↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/67

29話 本命

 会見の場より離れた森にて、顎が外れそうなほどに口をおおきくあけ、呆然としていた男がいた。

 彼の名はズール・エッケザックス。

 エッケザックス国第一王子ーーだった男だ。

 彼は憤怒していた。この世の全ては自分に従うべきだと。帝国から”カリバリ“を貰えたのも自分が優れた存在なのだからと。

 どこまでも自分本位の自分至上主義。

 いずれは世界を統べる王だと全く疑っておらず、遊び半分で諸国を滅ぼし、姫を強奪した。王である父親でさえも自分には逆らなわなかった。

 彼は愉快だった故に、怒り狂った。

 帝国はよりにも自分の偉業を咎め、エッケザックス国を取り潰したのだ。こんなことは許されない。

 傲慢で愚物で愚かすぎる元王子は王の諫言も聴かずに、皇帝を殺すべく動いていた。自らに仕えるならず者同然の側近を連れて。

 見たことがない巨大な船も自らを歓迎するように用意されているではないか。ならば、あれも自分のものだ。

 まずはこの必殺の一撃を栄光の狼煙としよう。そう思いズールは引き金を引く。


 必殺の一撃。

 砲撃は強固な城壁を打ち砕き、城までも打ち崩したカルバリの最大火力だ。


 それが弾かれた。しかも生身でだ。


「あり得ない!! こんなのありえるわけがない!!」


 ズールは激怒する。砲撃が効かなければこの身ですりつぶす。絶世の美女と名高いヒルデガルド皇帝の四肢を奪い、人としての尊厳を奪い尽くして飼ってやろうとさえ企んだ。

 想像するだけ雄が疼く。

 そして森を抜け、全てを手に入れようとした愚かな男はゴロツキを連れて飛び出る。矮小な力を最強と思い込んだまま。


 ◆◆◆


「イヴさん!」


 砲撃が爆発し、真っ先に飛び出たのはプリズム・ムーンである美月だ。それからわずかに遅れて帝国側から青年と巨漢の男、

 そして近衛兵たちが向かってくる。

 栄一達も少々遅れて向かい、全員の視線は会談に水を指した無粋な乱入者達に向けられる。

 乱入者は6mの魔導兵器を駆け、自己を主張するかのように盾と剣が一体化した旗をはためかせながら真っすぐにこちらへやってくる。その後ろには20を超える騎兵。こっちは生身だが手には魔導杖を持っているな。

 この事態を予想は予測済みだ。

 あらかじめアリシアからエッケザックス国の馬鹿が密かに動いていると聞いていたし、ヒルダはそれを放置しておくようにと命じたことも知っている。

 それをきいてヒルダはあれ(馬鹿)を余興の一つにするつもりなのだろうと察した。アリシアも同じ意見だ。

 ならば我はそれに乗ろう。

 この自体を知るのは我とレイ、そしてシルバーイーグルだ。

 あいつに教えたのは、あらかじめ伝えておかないとあの副砲で簡単に片付けてしまいそうだからな……。

 近づきつつ有る魔導兵器に視線もくれず、ヒルダは真っすぐに我を見つめる。


「さて、イヴよ。我は本命を出した」


 ああ。お前ほどならわかっているだろう。お前はそういう存在だ。

 ならば我はそれに応えよう。


「わかっている。これが”ゲセルシャフト“の本命(・・)だ。―――鏖殺だ。Makeover(メイクオーバー)――!!」


 ヒルダの目の前で真の姿を露わにする。


 ◆◆◆


 雄々しく、そして可憐にイヴは杖を両手に構え、柄頭をドンと地面に付きたてると、地面に巨大な魔方陣が現れ、紫色の光はイヴの身体を覆い、身を纏っていた服が羽吹雪のように舞い散る。散った服の代わりにその美しい身体を強調する様に身体の輪郭を露わにする。


 魔方陣の中から黒い布を思わせる光が現れ、イヴの身体に巻き付く指先から肘まで覆う黒い長手袋へと姿を代え、下半身に巻き付いた光は腰から太ももまで覆い、その上からふわりとしたドレス状のスカートと赤いニーソックスと、ベルトが付いた黒いロングブーツ。


 頭には戦乙女を思わせるような黒いヘアバンドに、六枚の白い翼の飾りがりんっと音を鳴らしながら風になびく。


 美しくも慎ましい胸を覆う光は頑丈な胸部鎧(ブレストアーマー)となり、未来と希望を護る。胸元には蒼く綺麗なクリスタルがきらりと飾られた。


 魔法少女! イヴ・ゲセルシャフト爆誕!!


 ◆◆◆


「可愛い。これが本命……!」

「違わないけど違うっ!」


 ヒルダからの第一声はこれだった。おのれ。

 変身するたびに精神が消耗していく気がする!!


 気を取り直して、馬鹿を相手に勿体ない気がするが、見せるにはあの巨躯は丁度いい。

 走りながら再び砲撃。

 今度は雑に撃ったのか牽制なのか、我らでなく帝国兵に向けて飛んでいく。

 ヒルダが再び弾き返そうと大剣を構えるが、アレは我の得物だ。


「ヒルダ、括目せよ。これが我の力の一端だ『ルシファー』シュヴェルト・フォーム」


 手に持つ杖を長刀形態《シュヴェルト・フォーム》へと変え、腰を深く落とす。


「至極(しきょく)・飛燕(ひえん)」


 ”至極・飛燕”は斬撃を飛ばす必殺剣の一つ。全身の筋肉を駆動させた刃の一撃は帝国兵に向けて飛んでいた砲弾は超重力の斬撃に飲み込まれて消えた。

 これで終わりではない。

 さぁ、エッケザックスの愚者よ。我と踊ってもらおうか。


「ヒルダよ。見逃すなよ」

「ああ。往くが良い」


 全身に重力操作の力を行き渡らせ、超加速を掛けてズール達に向けて落ちる(・・・)。


「なっ!?」


 ズールの間抜けな声が聞こえ動きが止まるが、早く動かないと何もできずに死ぬぞ。――このようにな。

 重力の力を帯びた刀は装甲を豆腐を切るかのように切り裂き、続けざまに馬上兵に刀を振るう。

 命が失われる感覚が手に取るように伝わる。

 ズールは気づきもしていないだろう。

 既に自分に着いてきた者達がこの世に居ないという事を。あのようなガラクタに乗っているから命が判らんのだ。

 勢いを殺すように、足を地面に踏み込ませ反転。その衝撃で地面が抉れ、隆起する。

 ギシリと足が軋む音がする。少々無茶をしたようだがこの程度は問題ない。

 反転し、再びズールへ向かって落ちながら刀を振るい空へと舞いあげる。


「ぬおああっ!? 何が、一体何が起きてるのだ!?」


 もはやズールは何が起きているのか理解もしていないようだ。

 それでいい。


「何もわからず、何もできず、何も理解できない恐怖を抱いたまま死ね」


 空へ浮かんだズールに向かい、我は空へ落ち、斬撃を幾度となく繰り出す。

 一撃一撃で装甲が剥げ落ち、腕が捥げ、足が取れる。

 頭上を取れば空中で踵落とし。地面へ向けて蹴り落とすが、それで終わりではない。

 超重力で自らを加速させ、地面に落ちる前に一閃。地に先に着地し、重力加速を受けたズールへ向けて刀を振り上げる。

 上空でズールが乗っていた機体は十字に割れ、地に埋まり爆発四散する。


 爆風の風を靡かせながら、満足そうに、そして獰猛な笑みを浮かべたヒルダへと我は足を進める。


「良い。見事だ。最高じゃないか」

「これ位当然だ。だが、褒められて悪い気はしない」

「あはははあ!! 良い! 余は最高の気分だ! ああ、イヴよ。余と――」


 そこで我は待ったをかける。もはや何を言いたいのか解る。

 ここまで気が合う奴がこの世界にいるとは思わなかった。しかも、あの素質を持つ者がだぞ。


「我もヒルダに告げたい事がある。共に言おうか」

「あはははっ! ああっ! いいぞ! 余の直感がそれが良いと言っている!」


 互いに獅子が獅子を狩るなんてものではない。龍(我・余)が竜《ヒルダ・イヴ》を狩る視線を、闘気をぶつけ合う。


「「我・余と共に来い。世界を手に入れよう」」


 ああ……やはり気が合う。一歩も引かぬ、覇王たる存在。

 お前もまた、一歩間違えれば世界の悪と認識される王だ。


「くははっ! 見事に同じだとはな。愉快だ」

「ああ! 余は最高に愉快だ。ならば、後は分かるだろう」

「無論」


 長剣と大剣の切っ先を向け合う。

 互いの主張が重なり合っても、止まらぬ戦いはある。

 止められるわけがないだろう! 血の滾りが、それを許さない。

 さあ、来い!! ヒルデガルド!! この世界の『悪』になり得るヒーロー(・・・・)!!


 

宜しければ感想、ブックマーク、下記の評価ポイントを頂けると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。