下にある。

 人族至上主義の『グランギニョル王国』では奴隷売買は認められており、エルフ、ドワーフ、獣人等多くの亜人達が売買されている。その傘下国の『ティルファング共和国』も同様だ。

 テーバイ辺境伯は密かに多くの奴隷を買いこんでおり、保護した時には38人もの奴隷が保護された。

 ……無論、それまでに亡くなった奴隷の数を数えると考えたくもない。


 移動にトラックや大型バスを使ったのには戦闘員を迅速に運ぶ為でもあるが、移動するのも困難な奴隷たちを運ぶためでもあった。

 車両は壊されては堪った物ではないので、最寄りの街に待機させ連絡が届き次第動く手筈になっていた。その甲斐もあって全車両無事だ。


「レイ、保護した奴隷達はどうしている?」

「全員奴隷紋を解除して、治療が必要な物はポットに放り込んで、他の人達には暖かい食事に風呂を与えたらぐっすりと寝てるよ」

「そうか」


 奴隷紋は犯罪奴隷に刻む呪いの一種で、命令に逆らうと心臓が握りつぶされる激痛が襲うらしい。

 奴隷紋を刻むのは国所属の呪術師で、解除も本来ならば呪術師しか出来ない筈だが……まぁこっちには便利すぎるヒーローがいる訳で。


「美月には感謝だな」

「敵に回すと厄介だったけど、味方になると本当に良い子だねぇ。取り込めて本当に幸いだよ」

「全くだ」


 美月は治癒や防御に秀でた魔法少女だ。治癒の中には毒やマヒ、呪いといった物まで含まれる。

 悪化するわけでもないし、解けるかどうか試しにやらせてみたらあっさりと解けたのだ。

 これでだめだったらヒルダに呪術師を派遣してもらうところだった。

 無論、対価も払うつもりだったが、ヒルダの場合は何を要求してくるかわからんからな……。

 下手するとこの身を捧げよとか、嫁になれとか言って来るかもしれん。いや……流石にない……か? 考えるのは止そう、うん。

 

 捕えた奴隷達は小一時間もあれば全員の解呪が完了した。美月には後でご褒美にケーキでも焼いてやろう。

 今回、戦いに参加した戦闘員、戦闘鬼の皆には数日の休暇と少ないながらも特別賞与を渡してある。

 働きに応じた報酬はしっかりと払わんとな。激しい戦いのあとは休ませる。ヒーローとは違うのだよヒーローとは。

 今頃は経済を回す為に飲み食いや趣味に金を使ってくれているころだろう。因みにロドリゲスの趣味は手芸だ。冬の山で暖を取るために覚えたらしい。物凄く意外だな。


 辺境伯の記憶を探った結果、『ティルファング共和国』において大規模な奴隷マーケットの存在が明らかになった。

『パンゲア』としても非人道的な奴隷マーケットの存在は許す事が出来ない――と言う大義名分の名の下に『ティルファング共和国』を攻める理由を作らせてもらった。

 これに関しては『トライデント連合国』にも情報を流している。向こうも奴隷売買は違法なので、横から我らを突くともなれば国外だけでなく国内からも批判が出るだろう。

 近いうちに共闘の誘いがあるはずだ。というかそういう風に仕向けているのだが。


「仕込は上々。慣らしも済んだところで『ティルファング共和国』を取ろうか」

「ああ。下の者ばかりを動かすわけにもいかんからな。次は我らが動く時だ」


 我らが動くとなれば、ヒーロー達も動く可能性が高い。そういう運命なのだ。我らは――。



 借金奴隷はいませんが、代りの罰則があります。それはまた別の話で。

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