28話 最高戦力
ヒルダが唖然としている。
ヒルダだけではない。帝国からやってきた者全員が間抜け面を晒し口を半分開けておる。
ああ、爽快だ。苦労した甲斐があったと言うものだ。
ちらりと視線を後ろにいるレイに向ければ、ブイサインを出すレイ。
ほんとーーーーに苦労した。アレを持ってくるのにはな……。
◆◆◆
時間は我らがゲセルシャフトに辿り着いたその日に遡る。
「ちょーっとイヴの協力が必要なんだ。勿論、手伝ってくれるよね♪」
こういうお願いをする時のレイは非常に手ごわい。協力するというまで引き下がらんのだこいつは。
「判った」
「聞き分けが良くて助かるよ。それじゃ、行こうか」
「待て。早速か?」
「勿論。善は急げって言うだろう」
だからその言葉は我らにあわんだろう!
「じゃ、チャールズ。あとは頼んだよ」
「了解デース」
後の事はチャールズに頼み、我はレイに手を握られ、引きずられるように連れて行かれる。
ええい! 前とは歩幅が違うのだぞ!
お前のペースで歩かれたら――!
「あ」
ずるんずべ。
こけた。
見っともなく顔面から。
「あ……ごめんイヴ」
「謝る位ならやるな……」
それからはくっ付きながらも我の歩幅に合わせてレイは歩く。
それにしても、レイはこんなにスキンシップが多かったか?
我が元の身体だったころは垂れかかったり軽く手を合わせる事やたまに我の膝上でくつろいだりしていたが、歩く時ではまだそう多くなかったはずだ。
まぁ、少しの間とは言え異世界に来て離れたのだ。寂しい思いをさせたに違いない。これも我慢だろう。
やや貧相な胸が頭に当たりながらもようやくたどり着いたのは、エンジンルームだ。
ここは最重要区間の一つだ。ここには核燃料を使ったエンジンの他に、反重力装置などが置かれている。
そして案内されたのはリアクターコアにヒビが入った反重力装置だ。このコアは地球でも数少ない貴重金属の他に、宇宙を漂う小惑星から採取した貴重な金属を配合して作られている。今は戦いの際に壊れてうんともすんとも言わんが。
レイは反重力装置のコンソールを操作し、リアクターコアに繋がっている装置を外して、我に差し出してくる。
「イヴ、君にやってほしいのは、このコアの代わりに君の力でこの戦艦を動かしてほしい」
「は……?」
待て。戦艦『ゲセルシャフト』をか?
「無茶をいうな。流石に我でもこの『ゲセルシャフト』を動かすのは無理があるぞ」
全長1kmもある『ゲセルシャフト』。重力操作で持ち上げるにしても、船体を全て重力場で覆いつつ、バランスを崩さぬように運ぶのは至難の業だ。
「そこをボクがサポートするのさ。君にこのコアに繋がれた装置を繋げ、いつも通り重力操作を行う。プログラムをリアルタイムで書きかえれば何とかなると思うよ」
何とかなるってお前な。相変わらず常軌を逸した奴だ。
現状の状況を読みこみ、リアルタイムでプログラムを書き換える奴なんぞ、世界を探してもレイだけしか出来ない芸当だ。
しかし、何時までもこの森に置いておくのも問題だ。戦隊は不時着した状態でちゃんとした着地はしておらん。このままだと横倒しになるのは目に見えている。
それに、これをヒルダに見せれば度肝を抜くのは間違いない。
「仕方ない……やるか」
言われたままに装置を掴み、椅子に座って重力操作を発動する。
すると、装置を伝い我の身体から艦内全体に万遍なく通るように重力操作が行き渡っていく。
途中で止まる部分もあるが、直ぐにそれは解消された。
レイの方を見れば、目に留まらぬほどの速さでコンソールを叩き、次々とプログラムを書き換え、上書きし、我をコアとして代用できるように組み替えていく。
末恐ろしい力だ。だからこそ、レイもまた世界の悪と見られたのだ。
今の世代からリペアロイド、治療ポット、改造人間計画、『ゲセルシャフト』など二世代以上もかけ離れたような発明を成し、世界に貢献しつつもその頭脳を恐れられ、悪と見られた女。
その実態はこんな奴だ。
ぐうたらで、身勝手で、仲間思いで、情に厚く、何処にでも良そうな女で我の唯一無二の相棒だ。
「よし、ひとまずはイヴ、そのままで頼むよ」
待て。そのまま? ほとんど我の全力だぞこれ!
もうそれから大変だった。
常時能力を発動させながら制御をおこないつつ高度調整や速度調整、方角調整など全て意識して行いつつ、一度森から脱出。
廃墟となったミカヅキ村付近に降り立ち、次はレイがサポートに付けるようにプログラムを改変。
ある程度の速度を維持しながら重力操作でオウカ砦に立ち寄り、エッケザックスまで飛んだのだ。
その間ずっと我は能力を使いっぱなしだ。無事、エッケザックスに着陸した時には疲労困憊でぶっ倒れた。
正直、最終決戦の時より力を使ったぞ。
ぶっ倒れた我をレイがかいがいしく世話をしたらしいが、記憶にない。
着替えから風呂まで丁寧にやっていたと美月が言っていたが……美月は何故顔を赤くして言ったのだろうな。
我何をされたのだ。知るのが怖いしレイがつやつやしてたのが気になる。
風呂のつやつやだよなそれ!?
◆◆◆
我の多大な苦労もあり、こうして皆の度肝を抜くことが出来た。
それに、全力を維持したお陰で能力の方も微小なりとも成長しているーーとはいっても元の身体の時に比べたら程遠いがな。
時間にして一分ほどだろうか。時が止まったかのように静まり返っていた会談の場だが、静寂は楽しそうな笑い声と共に破られた。
「あはははは!! 凄い!! 凄いぞイヴ! まさかこの様なものを用意してくるとは!! 見たことないほどの巨大な船! そしてそれを覆い隠す秘術! ここまで余の想像を上回ってくるとは!!」
ヒルダは非常に嬉しそうに腹を押さえながら高らかと笑い、よほど愉快だったのか目元に涙さえ浮かべている。
ヒルダが連れてきた帝国の者たちもそんな皇帝の姿に目を丸くし驚いている。
おそらくここまで期待に応えたのはごく僅かか、もしくは我が初だったのだろう。
ヒルダはひとしきり笑うと目元の涙を細い指先で拭って、満足そうに微笑む。
「見事だ。『ゲセルシャフト』のイヴよ。此度は余の負けだ」
負け。その言葉に帝国の者達がざわめく。
そう。今回この場はただの会談ではない。どちらの立場が上かどうか示すための戦争だ。
だからこそ、ヒルダは7日と言う間に集めれるだけの最高戦力を集め、この場に現れた。
これを超えるとなればうちでは色々とあるが、『武力』に対しもっともわかりやすいのはやはり『武力』だろう。無論、知識や金などそれらで戦ったとしても勝つ見込みはあるがな。
しかし、ヒルダはともかく共をしてきた帝国の者達は素直に頷けないだろう。
「恐れながら陛下! 外見だけのハリボテ、もしくは魔術の類の恐れもあります! 敗北と判断するには早計かと」
近衛兵の一人がヒルダの言に異を唱えた。
これは即刻クビを跳ねられてもおかしくない行動だ。この場合のクビは立場ではない。文字通り頭が物理的に飛ばされるだろう。現に周囲の近衛兵は“何を言ってるんだ!?”と言った目でその近衛兵を見ている。
ヒルダはその近衛兵に視線を向ける。獅子がウサギを狩る様な鋭い眼光に射られても近衛兵は言葉を覆すことなく立ち続けている。膝は震えているが。
ヒルダは腰に下げられた剣の握りに手をーー掛けることなく、深くうなづく。
「お前の言うことももっともだ。余の怒りを買いかねないにも関わらず、意見を成したその勇気に免じて此度は許そう」
周囲にホッとした安堵の息が漏れる。それは近衛兵の命が救われた事か、それとも皇帝の怒りを買わずに済んだものか。おそらく両方だろう。
「イヴよ。それがハリボテでないことを示す証を余達に見せてみよ」
「ああ。皆のものよ、あの岩山に注目だ」
我が示すのは遠目に見える岩山だ。直径20m、高さ30mほどのビルぐらいの大きな岩山だ。あれは時折、高所から岩が落ちて隣接している街道を塞いだり、落石で旅人の命を奪っている困った場所だ……と、エッケザックスに来ていた商人から聞いた。
あれならば何の問題もないだろう。
「シルバーイーグル」
『了解。ゲセルシャフト三番副砲、目標補足、砲身固定、誤差0、001%。いつでも撃てます』
現在、シルバーイーグルにはゲセルシャフトの操作権を譲渡している。副砲もその一つだ。
シルバーイーグルに譲渡したのはちゃんとした理由がある。
現状では、これらの操作を十二分に行えるのはレイだけだ。だが、
レイは他にも多くの作業を並行して行なっている。要は負担軽減策だ。シルバーイーグルはこの手も得意なので大半を任せることにした。通信が届くなら遠隔でもできるらしいからな。
全員の注目が岩山に向いたのを確認すると、我は腕を振り下ろす。
「発射!!」
我の掛け声とともに三番副砲が轟音を立てて直径1mほどのビームを三発放つ。
連続で放たれたビームは一直線に岩山に向かい、その半ばを大きく吹き飛ばした。周囲の索敵もリアルタイムで行わせているので、通りすがりの行商人や旅人が巻き添え食らう心配は皆無。
岩山はもう半分以上が消失し、残ったのは根元だけだ。シルバーイーグルに調べてもらったところ2mほどの高さだそうだ。これならば落石の事故はないな。
それよりも、ヒルダは目を煌めかせて吹き飛んだ岩山とゲセルシャフトを交互に見ている。
「ふははは!! 良い! 良いぞイヴ!! これこそ、余が手を組むに値する者だ!」
「ヒルダの目にかかって何よりだ。だが、そっちの本命もまだ見せていないだろう」
ヒルダは一瞬、目を丸くし驚いたがそれも直ぐにニヤリと眼光鋭い目で我を射抜く。
「ほぅ……」
確かにあの飛行船団や航空戦力たる飛竜、屈強な帝国兵に魔導兵器の数々は帝国の力を結集したと言っても良いだろう。
殆どの者がこれが本命に思うのが当たり前だ。だが、違う。
美月も気づいているのだろう。魔法のステッキを強く握りしめ、我を心配そうに見ている。
帝国の正真正銘の最高戦力はーーヒルダが一歩踏み出したその時、シルバーイーグルがアラートを鳴らす。
『イヴ・ゲセルシャフト。東の森から高火力の熱源を察知! 着弾点はこの場所です!!』
シルバーイーグルの焦ったような声。すぐにシールドの許可を求めてくるが、熱源ーー赤熱の砲撃はまっすぐにヒルダに向かいーー。
「ふんっ!!」
ヒルダは腰に下げていた剣の握りに手をかけたと思えば、砲撃を斬りはらい、砲弾は真上へと飛んだ。
速い。
ヒルダの手には身の丈のおよそ三倍の長さを持つ光り輝く大剣が握られていた。
足元には地面ごと切り上げたと思われる一筋の斬撃の跡。
それを見た瞬間、我は思わず笑みを浮かべていた。
明らかに文字通り身の丈に合わない大剣を、重さを感じさせないほどに振るう膂力。
一瞬でもタイミングがずれればヒルダはただですまず、下手をすれば周りの我らか帝国の者に飛んでいったにもかかわらず、見事に真上に飛ばす技量と動体視力。
そしてそれらを成しえる身体能力。
「そうだ。余こそがウケラノス帝国最高権力者にて最強。ヒルデガルドだ」
我らは真上に飛んだ砲弾が爆発し火の粉が降り注ぐも、帝国最強からは目をそらすことができなかった。
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