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25話 帰艦

「総帥。拙者はここに残るでござるよ」


 出発を決めた時、小鴉丸が不意にそんな事を言い出した。

 全員で戻るつもりだったが、何故小鴉丸はそのような事を言うのだろうかと疑問に思っていたが、その答えは直ぐに明らかになった。


「エッケザックス軍の残党が何やら悪さをするやもしれませぬ。此度の会談に入らぬ横やりを入れられては面倒でしょう。拙者ならば、空から見つける事も可能でござる」


 確かに。殆どの兵士は我らとクサナギ国の者達が打ち取ったが、少なくない兵士達が敗残兵となって散り散りになった。

 敗残兵の行く末は悲惨なものだ。国へと戻れないのであれば、山賊か野盗になってもおかしくはない。

 それに、小鴉丸ならば何か緊急事態が起きれば飛んで艦まで戻ってこれるからな。残ったとしても大した問題はないという訳か。


「そうだな。小鴉丸ならば、至急の事態でも対処できるだろう。ならばここは任せたぞ」

「はっ!」


 そういうと小鴉丸はシルバーイーグルから降りて、空へと舞った。方角は城だ。早速、城の中にいる武士たちに声を掛けて残党狩りの誘いに向かったのだろう。慢心せずに誰かしらとともに動こうとするのは小鴉丸の良い所だ。


 我らも一度、艦へと戻るとセキエンに伝えておく。一時的にとは言え、何も言わずに出発するのは余りにも不義理すぎるからな。


『では、皆さま。シートベルトの着用をお願いいたします』


 初めて乗るのだが、本当に小型航空機のような感じだな。シートも柔らかく、座り心地がいい。これならば長距離の移動であっても快適だろう。


 我の隣には美月が、栄一は通路を挟んだ席だな。


『それでは、出発します』


 シルバーイーグルは機内にそう放送すると、真上にゆっくりと上昇していく。シルバーイーグルの大きな利点としてあげられるのが、どのような場所にでもヒーロー達を運ぶことが出来る能力だ。

 ヘリのように真上に上がり、戦闘機よりも早く現場までたどり着く力は敵ながら見事だと思った者だ。今は味方で凄く嬉しい。


 外を眺めれば、見送りに来たのか多くの兵士と共にリンが我らを見上げて手を振っている。少しの行って来るだけだというのにな。こういうところが可愛い。

 我も手を振りかえすと、リンはふにゃっと嬉しそうな笑みで答えてくれた。

 兵士ども、そんなに一生懸命手を振ってる所悪いが我の手はリンに向けたものだぞ。


 ゆっくりと前に進んだかと思えば、視界が一気にぶれる。急加速したようだ。

 それにしては全くGを感じなかったな。


「あれ、イヴさん。まだ出発しないんでしょうか?」

「いや、もう飛んでいるぞ。ほら、外を見てみろ」


 身体を少しずらして、美月に外の光景を見せると「わぁっ!」と可愛らしい声をあげて驚いていた。


「凄く早いですね……。でも、飛行機に乗った時みたいに重力を感じませんでしたけど」

『天王寺美月《てんのうじみつき》。その答えは、私の機能に重力を緩和させる装置が組み込まれています』

「重力を緩和か。それが出来れば移動の面ではかなり役に立つだろう」

『Drマーリンの傑作です』


 Drマーリンの技術とは計り知れないな。うちのレイの方が凄いがな!


「一応聞くが、それは反重力装置とは全く別の物と思っていいのだな?」

『ハイ。イヴ・ゲセルシャフト。反重力装置は多くのエネルギーを使用するため、搭載を見送られたと資料にあります』

「そうか。到着までの間、色々と聞かせてもらっていいか? こうやって聞ける機会というのは無かったからな」

『了解。では――』


 と、専門的な分野や他愛無い話をしながらシルバーイーグルとの空の旅を楽しみ、あっという間に戦艦『ゲセルシャフト』までたどり着いた。




 艦内にシルバーイーグルが帰艦すると、レイ、銀二、チャールズの三人の他に見知らぬ戦闘員のスーツを着た者達が数名彼らの後ろに並んでいた。

 誰だこいつらという前に、レイが一歩前に出る。


「お帰り。アダ――イヴ」

「ああ。ただいまだ」


 危うくアダムと言いそうになったレイ。だが、こうやっていつも我を出迎えてくれるのはお前だったな。

 この声を聞くと、ああ……帰ってきたのだなと実感できる。


「作戦室で色々と話そう。そっちも話す事が沢山あるのだろう」

「ああ。ボクらも色々と頑張ったからね」


 それから我らは直ぐに作戦室へと入り、起きた出来事を話し合った。

 無事、クサナギ国を助けた事、マガツと呼ばれるこの世界の機械兵器と、この世界で最先端の魔導兵器技術を所有するウケラノス帝国との会談を伝えると、レイは興奮しきりに我に詰め寄ってきた。


「ほーほー! こっちの世界でも機械兵器があるのか! それで! そのマガツってのは確保したのかい?」

「気に入らんから破壊した」

「えぇ!? せめて素材か何かないのかい?」

「……ないなぁ。そもそもあれは旧型らしいぞ」


 アリシアにもマガツの事を聞いたら三世代前の旧型だと言っていたしな。今の最新型はもっと大きく、性能が段違いに高いとも言っていたしな。


「そっかぁ。じゃあ何としてでもその会談は成功させないとだね」

「ああ。所でみない戦闘員達がいるのだが……」


 と、壁際に並んでいる戦闘員達を指摘する。その数は七人。

 一番格下の証であるフルフェイス型の兜をかぶり、没個性のスーツを纏った戦闘員達。一切声も発さずに付いてくる姿に美月がやや不気味そうに我のマントの裾を握っていた。


「ああ、あれは現地の者を採用したのだよ。やはり人出は大いに越したことはないからね」

「――なるほどな」


 レイの言うこの場合の採用は、捕えた人間を戦闘員へと改造したという意味だ。

 基本的に我らは戦闘員は募集を掛けて集め、自分の意志で戦闘員の道を選んだものを入団させている。これらは栄一や銀二、チャールズに当たる。

 募集を掛けない採用は――組織に潜入、もしくは害をなした者達の事だ。

 手間はかかるが、洗脳を施し、肉体強化や色々な処置を施している。

 非道ともいわれるが、使えるものは使わねばやっていけない時期もあったのだ。

 昔は消えても問題がない悪辣なマフィアやヤクザなど、資金源を稼ぐのと併用しつつ連れ去ったものだ。

 幼稚園バスジャックなぞする奴らを、わざわざ探すなんて事もヒーロー達はしなかったしな。

 この世界でも同じことをするだろう。

 ……流石にこれは美月には教えられんな。知るのは元より組織にいる皆だけで良い。


「彼らの事は放っておいて、今の艦内の復旧情報を伝えるよ」

「頼む」

「といってもたった二日程度じゃあんまり進展がないけどね……。資材がどうしても足りない」

「やはりか……」

「これが今、修復した部分と足りない資材だね。鉄、銅、ニッケルや色々と足りないよ。金はこの世界でも使いそうだからこれに使う訳にはいかないからね」


 レイから渡された資料を見ると修復できたのは通路や外装ぐらいだ。施設や兵器はまだ手つかず。二日だから当然と言えば当然だが、十分早いのだよ。

 しかし、鉄なら好都合だな。


「そういえば、後で伝える予定だったがクサナギ国を助けた例として鉱山を一つ貰い受ける事になった。これである程度は鋼材は何とかなるだろう」

「本当かい!? いやぁ、それは助かる話だね」

「あとは……ウケラノス帝国との会談次第だな」


 エッケザックス国を貰うにしても、ヒルダとの会談は重要だ。我らを認める事さえ出来れば多くの物が得られる。情報にしろ、人材にしろな。


「相手の取って置きに対等、又は超える代物か……」


 相手は世界有数の大国であり、最先端の魔導機械技術を有する国家だ。並大抵のものでは驚きすらもしないだろう。


「確実に度肝を抜くものなら一つある」

「本当か!?」


 流石はレイだな。こういう事態は本当に頼りになる奴だ。


「そんなの本当にあるんですか?」

「勿論さ」


 美月の疑問の声に自信満々に、白衣越しに慎ましい胸を突きだすレイ。相も変わらず貧相――っと、か思ったら鋭い視線が飛んできた。テレパス能力もないというのに勘の鋭さは恐ろしい。


「イヴ、今さっきへんな事を考えたみたいだけど……それは横に置いておいて」


 忘れずに横に置くらしい。後が怖い。


「ちょーっとイヴの協力が必要なんだ。勿論、手伝ってくれるよね♪」


 そういうレイの表情は非常に可愛らしくあるとともに、恐ろしさも感じた我であった。何をされるのだ我……!?

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