27話 ウケラノス帝国皇帝ヒルデガルド
ついにウケラノス帝国の皇帝、ヒルデガルドとの対談の日となった。今回は『ゲセルシャフト』の生き残り全員で出迎える。新しく入れた戦闘員達は見せられた者じゃないからな。艦内の掃除をやらせている。
「あの……私が付いてきて……本当に良かった……でしょうか?」
「リン、一度この世界の覇権を唱える王と言う者を見た方がよいでしょう。妾も昔に一度見ましたが、明らかに妾たちとは別格の存在でした」
そう、今回クサナギ国からは王女のリンと王妃であるリンネ、他宰相のエンキに他数名の近衛兵が付き添いで来ている。
主に表に立つのはリンネとエンキだな。リンは顔見せだ。あのヒルダに顔を覚えて貰っていたら何かしら都合が良いだろうというリンネの考えのようだ。
因みに王であるテルズミは決済すべき書類が山のようにある事と、外交関係はリンネが担当しているので留守を預かるようだ。
リンは相当緊張しているようだが……我が組織の方も数人緊張しているな。特に銀二。
「え、栄一さん。本当に俺居ていいんすかね?」
「銀二さん、大丈夫です。貴方も私達の組織の誇れる戦闘員の一人。胸を張りなさい」
「うぅ……怪人の皆さんと違った緊張が……。私、こういう発表の場に似たようなの苦手です」
「プリズム・ムーン! こういう時はヒッヒッフー! デスヨ」
チャールズ、それは色々と違う。お前も緊張からか普段言わん事を言ってるぞ。というかそれは美月に言ったら色々と危ない奴だ!
「落ち着きたまえ。会話は基本的にボクとイヴが行う。サポートもシルバーイーグルがやってくれるそうだよ」
『お任せください。既に資料の方は完璧に揃えております』
「ああ、頼むぞ。レイ、シルバーイーグル」
シルバーイーグルの声に遠くからざわめきの声が聞こえる。
今、我らがいる場所はエッケザックス国の首都、オルドの目の前だ。
取って置きを持ってきた時に、大きな騒ぎがあり多くの住民たちが我らに注目しているのだ。アリシア達が乗ってきた大型飛竜よりも大きなシルバーイーグルも注目の的だな。
で、我らをここまで案内してきたアリシア達がだが。
「アリシアさん……アリシアさーん?」
心配になって美月が声を掛けるものの、先ほどから放心して返事がない。
大型飛竜達も全員伏せた上に尾を丸めて完全降伏の構えだ。クォンクォンと鳴いている。犬か貴様ら。
「総帥。やはりアレはこの世界の人には衝撃的だったのでは」
「だが、度肝は抜けるだろう」
「でしょうね」
栄一が行っているのは我が用意した取って置きだ。
レイ以外の全員が頷いている。
しかし、このまま呆然とされたままでは困る。いい加減起こすか。
「おい、アリシア。起きろ」
「―――はっ!? も、申し訳ありません! イヴ様」
肩を揺さぶると、アリシアが正気に戻り即座に我に頭を下げた。
何だろうな。我の部下でもないのに忠実な感じがする。
「そろそろヒルダが到着する時間ではないか?」
アリシアが腕時計を確認し、時刻を確認する。
これでわかったのだが、この世界でも時計や腕時計などが開発されているようだ。世界観はファンタジーなのに、魔導兵器と言いどこかしら近代を思わせる物が出てきているな。
時刻は我らのとは大きくずれていたので艦内の含めて合わせるのが面倒だったのは新しい記憶だ。
「そうですわね。天候も乱れておりませんし、そろそろ見えてくるころです」
アリシアが東の方角を眺めていると、先に発見したのかシルバーイーグルが我らに通信画面を表示する。
『イヴ・ゲセルシャフト。東東南の方角から多数の大型飛行物体が接近中です。画像を出しますか?』
ふむ、これがヒルダの言うとっておきなのかもしれんな。なら、ここで先に見てしまうのは無粋の極み。肉眼で拝ませてもらおう。
「いや、自身の目で見たい。画像は不要だ」
『……了解しました』
やや不服そう声のトーンを落として返事をするシルバーイーグル。活躍したいのにできなかったような感じだ。動物で言えば犬が散歩かと思ったら動物病院に行く感じだな。
とはいえ、先に調べはするがな。
「画像は要らんが画像だけでわかる分のデータは集めておけ。頼んだぞ」
『承知!』
嬉しそうだな。ところで最近、お前も小烏丸に口調似てきてないか?
知ってるのだぞ。こっそりと時代劇のDVDを見ていることを。
じっと東東南の方角を見ていると、山の向こう側から黒い粒がやってくるのが見えてきた。
「イヴ様、あちらです!」
「うむ、見えている」
点の数は十……十五くらいか。ここからでも見える大きさとなると相当な大きさだと言うのがわかる。
近づくにつれ、徐々にその概要が明らかになる。
一言で言えば巨大飛行船だ。シルバーイーグルの調べによるとおおよそ全長220m。船体を金属で覆っているにも関わらず浮力を維持してるのはこの世界独特の金属を使っているのだろう。
他に目を引くのは吊り下げられたゴンドラ部分に取り付けられ四砲の大砲に機銃らしきものが見える。らしきものというのは銃とは違い穴が開いていない。単なる棒が付いているのだが、複雑な紋様が刻み込まれていることから魔法を放つ装置だと思われるのがシルバーイーグルの推測だ。
エッケザックスの兵士から手に入れた魔法杖も調べたが、複雑とは言えないがデザインとは違った規則性のある紋様がきざみこまれていたことからおそらく、その推測は当たっている。
それが十五。さらにそのうち五つほどは輸送船なのか大砲などは取り付けられておらず、ゴンドラの代わりに巨大なコンテナが付いている。
なるほど。
航空戦力に加えてあのゴンドラの中身がとっておきか。
傍目から見てもヒルダの本気がわかる。
「あれがヒルダの本気か」
「ええ……正直、私もここまで陛下がやるとは思いませんでしたが……」
アリシアが苦笑いを浮かべながら我らの後ろに視線を向ける。
ヒルダが本気のように我も本気だからな。
それからしばらくして、飛行船はあらかじめ用意されていた着陸場にゆっくりと降りる。着陸場といっても飛行場のように石灰でレーンを描いただけだがな。このことは向こうにも伝えてたら喜ばれた。
簡単に出来て助かると。
どうやら何時もこういった辺境に降りる時はどこに降りればいいか困ってたらしい。
飛行船の周りには大型飛竜達、その数百匹。大盤振る舞いだな。
「これだけの戦力……小国どころか大国との戦争でしか見ませんぞ」
「つまり、それだけの評価をしてくれているという事だろう」
全貌を目の当たりにしたリンネが言葉を震わせながら降りてくる船団を見やる。
期待は裏切らんぞ。ヒルダ。
飛行船が下りたち、次に大型飛竜達、そして輸送船からは6m程の人型魔導兵器。一機欲しい。
その全てが前座だ。本番はこれからだ。
一際豪華な飛行船のハッチが開かれると、それと同時に我とレイ以外の全員が動く。
美月が『プリズムアップ』で魔法少女プリズム・ムーンに。
栄一、銀二、チャールズの三人が一斉に『Makeover』と唱え、変身する。
一瞬、何事かと思ったリンネやクサナギ軍、そしてアリシア達だがその答えは直ぐにやってきた。
圧倒的な力で押さえつけられるような感覚、屈服せよと意志を乗せられた力、有象無象の心をへし折り、戦闘の意志すら根こそぎ刈り取る覇気がハッチから現れた一人の女性から放たれた。
ヒーロー達との激戦を潜り抜けてきた我らが戦闘員、そして美月はハッチ越しにも関わらずその力を感じ取った。これぐらいは歴戦の我らなら意識を失うことはない。銀二の膝は笑ってるが。
我はこの程度では怯みもせぬし、レイもまた同じだ。
覇気はこの場にいる全員に放たれ、幾人もののクサナギ軍の兵士が崩れ落ちるように倒れ失神し、強靭なはずのアリシアが連れてきた親衛隊の半数が倒れた。
耐えたのは我ら『ゲセルシャフト』の全員と、少数のクサナギ軍の武士、リンネ、アリシアと僅かな親衛隊。そして――リンだった。
何故だ? リンはこのようにか弱い。吹けば飛ぶようなのに平然と不思議そうに首をかしげている。
幾つもの疑問が頭に過るが、今はヒルダだ。
「ふむ。かなり強めの気を放ったが、余の覇気を耐えたか」
「陛下……やり過ぎです。うちの親衛隊まで気絶しているじゃないですか。将軍のシゴキに耐えた人達なのに」
「ああ。しかし、クサナギ軍の者の方が耐えた奴が多いな。こりゃ辺境の獣人とは侮れねぇようだぜ」
凛々しさと豪華さを兼ね備えた軍服なのに全く色気が隠せず、分厚いマントを物ともせずになびかせながらたわわな魅力を隠さず堂々と見せつけながらハッチを降りてくる女性。そしてそれに付き添う術者らしき青年と二人の倍ほど身長のある巨漢の男。
あの者がウケラノス帝国皇帝ヒルデガルド。声から察するに青年の方は通信水晶越しに窘めてた奴だろう。苦労人の気がする。もう一人は胸に飾られた勲章の多さから見て将軍だろう。
ああ、しかし……この全身から感じる強者の感覚。思わず我も気が昂ぶってしまいそうだ。
「イヴ。落ち着いて。君も気が溢れ出ているし、頬が紅潮してる」
「む、すまんな」
レイに窘められてしまった。
つい先ほどの覇気で我としたことが当てられたようだ。
ヒルダの視線は真っ直ぐ我に向いており、傍に付いていた青年と巨漢の男は途中で止まった。我もまた、ヒルダへと真っ直ぐ歩む。
「余がウケラノス帝国皇帝、ヒルデガルドだ」
「我が『ゲセルシャフト』首領、イヴ・ゲセルシャフトだ」
互いに視線を合わせ、先に口を開いたのはヒルダだ。
「どうだ。余のとっておきは! 凄いだろう!!」
堂々とたわわな胸を張るヒルダ。ああ、凄い。認めよう。
あの軍もだが、何よりも貴様の方がとっておきだ。
「そちらのとっておきは――あの奇怪な鳥型の魔導兵器か?」
『お初にお目にかかります。ヒルデガルド皇帝陛下。私の名はシルバーイーグル。残念ながら違います』
「ほお! 喋った! これだけでも凄いのに違うのか?」
「そう急くなヒルダ。見せてやろう。これが我のとっておきだ」
指をパチンと鳴らすと、準備していたレイが腕に取り付けている端末を操作する。
すると、我らの背景が歪む。
「おおっ……………っ!!?」
光学迷彩が解かれて、うっすらとその場に溶け込んでいたモノが露わになる。
全長1kmの超大型な船影が露わになるにつれ、ヒルダの口が開いたまま唖然となる。
「なっ……!?」
「これは……!?」
それはヒルダが連れてきた青年や将軍、近衛兵、その場にいる全員を驚愕の渦へと叩き落とした。
この光景は先ほども見た。決して逆らうような気が起きず、圧倒的な力の権化。エッケザックスの民が見ただけで屈服する代物。
アリシアでさえ、これの前では同じ表情を浮かべるしかなかった。
彼らの目の前に移り、我が持ってきたのは一言で言えば超巨大な鋼の龍であり、我らが本拠地――。
「これが我のとっておき『ゲセルシャフトだ』」




