36話 戦力増強
『イヴ、美月君。こっちの準備はOKだよ。そっちは大丈夫かい?』
レイの声が訓練室に響く。
我は『ルシファー』を手に身体を解していく。
美月もまた『プリズム・ムーン』に変身し呼吸を整えている。
我は今回は訓練と言う事もあり変身はなしだ。変身すると訓練にならん。
「プリズム・ムーン、そっちは大丈夫か?」
「……はい」
と言っているが緊張しているのは火を見るより明らかだ。
カチカチに固まってる美月の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。身長が足りんのでちょっと力を使って浮いた。
美月は目を見開きながら、されるがままに我に撫でられている。
「いつも通りでやれば大丈夫だ。お前の実力ならば問題はない。なんせお前は我が認めたヒーローだ。これぐらいは難なく乗り越えれる」
「……はいっ!」
誰かに認められるという事はやる気を引き出す。美月は自分に自信が無いタイプだ。力を認め、肯定してやれば自ずといつも通りの力を出せると踏んだが正解なようだ。
『大丈夫そうだね。テンカウント後に訓練データを投影するよ。美月君、相手は仮装データと言えども強さは折り紙つき。当たれば痛いし吹き飛びもする。気を引き締めていくんだよ』
「判りました!」
『よしよし、良い返事だね。それじゃ10……9……』
レイがカウントするたびに場に緊張感が走る。
上を見れば今回の為に集めた連中が我たちを様々な目で眺めている。
ある者は心配そうに、ある者は下卑た、ある者は何が起きるのか期待し、ある者は見定めようと、ある者は観察するかのように――。三者三様の視線に思わず笑みが零れる。
上で見ている連中は決してただの観光客ではない。むしろ人でなしと呼ばれた連中が大半だ。
その眼でしかと見ろ。見逃すな。心に刻め。
視線に意識を奪われているうちにカウントが3を切る。そこで我もスイッチを入れ替え、今から現れる目の前の敵に向けて意識を集中する。
カウントが0になった時、目の前に巨大な爬虫類……恐竜Tレックスを出すか! それと前科50件の怪人マッハバロンと紅蓮の使い手バーニンググレイトか!
レイの奴め! 最初から飛ばしておる!!
「GAAAAAAooooooooooooooooo!!!」
巨大な恐竜、Tレックスの雄たけびが部屋中を震わせ、音は訓練室を見下ろす見学室まで届き、衝撃を与えているようだ。
今まで我らを見下ろしていた連中の3割が腰を抜かしていたが、7割も残るのは上出来。その為にこいつを出したのだろうが――。
「バロンに気を付けろ!! 判ってるとは思うがあの足で蹴られたらタダで済まんぞ!」
「はい! 全部止めてみます!」
全部か。3体のうちどれかだけでもいいのだが、やる気があるなら十分!
やはりというべきか用意された敵のうち、真っ先に突撃してきたのはマッハバロンだ。
マッハバロンは音速を超える速度の力を悪用し、銀行や宝石店から多額の金品を盗んだ怪人だ。
武器は音速を生み出す源である凶悪な脚。一歩踏み出せばアスファルトが抉れ、最高速度に達すれば空気を蹴り空を飛ぶことすら可能とする。
誰も捉える事が出来ない速度で多くのヒーローや警察から逃げ切り続けていたが、ある日運悪くデモンロイドの前を通り過ぎて、ワンパンで沈められ御用になった。見事なカウンターだったとデータでの残っている。
今回用意した疑似データはそれに改良を加え、最初から最高速度を出せるようにしている。
音速の壁を越え、衝撃波を撒き散らし、狙いを我に定めたマッハバロンは――。
「スモールシールドワイヤ!」
美月がスネ辺りに小さな不可視の障壁を張ると、マッハバロンは思いっきりスネを打ち付け、ゴロゴロゴロゴロと前転しながら転がる。
障壁は美月の手程の大きさだ。足元に不可視の壁があれば躓くのは必然。頭だったら孔明の罠だったな。
このような隙を見逃す理由はないので杖で止めを刺すが……美月よ、何気にえぐい攻撃をするのだな。
止めを刺されたマッハバロンは構成されたデータが解けるように砕け散った。これが倒した証拠だ。流石に死体まで残しておくと邪魔だからな。
その間にもTレックスやバーニンググレイトも我らを排除しようと動く。
Tレックスはその巨体を生かした体当たりを行おうと地響きを鳴らしながら突進し、バーニンググレイトは両手から青色の炎を噴出し、我らの動きを封じようと我らの左右に火柱を燃え上がらせ、蛇のように迫ってくる。
この炎の厄介な所は摂氏1000度以上の超高熱の炎。疑似データとは言え囲まれただけでじりじりと肌が焼けるような暑さを感じる。
これでは飛び込んで抜けるのは不可能。抜けたとしても火傷とダメージは免れない。映画のように飛び込んで抜けるなんて真似は無理だ。あれは赤い炎だからこそやれる芸当。
火柱はTレックスの後ろからも巻き起こり、蛇のようにうねりながら迫ってくる。高軌道で動くマッハバロンの穴をうまく補った連携だ。
ならば、こちらも連携と行こうか。
「プリズム・ムーン、あの炎を全て防げるか?」
「勿論です! 月光よ! 私達に害なす力を防ぎたまえ! フルムーンシールド!!」
我の問いかけに即座に応答し、一瞬のうちに炎の蛇を障壁で防ぎとめる。上出来だ。
炎とが途切れた一瞬のうちに一足飛びにTレックスへ肉薄し、鼻先に向けて杖を横に振り抜く。
鼻はありとあらゆる生物の急所の一つであり、それは恐竜も同じだ。
ごきんと鼻が折れる音と共にTレックスが激痛により巨体を揺るがせ、炎の蛇に倒れ込む。
逃げ場をなくしたのは悪くはないが、それは互いに同じ。Tレックスと言う巨体がいるのにその手は悪手。
バーニンググレイトは技は悪くなかったが、Tレックスの巨体が仇となったな。
咄嗟に炎を動かしてTレックスから炎を引きはがそうとするが、大きな隙を美月が見逃すはずがない。
「チェーンバインド!!」
地面から8本の透明な鎖が伸びTレックスとバーニンググレイトに向けて絡み付く。
Tレックスは転倒せいで抵抗できずに囚われたが、バーニンググレイトは即座にその場から炎を噴出し脱出。炎をジェットエンジンのように生みだし高速で鎖から逃れようとする。
「逃がしませんよ!! そこです!」
美月の放ったチェーンバインドは追尾型だ。魔法に刻まれたプログラム通りにバーニンググレイトを追尾し追い込み、四方八方から繰り出された鎖にバーニンググレイトは上空で囚われ縛り上げられた。
相手は悪くなかったが、今回は美月の手際が唸ったというべきだな。流石は熟練の魔法少女だ。
動けなくなった隙に我が間髪入れずにノワールスマッシャーを打ち込めば耐久値が限度を超え、データに分解され消滅する。
当ればTレックスのような恐竜でも倒せる威力を持つ。ヒルダはなんでこれを弾けるのか訳が判らない。
さて、倒したが気はまだ抜けない。
あれは第一フェーズだ。準備運動と言ったところか。
『次、第二フェーズ行くよ。次はこんなものでどうだ!』
次は大量の骸骨の群れに巨大なガシャドクロ、ありとあらゆる鼠を操る怪人ハーメルン、百鬼夜行を使役する陰陽術士セイメイ……! やり過ぎだ馬鹿!!
まだ出現する演出だけでも部屋の半分以上が敵で埋まった。厄介なのは物量だけではない。あの骸骨の群れは木端微塵にしなければ再生し、ネズミは疫病持ち、百鬼夜行は鬼や天狗、雷神風神など数多の高位妖怪が混ざっている。先ほどは速度と質、次は質と量で攻めてきたか。
美月が顔をひきつらせてるではないか。
恐らくは我の鍛錬も兼ねたいのだろうが、ええい! やってやろうではないか!!
一瞥だけ視線を上にいる者達へと向ける。見逃すな、括目しろと視線を送り、我は再び杖を手に敵軍の中へと突っ込むのだった。
◆◆◆
イヴと美月の戦いを見ていた男は目の前で起きた光景が信じられなかった。
男――ロドリゲスはつい先日までこの近辺で山賊の頭をやっていた。やらざる得なかったともいう。
ロドリゲスの山賊団は元はエッケザックス国に滅ぼされた国の騎士だ。国が滅ぼされても生き残ってしまった負け犬。同じ同僚は傭兵になるか、他の国に仕えるなりしていたが、ロドリゲスとその仲間達は素行も悪く腕前も半端物でどこでも受け入れられなかった。それでも腹は減る、金も飯も無ければ奪い取るしかなかった
一度踏み外した道は戻ることは出来ない……と先日までロドリゲスは思っていた。
殺されるまで山賊をやると思っていた運命だが、それはつい先日終わりを迎えた。
ロドリゲス達のアジトに黒尽くめの兵士が現れた。それもたった一人。
「ここがアジトでしょうか。ふむ、中々に立派な建物で。……潰し甲斐がありますね」
栄一は戦闘員スーツに身を纏い、山賊狩りに訪れたのだ。
闘いは圧倒的だった。
たった一人で仲間を叩きのめし、ついにはロドリゲスもやられた。鎧も砕かれ、大剣もへし折られた。ロドリゲスはこれでも騎士団では上の方の実力があったが、手も足も出なかった。
もはやここまでかと諦めたが、栄一はロドリゲスが思いもよらぬ提案をする。
「さてと、ここで貴方達に一ついい話があります。うちの軍に来ませんか?」
「は?」
まさかのスカウト。山賊に落ちたロドリゲス達にだ。
敗北は死が当たり前。だが、栄一は全員迎え入れると告げた。拒否も出来るらしいが、その場合は罪人として裁かれる。
商人を襲って金品を奪った、人も殺した。そんな山賊たちを誘う事にロドリゲス達は正直、騙しているのだと思ったが、断れば罪人として裁かれる。過酷な鉱山送りか奴隷として使い潰されるのが罪人の末路だ。ならば、その酔狂に乗るのも手だと思いロドリゲス達は誘いに乗った。
栄一に案内されるままに『パンゲア』に連れてこられたロドリゲス達だが、そこで目にしたのは活気のある街並みに、見た事もない巨大戦艦『ゲセルシャフト』。
山賊の頭であるロドリゲスが口を開けたまま呆然としたのも無理もないだろう。
何より驚いたのが、山賊である自分達を住民達が特に何もしなかったのだ。
石を投げられると思っていた、憎まれ、蔑まされるのだと思っていた。
それが何もないのだ。強面の集団が40人以上来ていても、何事もなかったように過ごしている。
流石に疑問に思ったロドリゲスが栄一に疑問をぶつける。
「あーその、エーイチさん。なんでここの人らは俺等に何もしないんで? 一応俺等これでも名の通った山賊団なんだがぁ」
「ああ、それはうちの総帥……ボスと言えば判りやすいでしょうか。そのお方がちゃんと話を通しているからですよ。勿論、貴方達の境遇も含めてね」
「そうか……」
今まで山賊たちの境遇は奪うだけの無法者としか知られていなかった。
だが、その実は自分達と何ら変わりのない人達だった。
戦争により村や街を焼け出された者達、仕えるべき国を失った者達、そうしなければ生きていけなかった。
自分達とて同じ境遇ならば落ちた未来だ。
「勿論、貴方達は本来罪人として裁かれる者達です。ですが、その罪の内容を決めるのは総帥です。貴方達には罰として、この国を守ってもらいます。命がけで。いいですね」
「……ああ。それが罰ならば受けよう」
「それと、少ないですが給料も出ますよ」
「へっ!? 金出るの!?」
思いもよらぬ給料という言葉に、ロドリゲスは間の抜けた声を出してしまう。
それは後ろに続く山賊団たちも同じだ。
「勿論。楽しみにしてくださいね。さて、艦内に入りますが迷子にならないように付いてきてくださいね」
船の中に通されると、これまた初めて見る鉄の壁から不思議な光を放つ天井、勝手に開くドアなどロドリゲス達は驚きの連続だった。
最後に訓練室に通されると、そこでも一度試しにロドリゲス達は仮想データと戦わされた。
何も知らない人たちに位置から説明するよりも、こうして身体で覚えた方が楽だと銀二からの案だ。下っ端気質故に山賊たちの気持ちが良く解るのだろう。
「訓練の相手は銀二と言う戦闘員のデータです。私達戦闘員の中では一番弱いですが、今の貴方達では手も足も出ないでしょう。ああ、この訓練室では怪我はしないので存分に戦ってください」
といわれ、ロドリゲス達は銀二の仮想データ相手にフルボッコにされた。
それは当然だろう。銀二も栄一と同じく戦闘員としての改造手術を受けており、常人の七倍の身体能力を持っている。本人が生かし切れてないだけで実力は高いのだ。
それでも銀二相手に大剣の一撃を決めたロドリゲスの技量の高さは素晴らしいの一言だ。
その後に思いっきり掌底を受け、ロドリゲスは吹き飛んだが見込みは十分だった。
訓練後に痛みを引きずりながらロドリゲス達は訓練室が見える一室へと通された。訓練は怪我は無くても痛みは体にフィードバックする使用だ。
痛みをともわない訓練は得られるものが少ないというイヴの考えからだ。
ロドリゲス達が通された部屋は40人が入っても余りある広さで200人ぐらいは余裕で入れそうな部屋だ。
そこで出会ったのは他の山賊や盗賊達だった。
誘われたのはロドリゲス達だけではなかったのだ。
同じ山賊や盗賊、果てには亜人のオーガまでもが集められていた。
オーガの連中は山賊以上に力こそが全ての社会だ。山賊頭になってからは会うのも避けていた部族である。それが過半数が青あざを作り、椅子に座っている。
亜人達を全員従えたのは黒い髪でばいんばいんな胸を持つ女性――小鴉丸だ。
小鴉丸を見た瞬間、ロドリゲスは二つの意味でヤベェと思った。
一つはその美貌だ。黒い艶やかで濡れたような髪に、絵の美女が飛び出てきたような美しさ。
もう一つは――あの女は間違いなく強い、栄一より強いと直感で感じた。
他の中にも小鴉丸の強さに感づいている者達がいた。盗賊頭のバーントやライバルだった山賊頭のドイルだ。
困ったことにロドリゲスの連れた配下の中に強さに気づけず下卑た視線を送る馬鹿が数人いた。
「おい、おめぇら。あの姉御には、いや、ここの人らには手ェ出すな。俺等はここに世話なるんだ。ふざけた事したら俺が直々にぶっ殺す。分かったか」
「へ、へい! 親分!」
「……もう俺は親分じゃねぇよ」
「じゃあアニキ!」
判ってくれるならそれでいいやとロドリゲスは諦めた。
もう親分ではない。親分はこれから来る総帥と呼ばれた人物だ。
全員が集まると、ロドリゲス達が入ってきたドアとは別の奥の扉からイヴが部屋に入ってくる。その瞬間、その場にいる全員に強烈な威圧感が叩きこまれる。
ロドリゲスはこの瞬間、この人こそがボスであると本能で察した。
自分とは比べ物にならない程の生命体。背丈は子供のように小さいのにその威圧感は龍に匹敵する。
それはオーガ達も同じだ。全員が脂汗を流し、絶妙に気絶しないように加減されていた。
イヴが全員を見下ろせる台まで上ると、そこでようやく威圧感が消えた。
「諸君、我こそがこの『パンゲア』の女王であり『ゲセルシャフト』の総帥であるイヴ・ゲセルシャフトだ」
凛と澄み渡るような可愛らしい声色だが、不釣り合いなほどに威風堂々とした貫禄。
子供の身体に大人が入ったかな様なちぐはぐさ、なのにそれが完全に似合っており威圧感もあって、思わずその場にいる全員がイヴの空気に飲まれた。
イヴは集まった全員にこれからに付いて説明した。
一つ、全員正規の兵士として迎える事。勿論、このパンゲアの住民としてだ。
根無し草で何処にも居住権をくれる。これだけでも破格で殆どの者達が歓喜していた。オーガもまた区別なく平等に住民として受け入れる事に彼ら自身が驚いていた。
亜人は基本的にエルフや獣人以外は住民として受け入れられにくい。なのに、この場にいる全員を受け入れるというのだ。驚くのは当然だ。
その中で一人の男が手をあげる。片方の角が折れたオーガ。彼らの族長だったオーガの男だ。
「聞きたい事があるのだが構わないか?」
「構わん。言ってみろ。その前に名を聞いておこうか」
「俺の名はキバオウだ。俺達は森に家族を残している……。家族を残したままこの街に留まる事は出来ん。可能ならば家族を迎えたいのだが」
「なるほど。事情は分かった。ならばキバオウとやら、家族全員連れてくると良い。一族纏めてきても構わんぞ。なんせ要らん貴族が消えたから土地は余っているからな」
実際半分以上の貴族が逃げ出すか戦争により断絶しており、更に大規模な火事もあって広大な貴族街は閑散としている。焼け地ならばどこからも文句は出ない。
「本当か!? 感謝する、我が王よ。キバオウ、この忠誠を貴方に……!」
片角を欠損したオーガの男が跪くとそれに習って他のオーガ達も一斉に跪いた。
オーガは森に住む一族だが、戦乱の世では森も荒れており魔獣や魔物等の危険が多く生きるの屈強なオーガならそこまで問題にはならないが、戦えない女や子供は別だ。
オーガはその強さ故に子供が生まれにくい性質を持つ。長きにわたる戦火でオーガは数えきれないほどの子を殺され、数を減らし続けていた。あわや絶滅かと思われた時に現れた希望だ。
全員の興奮が落ち着いた頃にイヴは二つ目を切りだす。
二つ目、それに辺り全員に特殊な訓練を受ける事。これに関しては全員問題は無かった。兵士となるからには当然だからだ。
三つ目。
「我がお前達を守ろう。だが、我の手が届く範囲は限度がある。だから、お前達がこの国を守れ。奪った分護れ。蔑まれ、憎まれ、石を投げられようともお前達を我が守ろう」
イヴが彼らを守る、だからこの国を守ってほしい。
盗賊や山賊たちは何を言われたか一瞬理解できなかった。
落ちぶれた俺達を守ってくれる奇特な人がいるなんて思いもしなかった。
「我に付いてこい。我には、この国にはお前たちが必要だ」
――必要としてくれる人がいるなんて思いもしなかった。
ある者は言葉を失い、ある者は泣きじゃくり、ある者は崇拝に似た感情を向ける。そしてある者は――。
その後、法を守るや街中で暴れない、住民に害をなさないなど当たり前の事を伝え終えたイヴは、最後に自分たちの強さを見せるべく訓練室へと降りていった。
山賊やオーガ達が知る強さは戦闘員や怪人である小鴉丸の強さだけだ。
未だ、イヴの強さは未知数。あの威圧感だけでかけ離れた存在と理解していても百聞は一見にしかず。
イヴは金髪ウェーブヘアーの少女、美月と共に訓練室に入る。
そしてレイのカウントにより戦いは始まり、話は冒頭へと戻る。
最初は三体が相手だったが、あっという間に蹴散らされた。それも無傷で。
続けさまに戦闘が始まる。休憩も無しでだ。
それから、多くの相手とイヴたちは戦い続けた。未だ傷らしい傷も受けずに。
山賊やオーガ達だったらその一体だけでも相手をするのは無理な相手だと一目でわかるような相手を事も無し気に倒すその様はまるで英雄のようだ。その実は英雄は一人で、もう一人は怪人なのだがそれを知ることはない。
自分達よりもはるか上の強者の戦いに、ロドリゲスがぽつりとつぶやきを零す。
「あれが……俺達のボスか」
「……強いな」
「ああ」
思わず呟いてしまったロドリゲスの呟きに、キバオウが同意する様に呟く。
上には上がいる事を知っている。グランギニョル公国の勇者達やウケラノス帝国の女皇帝、ニーベルング神聖王国の聖女などだ。
それに匹敵する存在がボス。このお方に仕える事が出来るのかと年甲斐もなく心が昂ぶる。
ロドリゲスは思わず隣にいたキバオウに視線を送るが彼も同じだった。
今まで奪うだけだった俺達が、護るために戦う。
ボスが俺達を守ってくれるが、代りに俺達がボスの大切なものを、この国を守る。
その為に強くならなくてはならない。
ボスの戦いを見ながら、山賊や盗賊、オーガ達はほぼ全員同じ思いだった。
ロドリゲスは真剣な目で自分達を打ち倒した栄一の方を振りむく。
「なぁ、エーイチさん。こんな俺達でも、強くなれるか?」
「ええ、なれます。総帥やあの少女は別として、必ずや強くなれます。それは私が保証しましょう」
「そっか……エーイチさん、俺、強くなるよ」
「ええ、皆さんで強くなりましょう」
いつまでも半端物で生きてきた掃き溜めの人生は終わり。死んだつもりで強くなる。
今度こそ、国を守るために。
可愛らしくも強いボスの戦いを見ながら、彼らは心の奥底で決心していた。
―――そんな彼らの思惑とは別に動く奴らが居た事を後に知ることになる。この集められた中に、彼らとは違う目線で彼女達を観察している奴らがいたという事を。




