37話 ネズミ
山賊から盗賊のならず者から、オーガと言った凶悪と言われる亜人を受け入れたゲセルシャフト艦内。
イヴによる戦闘演習が終わり、新しき仲間達を迎える為にイヴは歓迎会を開いた。
殆どの者達は見た事もない料理の山に驚愕していた。
「うまそう……!」
「魚だ! これ海の魚だぞ!」
「牛の丸焼きまで……!」
肉から野菜、更には大きな魚を豪快に一匹丸々焼いたものまで所狭しとテーブルに並ぶ。
彼らの考えていた歓迎会はそこそこの料理に酒を飲みかわすような簡易で安上がりなものを思い浮かべていたが、明らかに金がかかった料理の数々に荒くれ者の盗賊達でさえも料理に手を出しかねる。
「こ、これ本当に食べてもいいんですかい?」
「存分に食べるといい。これらは全てお前達に為に皆が用意した料理だ。酒もあるぞ」
「マジで!? ひゃっほい! 総帥太っ腹! 胸はないけど!!」
「余計な事は言わんで良い」
胸の事を告げられ、イヴは思わずため息を吐く。
殴らないだけまだましだが、ここでついうっかり殴ってしまえば自分が胸の事を気にしてると思われるのが嫌だった。
そういうのは一人の時だけで良いのだ。
酒も入れば次第と歓迎会は宴会へと移り変わる。
オーガの長、キバオウが山賊の元首領、ロドリゲスとチャールズと酒の飲み比べをし圧倒的大差を付けてチャールズが打ち勝ち、同じように酒を飲んだ銀二が酒一杯で泥酔し倒れ込んだりなどしていた。
時間がたつにつれ、酔いつぶれたり転寝をする者が増え栄一が各自に毛布を掛けた頃早々ダウンした銀二が未だ酒が残る身体を押して起き上がる。
因みにイヴは身体がまだ未成熟なのでレイと共に早いうちに自室へと戻っており、美月やリンも同様だ。アリシアはまだ飲んでいる。
「うー……やっぱダメっす。酒ダメっす。栄一さん、先に失礼しやーす」
「ええ、おやすみなさい」
「栄一さん、これまだあるかしら? このストロングオーバーと言うお酒は実に気に入りました」
「……程々にしましょう。アリシア様」
ふらふらとした足取りで銀二は廊下を歩く。
時間は深夜。通路には誰もおらず灯りも薄暗くなっており足元を照らすだけだ。
一人分の足音を鳴らしながら、認証が必要な扉に辿り着くとふら付きながらも認証キーに腕輪をかざし、扉を開く。
認証キーが必要な扉の傍には深夜帯と言う事もあり、誰もいない。
『ゲセルシャフト』の関係者のみに配られる認証キーが無ければ開くことはない扉だ。深夜まで負担を掛けるのは忍びないと夜間に関してはここは無人になっている。
銀二は欠伸を噛み殺しながら扉を潜ると、直ぐに角を曲がった所にあるトイレへと入っていく。
扉は未だ開いたままだ。
そこに、全身を黒づくめの布で覆った幾人かが通り抜ける。
全員が抜けた事にほっと安堵した一人がぼつりと呟いた。
「どうやってここを抜けるか困っていたが、ここにも間の抜けた阿呆が居て助かったな」
「ああ。この絶好の機会、絶対にモノにするぞ」
「共同戦線はここまでだ。あとは各自自由にする、そういう話だったな」
「邪魔をしなければな。行くぞ」
黒づくめの侵入者たちは足音をも立てずに通路の奥へと消えていく。
そこに、用を足した銀二が扉を開いて出てきた。
「総帥、ネズミは無事通りましたっす」
◆◆◆
『ゲセルシャフト管制室』
「ああ、こちらでも見ている。銀二はそのまま上がっていいぞ」
『うっす、お疲れ様っす」
我は銀二との通信を切ると、モニターに視線を戻す。
管制室のモニターには銀二が通した侵入者たちが通路に張り巡らされたカメラから送られた映像を映していた。
今日の歓迎会は山賊たちを歓迎する宴と共に、紛れ込んでいた他国の密偵たちをおびき寄せる撒き餌でもあった。
そもそも山賊達を引きこむ話は市民たちにも伝わっている通り、大々的に広まっている。
これを密偵たちが利用しない筈がない。
案の定、周辺各国の密偵たちが入り込み、同じ諜報を請け負っていた密偵たちと集まりこうして忍び込んでいた。
当然ながら、銀二はの泥酔は仕込だ。あいつは昔から相当飲める性質だ。
普段から軽薄な銀二は密偵たちを油断させるには最適の逸材だ。
「さて、今回の子達は何処まで進めるかな」
眠気覚ましの珈琲を飲みながら、レイがモニターを見やる。
実は密偵たちが侵入したのはこれが初めてではない。文官に扮したり料理人や商人になって探ろうとした者達は数多い。
そのうちの半分はエッケザックス国から離脱した元貴族達だ。
奴らはどうしてもこの『ゲセルシャフト』が欲しいらしく、周辺各国に身を寄せながらもその機会をうかがっている。
まあ、そういうどうでもいい連中が寄越す密偵たちは大体第一関門で脱落するので特にどうでもいい。力の差も判らない愚か者だ。何れ叩き潰すとして、今は他国の密偵たちの動きを見よう。
奴らは誘導されているとも知れず、わざと開けて置いた通路を駆けていく。入られたら困るよな部屋、娯楽室や資料室などはあらかじめ隔壁を封鎖しており、彼らただの壁にしか見えないだろう。
艦内を走り続けていくと、第一の関門に辿り着く。
突然通路にアラーム音が鳴り、アナウンスが響く。
『侵入者発見、侵入者発見。ただちに隔壁を封鎖します。関係所員達は速やかなる退避をお願いします。繰り返します、侵入者発見――』
『くっ! ばれたか!』
『古代遺跡と言うのは本当のようだな。急ぐぞ!』
因みに声の提供はシルバーイーグルだ。こういうアナウンスだすならアイツが一番適任だろう。人工AIなので睡眠の必要もないしな。24時間働ける物凄く有能な逸材だ。まぁちゃんと休ませるけどな。
アナウンス通り、通路の隔壁が閉じていく。閉じる速度は加速度的に早まり、密偵たちは全速力で駆け抜ける。
おお、早い。今回のは中々に当たりか。
無事全員抜けた事にほっと安堵する密偵たち。喜ぶ我ら。
近頃はこれも抜ける事が出来ん三下ばかりだったから困っていた。
これならば第二第三も抜けれるな。上手くいけば最終も抜けれるのではないか?
「さて、彼らには頑張ってほしいものだね。イヴ、珈琲のお代わりはいるかい?」
「頼む」
彼らにはぜひ足掻いてほしい。そしてその全てを我らが頂く――。




