30話 総帥vs皇帝
突如始まったイヴとヒルダの戦い。
始まりの一撃は長剣と大剣のぶつかり合いから始まる。
真っ向勝負、と言えばカッコいいがその余波はとてつもなく、衝撃波だけで大気が震え、砂埃が巻き起こった。
「皆さん、私の後ろに!! セイクリッド・ムーンキャッスル!!」
あの戦いは危険だと判断した美月は急ぎ結界を張る。
巨大な月光の城塞は美月達を守る壁となり、二人が放った衝撃波を食い止めるも振動がビリビリと響き、肌を震わせる。
美月の防壁越しでもこの威力だ。防壁が無い帝国の面々は今の一撃で吹き飛ばされ、飛行船が倒れかける。
『プリズム・ムーン。ここは私が防護フィールドを張ります。帝国の皆さんの方をお願いします。あのままでは直ぐに壊滅するでしょう』
「わ、わかりました!」
「俺っちは重機で飛行船を支えるっす! シルバーイーグルさん、射出頼むっす!」
『了解。汎用型マニピュレーター式重工作機『マックスギア』射出します』
銀二の声にシルバーイーグルは即応し、艦から『マックスギア』を射出。銀二は剥き出しのコクピットに乗り込み、安全カバーを降ろして即座にキャタピラを唸らせ、今にも倒れそうな飛行船へと向かっていく。
美月は一足先に、帝国の方へ向かい再度防壁を張ると、一斉に美月に注目が集まる。
「決してここから出ないでくださいね。この光の壁より先に行くと巻き込まれますよ」
「わ、わかった。正直助かった……」
「あんなのに巻き込まれたひとたまりもないぜ」
遅れてやってきた銀二がワイヤーフックを撃ちだし、倒れそうな飛行船を支える。
「そっちの魔導兵器も手伝うッすよ! 俺っち一機だけじゃ無理っす! お願いするっすよーー!」
「わ、わかった! このワイヤーを引けばいいのだな!」
「流石っす!! 引いたら後は俺っちが固定の杭を打ち込むから頼むっすよ!!」
即興で魔導兵器に指示を出す銀二。その指示は明らかに下っ端が懇願する感じだが、魔導兵器に乗り込んでいる帝国兵は嫌な感じを受けず、素直に頼みを聞き入れ指示に従った。
これは銀二が持つ処世術の一つで、謝罪と頼みごと、更には煽てて相手の気持ちをくみ取る下っ端なりの処世術だ。
弱者は弱者なりに強さを着け、銀二は戦闘員として様々な場面で活躍している。重機の扱いもその一つだ。
「これでオッケーっす! 助かったっすよー! 本当にあざーっす!」
「いや、これ位なら我々にかかったらな。それよりも、お前もやるではないか。傷つけずにフックを引っ掛ける手際は見事だぞ」
「いやーそれほどでもあるっすよー。それよりも戦いの方がとんでもない事になってるっすよ!」
魔導兵器に乗った近衛兵達の視線が一斉にイヴとヒルダに集まる。
「嘘だろ……!?」
「俺達でもあの陛下には一分も持たないというのに、マトモにやりあっている」
近衛兵たちも訓練としてヒルダとやりあう時はあるが、近衛兵全員でかかったとしても傷一つ付ける事が出来ず、一分以内に全滅してしまう。
イヴは既にヒルダに手傷を負わせている。その時点で彼らは自分達とは次元が違う存在だと認識していた。
「二人とも笑いながらやりあってますね」
「あの少女は一体……何者なんだ……」
巨漢の男がぽつりとつぶやき、同意する様に青年も二人の戦いを見流さないように続けて感想を漏らすと、美月は自慢する様に答えを出した。
「……私たちが戦った最強の敵です。今は、頼りになる味方ですけど」
「最強……」
最強の2文字。帝国ではヒルデガルドがその看板を背負っていたが、もう一つの最強を目の当たりにした近衛兵たちは納得せざる得ない。
一撃一撃ごとに並大抵の騎士ならば致死に至る一撃。近寄る事さえ出来ず、最強同士の戦い。
美月はこの戦いの気配に見覚えがあった。忘れるはずがない。
幾度となく共闘したあの人たちと、そして自分達から感じた不思議な感覚。
見ているだけでも感じる溢れる勇気、全身から出ている金色の粒子、そして恐ろしいまでの戦闘能力。
(もしかして……あの人は……)
魔法少女という経験を積んでいた美月は肌で感じた。
ヒルデガルドは自分達『ヒーロー』と同じだと――。
◆◆◆
「あはは!! 凄いなあの少女は!! 可愛い上に余たちの余波を易々と防ぐか」
「ああ。あいつは凄い奴だ。防御能力だけならばヒルダ、お前でも突破出来んかもしれんぞ」
「イヴにこういわせるとはな! 一太刀入れてみたくなるではないか!!」
「ふん、あの子に手を出したくば――」
「倒せ、と言う事だろう!!」
美月に手を出させる訳にはいかんからな。
ヒルダは軽々と大剣を振るい、地面を切り裂きながら剣を振り回す。
あの大剣は非常に厄介だが、もっと厄介なのはヒルダの野生じみた剣技だ。
本能で動く相手程、厄介な物はない!!
ええい! クルセイジャーレッドでもまともな剣技しておったぞ!!
大地を切り裂きながら鮫のように襲い掛かる大剣。当たればこの身とて致命傷は免れない。
長刀で切り払い、隙を作ったとしてもヒルダの武器は大剣だけではない。その身体全てが武器だ。
即座に反応し、蹴りが飛んでくる。
それを回し蹴りで相殺し、一度距離を置く。
「あははは!! 楽しいぞ!! こんなに楽しいのは久々だ!! 余はこれを求めていた!!」
いかんな。余計なのを目覚めさせた気がする。だが――。
「そうだろう! イヴよ!! お前も笑っているぞ」
ああ。認めよう。楽しいのだ。力の限りをぶつけ合える相手がいるというのは。以前より劣った身体とはいえ、加減せずにぶつけある相手は本当に少なかった。それこそ最後に戦った『ヒーロー』達だけだ。
「ああ……! 良いだろう。我の力を存分に味わえ」
「余の力も味わうのだぞ!! ああ、殺し合おうじゃないか!!」
目をギラギラとさせながら、大剣を風車のように振り回すヒルダ。無茶苦茶な剣技だが、あれに巻き込まれれば我とてひとたまりもない。
ならば引くかと言われたら、否!! 真っ向から迎え撃つ!!
「至極・天!!」
高速の斬撃にはそれを上回る剣撃で応じる!
激しく剣と刀がぶつかり合い、衝撃波が周囲に破壊を生み出す。
反らした刃が我の頬を掠り、ヒルダの肩を浅く切りつける。
戦艦でも易々と絶つ超重力を纏った我の刃だが、あの大剣は切れない。
何度か打ち合って分かった。あの剣は――刃が存在しない。
ヒルダの力が剣の形を成した質量ある刃だ。それなら重さもないのも納得だ。
「こいつはどうだ!」
「飛び道具なぞ余には効かぬ!!」
ノワールスマッシャーも放ってみたが、簡単に弾かれた。
あの砲弾を切り払うヒルダなら出来てもおかしくない……いや、本当はおかしいんだよ。どうして弾くんだよあれを!
ならば、後は切り札の一つである『デットエンド・ブラスト』だが、あれはまだ不安定なうえに加減が全くできない。
ヒルダとは戦って楽しいのだが、殺すのはマズイ。
殺さずに倒すという無理難題をやってのけないといけないのだが――上等だ。やってやろうじゃないか!
それに、あの動きにも慣れてきた……というよりは、アイツ――プリズム・ソレイユと同じだ。本能と直感で動く一番厄介なタイプだ。考えない野生児ともいう。
それならばやりようは幾らでもある。
ソレイユと同じならば、通用するはずだ。それには一つ必要なものがある。
肉薄するヒルダを蹴り飛ばし、自らに後ろ向きの重力を掛けて距離を開けてレイへと視線を向ける。
「レイ! シュネルフォームは搭載しているか」
「もっちろんさ! こんなこともあろうかとぉ!」
だと思った。お前はそういうのが好きだからな。
相手が直感で動くのであれば、それ以上の速さで叩きのめす!
「『ルシファー』シュネルフォーム!」
我の声に応え、長刀が光の粒子に分解され、そのまま我の手足の強化装甲へと姿を変える。強化装甲は黒い羽根の飾りが加えられており、さながら天使のようだ。可愛さがまで増しているぞ……! レイまたやりやがった!
訴えの視線を一瞥レイに向けると、テヘペロと返しおった。
シュネルフォームは我の身体能力を底上げする力を持つが、その中でも特筆して強化されるのは速度だ。
「さぁ、ヒルダよ。決着を付けようか」
「あははははは!! いいぞ! 余の全身全霊の一撃を受けてみよ!!!」
ヒルダは大剣を下段に構え、全身から溢れんばかりの覇気を放った。
「覇王剣ウケラノスよ! 余の力を喰らえ!!!」
大剣は見る見るうちに長くのび、20m以上の超巨大な大剣となる。
あれに当たったら死ぬな。だが――当たらなければどうという事はない!!
あれほどの長さになると流石に重さを感じるのか、全身の筋肉を流動させて全力で振りかぶるヒルダ。
全身全霊と言うのは真実だろう。
今までで一番剣速は速く、剣に限れば今までで見たヒーロー達の中でも最速最強だ。
しかし、我の方が速い!!
シュネルフォームにて強化されたのは身体能力。その中には動体視力に加え、反応速度も含まれている。
触れずとも、近づくだけでチェンソーのように切り刻まれる刃を紙一重で潜り抜け、上空へと大きく跳躍する。
ヒルダは我の姿をはっきりと捕え、にやりと笑みを浮かべる。
空中ならば身動きが取れないとでも思ったのだろうが――もう終わりだ、ヒルダ。
我とヒルダとの間に、重力のリングを形成。
「これでフィナーレだ!! グラビティ・スマッシュ!!」
上空から、自身に重力加速を掛けた飛び蹴り。その蹴りは重力のリングを抜けるごとに加速を増す。速度は力となり、最速の一撃を捕える事は適わぬ!!
それでもヒルダは反応し、切先を我へ向ける。これに反応するか!!
ギャリギャリと金属音が削れるような音が鳴り響く。蹴りと剣、激しい拮抗は長くは続かなかった。
ヒルダの大剣が弾き飛ばされ――。
「ぐあっあああああああああああっ!!!」
その胴体に我の飛び蹴りが炸裂し、地面に巨大なクレーターを生み出して爆発的な粉塵を巻き起こす。
手ごたえ、有だ。
ヒルダから飛び退き、粉塵を散らすとゆらりとヒルダが立ち上がった。
あの必殺の一撃を受けて立ち上がったヒルダに周りの近衛兵、そして美月達が驚きの表情を浮かべているが、次の瞬間ヒルダは崩れ落ち、大の字で倒れ込んだ。
「あ~~あ……負けた」
「その割には、満足そうだな」
「うむ! 余は大満足だ! 完敗したぞイヴ!」
完敗と言う割にはヒルダは満足そうな笑みを浮かべていた。
剣と刀との応酬、その果てに我の必殺の一撃を受けたにしてもそのように笑えるとは驚きだ。
とはいえ、我もヒルダの攻撃を完璧に避けれた訳ではない。ヒルダの最後の一振りは我の肩を大きく傷つけていた。正直いたい。
痛いが我慢だ。いつもの事だからな。
倒れこんでいたヒルダだが、ひょっこりと起き上がる。
おい、もう起きれるのか。ふざけたタフネスだな。
「それで、イヴよ。余は負けた。勝者は敗者に言う事を聞かせる権利がある。余程でなければ聞くが言ってみよ。なんなら嫁でも良いぞ! イヴは可愛いから嫁になってもよい!!」
おっと、戦いが楽しくてついつい忘れていた。
嫁は遠慮しておく、というかそれは余程の入らんのか。
言うのは変わらんが先ほどのを――少々面白く変えて告げるだけだ。
「ならば遠慮なく言わせてもらおう。ヒルダよ。我と共に来い。この世界の半分をくれてやろう」
我の命にヒルダはきょとんと眼を見開き、晴れ渡る青空に大きく響く笑い声をあげ、我もそれに同調して笑った。
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