42話 各個撃破(領地ごと)
その日、クーダラン公爵領にとある一団が行軍していた。
「き、来たぞ! 報告にあった黒の一団だ!!」
「『パンゲア』の騎士が、もうこんな所まで!!」
その一団は全員が統一された黒い鎧を纏い、隠れることなく威風堂々と目的地――クーダラン公爵がいる古城へと向けて足を進める。
城に向かうには幾つもの関が設けられ、その事如くが彼らの手により突破されている。
彼らの後に残るのは打ち倒された兵士のみ。
それはこの領地へ入ってから変わらない。野営する時でさえも隠れることない。
現実を受け止める事が出来ない馬鹿な貴族達へ『パンゲア』の力を見せつける為に。
逆らう事さえ出来ない様に、圧倒的な力と――圧倒的な慈悲を見せつけた。
ガドラム達はこの領地に入る際、食料品からポーション、解毒薬から解熱剤まで多くの物資を持たされていた。
これらは全て重税により困窮する村や街の為に用意したものだ。
事前の調査により、クーダラン公爵は富を満たす為に生きるギリギリの税を領民たちに課していた。
餓死はしないが、決して腹は膨れることなく、家を直す事も適わぬ。病気になれば薬を買う金すらない。もし流行病ともなれば村ごと焼かれる。それがこの地に生きる人々の暮らしだった。
イヴはそこに目を付けた。飢えた村があれば食料を、家が壊れていれば修繕し、病気があれば薬を。
調査によってどこの村が何に困っているかも判っている。ならばあとはそこに用意した物資が詰められた箱を置くだけだ。
一人当たり60キロ相当の物資を運びながらの行軍だが、その程度で戦闘に負傷をきたす程柔な鍛えられ方を彼らはしていない。
村に在住する兵士の妨害はあったが、日々に困窮する村人たちは『パンゲア』の騎士達を大いに感謝していた。中には涙を流し、自分達よりも巨大な騎士達の手を取り感謝する老婆もいたほどだ。どうやら孫娘が病に侵され、死を待つだけだったらしい。
「ありがとう、ありがとう!!」
「あ、ああ……俺達は言われて運んだだけだ。子供、治るといいな」
生まれて初めて言われた感謝の言葉に、どこか心が温かく感じた『パンゲア』の騎士達は足取りも軽く先へと進む。
それは通る村々で行われ、妨害もなく予定よりも早く古城の門前までたどり着いた。
門前には全戦力であろう百を超える兵士達が剣や槍を手に持ち構えていた。
「そ、総員かかれ!!」
騎士兵長の命の元、百余名の兵士達が15人の集団に襲い掛かるが―――鎧袖一触。
常人よりも太い丸太のような剛腕により薙ぎ払われ、剣や槍は鎧に傷をつける事は適わず、人以上の脚力を持って追い打ちをかける。
彼らは全員人ではない。それはヘルムから突きだした大きな角が彼らがオーガである事を示していた。
ゲセルシャフト特製の改造手術を受けたオーガ達。のちに戦闘鬼と呼ばれる者達だ。
第三戦闘鬼のリーダーであるガドラムは未知の手術と過酷な訓練の成果をいかんなく発揮し、油断なく攻め立てていく。
「城壁から魔力反応! 全員障壁展開!」
「「「「障壁展開!!!」」」
僅かな魔力の流れを感じ取ったガドラムはゲセルシャフト謹製、”ブラックアーマー”に加えられた機能。
障壁――いわゆるバリアを展開させる。
これは対魔法少女用に開発した機能で、物理・魔法・超能力といった数多くの攻撃をある程度無効化することが出来る代物だ。
これにより軍は勿論、有象無象のヒーロー達でさえも戦闘員達相手には苦戦を強いられるようになる。
そしてそれは異世界でも同様。
城壁に待機していた魔法使いの集団が一斉に火球の魔法を放つ。
以前であれば屈強なオーガでも一撃で倒せるであろう力を持った火球だが、それらは全て彼らの周囲に展開された障壁に防がれた。
(魔法ですら防ぐこの鎧。やはり素晴らしい物だな)
ゲセルシャフトの技術にガドラムはもはや感心するしかなかった。つい数か月まで絶滅寸前だった自分たちがたった15人で領地を取れるほどの力を得たのだ。
以前の自分達ならばこの力に慢心するところだが、今の彼らにそれはない。上には上がいる事を痛いほどに身を持って思い知らされている。
自分達を覆った砂煙、この機会を逃す手はなくヘルムに内蔵されている短距離用通信マイクに切り替える。
『障壁を展開しつつ突入する! 後に続け!』
『『『『サー!!』』』
ガドラムの指示に隊員たちは一斉に声を揃え、『突撃!!』の合図とともに城壁の上にいる魔法使いの集団へ向けて飛んだ。
「え?」
「おおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
今の魔法で倒しただろうと慢心していた魔法使い達は無傷で現れ、六メートルもある城壁ですら飛び越えてきたガドラム達に呆気にとられ魔法使いは一瞬動きを止めた。
その一瞬こそが命取り。以前であればオーガ達も同じだっただろう。
最前にいた魔法使いの一人が大剣の一振りで吹き飛び、血しぶきが舞う。
「ひいいいぃぃ!!」
「お、オーガの筈だろ! なんで今ので生きてるんだよ! なんで壁を飛び越えられっ」
困惑していた魔法使いの男は最後まで言葉を紡ぐことが出来ず、ガドラムの部下が振るった大金棒の一撃で粉砕される。
今までのオーガの常識を覆すようなガドラム達に魔法使い達はなすすべもなく蹴散らされていった。
十秒にも満たない時間で十数名の魔法使いの集団は躯を晒すも、ガドラム達は気を緩めない。
一瞬の油断が命取りになるのは目の前に転がる魔法使いだったモノが示している。
ガドラム達の足を止めれる者達はもはやいない。
「撃て!! 撃てぇええ!!」
古城の中では違法に手に入れたのだろうか、魔法杖を持った兵士が岩や炎の弾丸を放つも、それらは全て障壁に防がれ切り捨てられ、とある兵士は無謀にも挑み切り捨てられた。
投降した兵士には古城にいる文官や使用人達と共に一室へに集まる様に促す。
ガドラム達は皆殺しを命じたられた訳ではない。即時速やかな制圧が今回の任務だ。そのためには非戦闘員達の協力は必須。
無精ひげを生やした中年を過ぎた不良騎士という言葉が似合いそうな騎士が剣をガドラムの部下に手渡す際、内心を吐露する。
「投降した俺が言うのも何だが、話に聞くオーガとは全然違うんだな」
「俺達にも色々あったということだ。少なくとも『パンゲア』は……いや、俺達の主であるイヴ様は俺達が仕えるに値する素晴しい方だ」
「ははっ。俺もこんなクソ貴族じゃなくて、お前さん達のようにそのイヴ様に仕えたかったよ」
「そうか。なら非戦闘員を集めて回ってくれないか。俺からイヴ様に口添えをしてみよう」
「おっ、ありがたいねぇ。ついでに俺みたいな連中には心当たりがあるから、集めるついでに皆に声を掛けて回ってくるよ」
「助かる」
「なぁに、ゴマすりは俺みたいな騎士の十八番って奴だ」
不良騎士はひらひらと手を振りながら、頼まれた仕事を果たすべく足取りも軽く走って行った。
全く持って騎士らしくはないが、ガドラムは彼に好感を抱いた。彼ならばイヴに仕えるに値するだろうとも思い。
古城は警備の関係上入り組んでいたが、ガドラム達には何の障害にもならない。
事前に諜報部隊『シャドウ』からの報告により、政務室、騎士団の詰所、隠し通路など古城の詳細全てが明らかになっている。何故かへそくりの場所まで記されていたりするが。
ガドラムは部下を半分、隠し通路に配置し、自分たちは堂々と真正面からクーダラン公爵がいるであろう隠し部屋へと向かう。
隠し部屋は巧妙に隠されていたが、開ける手順も全てここの密偵から情報を抜き出しており、何の障害もなく隠し部屋の扉を開いた。
「しねぇええええ!」
「ふんっ!」
扉の先では豪華な鎧を纏った騎士が長剣を振りかぶっていたが、ガドラムが手甲の拳を打ち込むと壁端まで吹き飛び一撃でぴくりとも動かなくなる。
薄暗い灯りだけが照らす室内では、丸々と肥え太った典型的な強欲貴族が必死に買い集めたであろう財宝を持ち逃げ出そうとしていた。連れ添う女性も、その息子も同様で重税によりかき集めた財産を持って他国へと逃げるつもりだったのだ。
「お前がクーダラン公爵だな」
「あ、ああ。お前は『パンゲア』の騎士だな」
「そうだ。既にこの城は墜ちた。大人しく投降しろ」
「くっ……! そうだ! 金だ! これだけの金をやる! だから儂を――」
ガドラムはクーダラン公爵に最後まで言わせなかった。
領民たちから搾り取った金で自分達を買おうとしたことに憤りを隠せなかったガドラムは、怒りのままにその拳で肥え太った身体を殴り飛ばした。
クーダラン公爵はゴムまりのように吹き飛び、壁に打ち付けられて気絶する。辛うじて殺さないだけの理性はガドラムにもあった。ガドラムが完全に切れていれば大剣を使わずとも人を肉塊へと変える事は容易い。
『決して殺さずに連れてくるように』
イヴから厳命が無ければ怒りのままに殺していただろう。
深く呼吸を吐き、上った血を落ち着かせると冷静に部下達へと指示を出す。
「はぁ……、総員。こいつらを縛り上げろ。王都へと連行する」
「はっ!!」
「隊長、俺は馬車の確保をしてきます」
「俺は文官達に今後の説明を」
「ああ、頼む」
各々が得意な事を活かし、その場から散っていく。
こうしてエッケザックスに根付き、悪辣の限りの末に逃げ出したクーダラン公爵領は『パンゲア』の手によって制圧された。
近日にはカース子爵、ダスト伯爵、ボッケ伯爵、コロナ侯爵、テーバイ辺境伯もまた同様に制圧。
負傷者ゼロ。各貴族の捕縛も滞りなく済み、エッケザックス国が失った領地をたった一週間という短さで『パンゲア』は取り戻したのだった。
――そして手に入れた領地の中に、イヴが欲していた『奴隷』達の姿もあった――




