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33話 宣言

 温泉での一時でぶっ倒れたが、その後は我もヒルダも公務で忙殺される事になった。

 当然だ。

 エッケザックス国が新たな国として生まれ変わるべく様々な書類や資料に目を通す必要がある。膨大な書類との戦いが始まるのだ。


「ふむ、アリシアよ。これに関してだがうちにある機材を使えば楽に出来るぞ」

「そうなのですか? それならある程度楽になります。それにしても……イヴ様は妙に手慣れてらっしゃる様子。もしや経験が?」

「会社……こちらでは商会とでも言えばいいのか。大きな商会を向こう(地球)で運営していたからな」


 組織は運営するにしても金は掛かるのだ。

 社長及び上層部は我の息がかかっているが、それ以下は全く我らと関係のない社員で、普通に働いてもらっている。

 残業はあるがちゃんと残業代も出すぞ。ブラックな企業だと部下も付いてこんし、ヒーロー達に目を付けられるからな。



「なるほど。お蔭でこちらも色々と手間が省けて助かります」


 ざっと目を通し、改善案や疑問点をアリシアに伝えながら次々と資料の山を片付けていく。

 速読や記憶には自信がある。伊達に全戦闘員や社員の名前を記憶していたわけではない。


「我らの方はこれで良いとして、ヒルダの方はどうだ?」

「お姉さまはああ見えて意外と公務も出来ますの。問題ありませんわ」

「本当に意外だな」


 実の妹からも言われる程脳筋っぷりを見せるヒルダだが、大国を統べるトップなだけあってそちらの才能も振り切れているようだ。

 あの直感を発揮し、帝国を動かしている。

 我が言うのも何だが、正直アイツチートすぎないだろうか。


「それにしても、これは本当に使い方を覚えてたら便利ですわね。”ぱそこん”というものは」

「通信の関係上、何処にでも設置と言う訳にはいかないが、これがあるだけでだいぶ変わるものだ。だが、アリシアは覚えるのは早かったな」

「栄一様が教えるのがお上手でしたので」


 ゲセルシャフトごと転移してきたので、当然ながらパソコンも多数ある。ノートパソコンからタブレットまで何でもござれだ。独自のネット回線も繋いでいる……とはいっても地球とは電波が繋がっていないので、ネットワークはゲセルシャフト艦内に限るが、それでも公務を行うには便利だ。

 エッケザックスの城は見た目は良いが、公務をやるにしては不便すぎる。

 会計、財務、経理、総務などが固まっておらず、階数ごとに分かれていたしな。

 と言う訳で文官達も艦内に入れる事にした。総出で引っ越しだ。時間はかかったが、やはり文官達も各位部署が遠すぎるのは困っていたらしい。

 文官達も大部屋で今は効率よくやってくれている。

 そっちは通常通り手書きの書類だが、専用の機械を通せばパソコンに書類データが転送されるので我らのパソコンと共に併用できる。

 全部署にパソコンを配置したいのだが、ここ以外にパソコンが無い事とパソコンの台数も限られているので、この辺りは仕方ないだろう。

 パソコン器具やその辺りは栄一が得意としていたので、アリシアや文官達に丁寧に教えていた。

 あいつは人に教えるのが本当の上手な奴だ。

 一番感動していたのはコピー機だったが……写しを作る作業が無くなるだけで相当捗るらしい。

 艦内は機密の塊だが、一般人が入っても問題ない区域と重要な特殊区域は専用キーが必要な重厚なゲートで分けられているので迷って入り込む心配もない。

 専用キーを持つのは我とレイ、小鴉丸、戦闘員3人に美月だけだ。アリシアは今後の動きを見て渡すか検討中。

 因みにゲセルシャフト自体の位置も城に隣接する訓練場に移動させたので、文官達は変わりなく寮や家から通えるようになっている。


 ノックが鳴り、入室の許可を出すと台車でティーポット一式とクッキーを持った栄一が部屋に入ってきた。


「総帥、アリシア様。紅茶と御茶請けをお持ちしました。ここで一息を入れてはいかがでしょうか」

「そうだな……」


 時間を見れば午後二時半ほど。昼を早めに取ったので休憩をするには良い時間だ。

 アリシアと共に紅茶で一息。

 二人とも朝からずっと書類と戦っていたので、如何せん疲労が溜まっている。


「あと少しで殆ど終わりますわね」

「だな。銀二の報告ではオルドの復興も終わったようだ」


 エッケザックス国の首都、オルドは常に攻める側だったが帝国の介入で国自体が潰される事態になった際、多数の貴族が家財や財宝などを持ちだして逃げ出していた。

 勿論、その辺りもアリシアや今は消息を絶った元国王が懸命に対処していたが、事もあろうか火を放って逃げた大馬鹿がいたようだ。

 逃げた奴ら含め報いは必ず受けさせねばならぬ。地獄の果てまで追い詰めてやる。

 火の手は貴族街から住民街まで伸び、多くの民たちが焼け出された。

 そこで我らが地球の技術を生かしたプレハブ建設技術と銀二が操る”マックスギア”、そして帝国から借りた魔導兵器で家を建て直した。勿論、無償だ。

 税金は懐を温める為に使うのでなく、こういう風に使うものだ。

 その甲斐もあって住民たちからの我らの評価は上々。

 炊き出しに警備、復興と足元から固めるのは定石だ。

 ここを疎かにすると後々取り返しがつかぬことになる。

 その点、元国王は父親としてはダメで王としても有能ではなかったようだが、決して無能でもなかったようだ。

 収められた分の税金の使い道がマトモだったのだ。本当に。

 あれで好戦派や王子の暴走を諌める事が出来たのならばもっと良かったのだがな。


「残った兵士達もチャールズを筆頭にして再編成してあるしな」

「帝国でも見習う部分が多いですわね。特にあの訓練は……」

「人型魔導兵器に頼り切りでもいかんからな。折角魔法杖があるのだ。それを活かせるような訓練は必須だ」

「そうですわね」


 チャールズは組織でも珍しい外国人の戦闘員だ。レンジャー部隊の経験もあり、自衛隊との共同訓練の経験もあるので残っていた兵士達の取りまとめを任せている。

 魔法杖を銃に見立て、日夜泥臭くも激しい訓練をしている。

 仮に戦闘員に改造するとしても鍛えておけばその分伸びるからな。

 軍部の方もトップがあらかた戦死、無能は逃げ出したので楽だったとチャールズは言っていた。

 兵士達の中にはクサナギ軍から借り受けた者も多い。クサナギ国との同盟で有能な獣人兵士を借りれたのがかなり大きい。あの身体能力はぜひとも欲しかった。

 エッケザックス国は獣人を下に見る風潮が大きかったのだが、今は確執もある程度解消され、共同訓練に勤しんでいる。

 やはり激しい訓練と同じ釜の飯を共にするとなりふり構わなくなるようだ。

 

「これで安心して明日を迎えられますわね」

「ああ」


 明日は、近隣諸国に新国家樹立を宣言する日なのだから。

 その為に全員が動いていた。

 小鴉丸もこちらに呼びつけ、警備に回している。

 まだ学生である美月もゲゼルシャフトの一員として魔法を使った治療に手伝いなど精力的に手伝っている。何かあった時の為に呼び戻した小鴉丸を付けているので、不測の事態が起きても大丈夫だ。

 あとでねぎらいにケーキでも作ってやろう。

 レイは今は寝かせている。

 徹夜は慣れているレイだが、こちらに転移してからずっと頼りっ放しだったからな。休養は必須だ。

 修理に開発、更には事務など多くの仕事を兼任させているからな。

 ある程度は『シルバーイーグル』がやってくれているが、その辺りも改善しなければレイが倒れただけで色々と破綻してしまう。

 だが、一つ聞かせてくれ。何故我の部屋で寝る。


 そして、最終確認も終えてヒルダと打ち合わせと言う名の宴を開いた次の日、我はオルドの王城ではなく、ゲセルシャフトの甲板に立った。

 あの城は我にあわぬ。この船こそが我の城だ。

 傍にはヒルダが、そして今日の為に急ぎ大型飛竜に乗ってやってきたテルズミ王がリンとリンネとアリシアと共に後ろへと付く。

 多くの住民が見れるように三つある広場に投影画像を設置してある。警備は戦闘員の三人だ。

 貴族連中は王城で観れるように分別してある。一緒にすると小うるさいそうだからな。

 向こうの声もしっかりと聞こえるな。住民達の声が聞こえる……のだが。


「あれが俺達の新しい王様?」

「可愛いな」

「うん、可愛い。新しい王様いいじゃないか」

「タダで家を建て直してくれたのも、あの可愛い王様よ」

「そうなの? 少なくとも今までの王様よりは頼りになりそうね」

「あの戦いを見るとねぇ。可愛いのに人は見かけに寄らないわ」


 不満が出ないのは良いが圧倒的に可愛いという声が多いのはどういう事だ。

 これでも新しい軍服に黒いコートを羽織ってカッコよさを出してるのだぞ!


「くっくっく。それが余計可愛いのだよ、イヴ」

「おのれ、判っていて黙っていたなヒルダ!」

「当然だ」


 小声で言いあうが、今更脱いでももう遅い。このままやるしかあるまい。

 カメラの前に立ち、視線を合わせる。


「諸君、此度集まってくれて感謝する。初めて目にする者もいるかもしれん。我こそがこの地の新しき王となったイヴ・ゲセルシャフトだ」


 我の演説が始まると、今まで黙っていた民衆たちがしんと静まり返る。

 ああ……久しぶりだ。最終決戦で戦闘員達を、怪人達を鼓舞するためにこうやって立ったのだな。

 だが、今目の前にいるのは守るべき民たち。


「諸君も知っての通り、エッケザックス国はウケラノス帝国の逆鱗を買い傘下国からの除籍、事実上の滅亡となるところだったが、此度エッケザックスは生まれ変わる。新しき国『パンゲア』として」


 悪と言われた我だが、昔には人に怯え迫害された怪人達も平穏に過ごせる国を夢見ていた。その潰えたはずの夢を叶える第一歩だ。

 

「今は動乱の時代。数多の国が奪い奪われ、戦争に明け暮れておる。パンゲアは我の国だ。故に国民一人ひとりが我の所有物であり宝だ。貴族だけではない、そこにいるお主達全員が宝だ! 宝は何人たりとも奪わせはせぬ! 我が飢えを満たそう、暖かい寝床をくれてやろう、笑いあえる明日をくれてやる。だから、お前達も我に力を貸すのだ。明日を掴みとるために!!」


 ワァァアアアア!! と歓声が聞こえる。

 国は王一人で作るものではない。民がいてこそ国であり、民がいなければそれは国ではない。

 このひとりひとりの歓声を守るために、我は世界へと告げよう。


「我は宣言する! 『パンゲア』が、世界を変えると! 我に付いてこい! 我が未来への道を作ってやる!」

「余は宣言する! 『ウケラノス帝国』が、共に歩むと!!」


 我の宣言に合わせ、ヒルダが雄々しく、凛々しく、美しく宣言する。

 ヒルダと共にならび、世界へ向けて2人で言葉を紡ぐ。世界への宣戦布告の差一歩を。

 

「「今日この日より、世界に『パンゲア』の樹立を宣言しウケラノス帝国との同盟を締結する!!」」

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