39話 正当な価値
さてと、調べに調べた裏の情報だが纏めると出るわ出るわ後ろめたい裏の情報が。
エッケザックスから離脱した貴族達からは麻薬の製造に人身売買、禁薬精製に贋金づくりなどばれれば取り潰し待ったなしの情報が出てきた。我らを探る他の小国たちも人身売買や密猟などせせこましい悪ばかり。
我らがやるまでもなくこの世界は悪に染まっていた。しかし、その悪意は美しくない。
ただの欲を満たすだけの悪に浪漫の欠片もない。世界を変えてやろうと思う意志はないのかお前ら。禁薬精製にしても周辺地域を死に至らしめるだけとか、滅ぼす一択してどうするのだ。しかも失敗して一部の領地が呪いの沼になったなんて眼も当てられられん。
まぁ、これらを公開するのは悪と言うより正義の仕事。なので、これは悪らしく奴らを屈服させるために有効活用させてもらおう。
裏の情報は粗方出たが、その中で割と真っ当だったのがランペイジが組する『トライデント連合王国』は割と真っ当だった。奴隷売買は禁止され、差別は仕方ないしても税率もマトモ。
麻薬、贋金づくりなど各国で表向き禁止されている事の全てをしっかりと取り締まっていた。
実に健全な国だ。好印象を覚える。
ランペイジ達の仕事も真っ当だ。
裏の仕事なのに真っ当と言うのも可笑しな話だが、敵国への諜報や破壊工作、要人暗殺など我らでもやるような真っ当な裏の仕事。それ故に軍の評価は低くはなかったが……高くもない。
この世界は王権主義の国が殆どで騎士や魔法使い達が表だって活躍しており、裏で動く彼ら諜報部隊の評価は高くない。と言うより認められていないというのが正しい。
『国のトップは認めているようですが、それだけで騎士や魔法使い達と違い領地も名誉も与えられておりません。金銭の方もそれほど高くないようです』
「だねぇ。危険性も高いのに補填もない。付け入る所があればそこかな」
「我もそう思う。その辺りで攻めてみるか」
シルバーイーグル、レイ、そして我も同意見だ。ついでにランペイジにだけ効きそうな弱点も見つけた。
「これだが、レイ。行けるか?」
「ノープロブレム」
即答か。よし、それならこれも詰めていくか。
50人のうち25人は記憶改ざん処置を行い、表向きは欺瞞情報を掴み任務に成功した有能な諜報部隊として各国に戻す。裏では我らがスイッチを入れ次第、その時点での各国の状況を報告する我らの諜報部隊として動いてもらう。勿論、その間の彼らの記憶は改ざんされる。
それと、死なれたら困るのである程度の改造処置も施した。具体的に言えばスペックを二倍程度に引き上げている。表で動かない連中なのでばれる事はないだろう。
これで面談する人数は半分になったが、それでも25人だ。
流石に一人一人我が面談するのも手間と時間がかかり過ぎる。なのでシルバーイーグルとレイにも協力してもらい三人分かれて面談することにした。
そして最初の一人と面談を始める。
目の前にいるのはやや小柄な体格をした一人の少女――ランペイジの娘だ。
彼女の装備も服も全て取り上げられ、今身に着けているのは何もない――訳はなく病院服だ。裸にするのは別の組織だ。
「さて、気分はどうだ?」
「っ……!? 貴女はあの絵の……イヴ女王……!」
「ああ。映像では見ていたが挨拶をしておこう。イヴ・ゲセルシャフトだ。初めまして、セレーナ」
「っ!?」
セレーナは名のってもいないのに自分の名を知っていることに驚いているようだ。まぁ記憶を吸い出せば名前なんてあっさり判るのだが。
何を勘違いしたのか、セレーネはがっくりと肩を落とし諦めたように俯く。
「そう……何もかも貴女の掌だったのね」
「そうだな。お前の事は全て知っている。所で、肩の痛みは残っているか?」
「肩? そんなの……あれ、痛みが……」
「三年前。諜報任務中に魔物に襲われ肩の骨を折っただろう。その時に出来た僅かな骨の刺が神経……と言っても判らんか。肩の肉を刺して痛みを与えていた」
「三年前の事まで……イヴ女王。貴女は一体……それに私を治してどうするつもり?」
あからさまに恐怖の表情で我を見やるセレーネ。うむ、この表情は懐かしい。
愉悦に浸りたいが勧誘しているので我慢。
「そうだな。率直に言えばスカウトだ。お前達全員が欲しい」
「私達全員……? はっ、そんなの受けるわけが」
「お前達は今の境遇に満足しているのか? 騎士、魔法使い達に蔑まされたままでいいのか?」
言葉を遮るように畳み掛けると、セレーネは思わず眉にしわを寄せ黙った。
「別に……満足して」
「するわけないだろう。お前達は知らないようだが、これが『トライデント連合王国』における騎士達、魔法使い達の給料だ」
判りやすく棒グラフにした各自の給料の図をセレーネの前に放り投げる。
彼女の眼はちらりとその資料を見て、目を見開き驚いていた。
「そんな……こんなに」
「騎士はお前達の三倍、魔法使いに至っては五倍。更にこの中で爵位を貰った者は半分以上……そしてお前達のは……一人もいない」
そう。明らかに仕事内容と報酬が釣り合っていない。
諜報と言うのは騎士や魔法使い以上に危険で命を駆けた仕事だ。なのに認めていると口だけで報酬が釣り合っていないのだ。
騎士や魔法使い達も命を掛けているが、頻度も重要性も段違い。情報一つ伝えられなかっただけで村が滅ぶなんてざらだ。なのに給料が不当と言うほどに低い。
本人達も他の者達の給料等気にした事は無かっただろう。
こうして目にするまでは。
「そこでだ、うちに来れば給料は今の六倍は出す。欲しければ領地も爵位もやるぞ?」
これは騎士達よりも高額の給料だが、我としてはこれが正当な金額だと思う。というか手当も含めるので実際はこれより上だ。
領地を管理してくれるならこっちとしては嬉しい限りだし、貴族位なんてもので満足してくれるなら幾らでもやれる。一代限りの準騎士爵ぐらいなら全く問題ない。領地を管理するなら男爵もやれる。こっちはしっかりと次代にも告げる立派な貴族だ。
「えっ!? それは本当に……? でも……しかし……」
「自分一人では決めれないだろう。夕食後に他の仲間達に合わせてやる。皆と話し合い、明日までにきめるように」
「……もし、決まらなかったら?」
「……」
セレーネの問いに何も答えず、笑みを浮かべて我は退室した。
別に語るだけが交渉じゃない。何も言わない、想像に任せるというのも手だ。
セレーネは治った肩をさすり、何か深く試案している。
これならば、話し合いの時に上手くこちら側に付けれるだろう。
さて、次は父親の方にむかうとするか。




