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40話 ヘッドハンティング

 我の目の前では両手を縛られ、舌をかまない様に猿轡をされたランペイジが椅子に括り付けられていた。

 本来ならば拘束はしないのだが、こいつは囚われると知るや否や自殺しようとしたらしく、シルバーイーグルが鎮圧用睡眠ガスで眠らせ舌を治し拘束したらしい。

 自分の仕事に誇りを持つのは良いが、自殺するのはプロとして褒めるべきか、直ぐに命を捨てる馬鹿さ加減に呆れるべきか悩むが、こういった自分の誇りを大事にする人材は貴重だ。

 ランペイジは我が訪ねた時には目が覚めており、我の姿を見ると殺意の篭った視線で睨みつける。

 尋問や拷問にも屈しないという頑なな意志が感じられる。

 ああ、いいな。こういう奴が欲しかった。

 直ぐに国を裏切るような奴は信用が置けない。葛藤し悩んだ末に仲間になってくれた方が信用も置ける。


「さて、ご覧の通りお前は我らに囚われた。その事実は分かるな? 自殺も無駄だぞ。身を持って知った通り、毒を飲もうとも舌を噛みちぎろうとも治す技術力が我らにある」


 そう告げて猿轡を我自らの手で外してやる。

 すると、自殺しても無駄とわかったのか舌を噛みちぎるような事は無かった。毎度毎度自殺されたらこっちが困るので助かった。


「お前の頭の中は覗かせて貰った。名はランペイジ。『トライデント連合王国』の諜報部隊隊長。利き腕は両腕、酒の好みは蜂蜜酒。合っているだろう?」

「……ああ」


 ほう、記憶を抜き取られたと判っても表情には出さないか。ここまで出来る逸材はそうはいないぞ。血圧や心拍数は素直に反応してくれたがな。


「それで俺に何のようだ。記憶を探る術があるというのであれば、もう俺に用はないだろう」

「ある。我はランペイジ、お前が欲しい」


 ふむ、また表情には出てないが意外と心拍や血圧が大きく反応したな。何故だろう。

 その時、監視カメラ越しに見ていただろうレイから必死な声がかかる。


『イヴ! その台詞は色々と誤解するからぁ! あ、ごほん。イヴの言うのは君をスカウトしたいということだから』

「あ……ああ。なるほど、わかった」


 何か誤解されたらしい。その何かが判らぬが、誤解が解けたようなのでこのままスカウトを続けよう。


「先ほどの声は我の相棒のレイだ。レイの言う通り、我はお前の腕を買っている。正直、あそこまで罠を潜り抜けれた者は三人もおらん。どうだ? うちに来ないか? 無論、ただとは言わん。どのような対価でも払おう」

「……愚問だ。どんな対価でも」

「――お前の妻が助かるといってもか?」

「っ!?」


 今の今まで一切表情に動揺を浮かべなかったランペイジが、初めて目を見開き驚いていた。

 ランペイジの妻は心臓に重い病を患っている。治すためには高額な聖水を使った薬が必要であり、その薬を手に入れる為にランペイジはトライデント連合王国に仕えている。

 契約でランペイジが任務に失敗し、死んだとしても投薬は続けられるらしい。その為に自死を決意しているが、それは大きな間違いだ。


「お前は自分が死んでも妻を助けようとしたようだが、国王はそう思っても騎士団は違ったようだぞ」

「何だと……!?」

「騎士団はその時点でお前の存在を抹消するつもりだったそうだ。これに関しては別に捕えた騎士団の諜報員の記憶からして間違いない」

「おのれ! あいつら……!!」


 簡単に寝返る奴だったので洗脳処置でシャドウの一員にしたが、腕は確かで情報の精度は高い。

 ランペイジは心当たりもあるようで憤りを露わにしている。

『トライデント連合王国』には王家直属と騎士団の二つの諜報機関がある。アメリカに例えればFBIとCIAと言えば判りやすいか。

 どこの世界でも派閥争いがあり、戦乱の中だからこそ足の引っ張り合いが行われる。

 これは隊長であるランペイジの存在を消し去るべく騎士団ぐるみで計画されていた。全ては王家直属諜報部隊を消す為に。

 あと、騎士団がランペイジの妻を慰み者……まあ下種な事を考えてる事まで伝えたら怒り狂ってスカウト所じゃないので黙っておこう。


「任務は失敗、お前達の存在は抹消され妻も消される。しかし、我なら……違うな。我らなら全てを救ってやる」

「……全て」

「無論……おまえが望む者を全てだ。当然、隊長であるお前一人で決めて良い事でもないだろう。期限は明日まで。この後に仲間達を合わせてやる。そこで仲間達とじっくりと話し合うがいい」


 苦みと毒になる飴を与えた。

 決して表舞台に出ない影の者と言えども人間だ。その気持ちを蔑ろにされたら怒るのも当然。

 大事な人の為に命を掛ける心、仕えるに値する王の為に死すら選ぼうとする心。

 その陰にあっても高潔な心にはこの毒は良く効くだろう。

 なぜならその毒は王を助ける希望だ。ランペイジなら気づけるはず。


 そう伝えて我はランペイジに背を向け、部屋を後にする。

 これで全員の勧誘は終わった。


「救ってやる、か。我らしくない台詞だ」


 大量の人の命を奪った我だが、部下の大事な者達を助けるのは当然だ。部下を大事にしなければ早晩組織と言う物は崩れるのだから。

 今回は『シルバーイーグル』とレイには本当に助けられた。これに関しては美月達を頼るわけにはいかないからな。あとで何か礼をしよう。……シルバーイーグルの場合は何がいいのだろうか。

 変な事で真剣に悩みつつ、我は自分も夕食を取るべく政務室へと向かうのだった。



◆◆◆


 あの少女――イヴ女王の言う通り俺達はあの後、全員一室に集められていた。王家直属諜報部隊10名全てがだ。

 誰一人として命を取られる事なく、むしろ怪我すら治療されて手厚く扱われていた。

 全員俺と同じく『パンゲア』に勧誘され、破格の報酬、そして望みを叶えてやると言われ勧誘されていた。

 お前が欲しいなどと告白された時は一瞬ドキッとした。あの美貌で愛の告白じみたスカウトは心臓に悪いので止めてほしい。


 全員、明らかに思い悩んでいる表情がありありと浮かんでいる。厳しい訓練により平常心を保つ訓練をした精鋭部隊がだ。

 集まってどのような事を言われたのか問いただせば、騎士団や魔法兵団との待遇の格差が明らかにされていた。


「隊長……、あの給料は……」

「残念ながら……事実だ」


 俺はこのような物だと当たり前に受け入れていたが……いざあらためて思い知らされるとその差は受け入れづらい。

 本来ならば他国では諜報や密偵の価値は相当に低い。使い捨ては当たり前でお褒めの言葉はありはしない。

 『トライデント連合王国』でさえも破格で、噂では『ウケラノス帝国』も相当高待遇となっている。

 それらを上回る待遇に思い悩むのは当然だ。特に爵位なんてものは帝国でさえも無理だろう。

 自分でさえも揺れ動いている。

 あのイヴは救ってくれると言っていた。自分を、妻を、そして救いたいと願う者を。

 イヴならば……あの方を救ってくれるかもしれない。

 セレーネも記憶を見られており、名前や肩の古傷、何時ついたかも言い当てた事から人の記憶を見るすべがあるのは間違いない。そして一生後遺症が残ると言われたセレーネの古傷でさえも治す方法も。

 嘘を言っていないのは間違いない(・・・・・)。俺にはそういう才能(タレント)がある。本当に心臓の病を治す方法があるのだ。

 妻を救う術が、あの方を救う術がある。ならば……この身、如何に悪逆の罵られようとも受けよう。


「全員の意見を聞きたい。お前達の率直な気持ちを聞かせてくれ。連合王国に付くか、又はスカウトを受けるか」

「父上……私は――」

「団長……」








 次の日、俺達『トライデント連合王国』王家直属諜報部隊10名全員『パンゲア』に仕える旨を伝えた。

 この決断は後で間違っていなかったと心底思った。

 なぜならば――そうしなければ『トライデント連合王国』が滅んでいたのだから。

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