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23話 凶星

『いやはや、凶星というには非常に可愛いではないか。うむ、良い! 実に良いぞ! 余好みだ!』


 水晶玉越しにヒルダは興奮した様子で我の身体をまじまじと見ている。

 まぁ、我のこの身体は世辞を抜いても可愛い。

 我可愛い。

 ……この身体になってから思考がおかしくなりつつある。これ、大丈夫なのだろうか。

 一先ず、凶星とはなんだろうか。


「そんな事よりも、凶星とはなんだ?」

『むふー、いいなぁ。やっぱり人に任せずに余自ら行くべきだった!』


 聞いておらんぞ、こいつ。

 こういう手前は幾ら話しかけても不毛だ。アリシアという小娘ならば、何かしっているだろうか。


「すまんが、凶星とはなんだ?」

「ひっ!」

「……そのように怯えずともよい。態度さえ改めれば、あのような事はせん」


 逆に態度があのままだったら、もっと苛烈にしたがな。


「え、そのですね、凶星というのはウケラノス帝国で重用している占い師が、この地に凶星が落ちたというお告げをお姉様……陛下にお伝えしまして」


 占い師の言か。大国で重用してるということは相当位が上の者とみて間違いない。普通の占いならば、聞き流すところだがあながち、占いというのは侮れない。

 我も組織が大きくない頃に、何度か占い師に声を掛けられた事がある。


『その道は茨。引き返すならば今です』

『そこな貴方、大いなる力には大いなる災厄が伴います。くれぐれも、大事なものを失わぬよう……』

『あぁ……良かった。最後に見れたのが、貴方で……。悪の光よ……、貴方は―――』


『イヴ、どうした? 何故そのように遠い目をしている』


 おっと、つい昔を思い出してしまったようだ。ヒルダが我に注目しているうちに話を進めるか。


「いや、少々考え込んでいたのでな。ヒルデガルド皇帝」

『ヒルダだ。余はお前にヒルダと呼んでほしい』

「……ヒルダ。それで、話によれば凶星が欲しいということだが、それは我が欲しいという意味か? それとも我が組織が欲しいということか」

『ふむ。その事に関してだが――やはりこのような水晶越しではなく、一目あっておきたい。そこから話というのはどうだ?』

「ほう」


 まずは直接会ってからの会談か。

 相手は大国のトップ。我らまだこの世界の事に関しては見知らぬことも多い。

 普通ならば会うのは時期尚早(じきしょうそう)だが、ここで臆するのは我ではない。普通にやっていては早々皇帝と話すチャンスなぞ無い。


「良いだろう。我も会いたいと考えていたところだ」

『おお! そうか! それは良かった! では早速会談場所だが――アリシア。何処が良いと思う?』

「そうですわね……。ここでは今は戦時復興で邪魔になりますわ。でしたら、丁度空いた(・・・)元エッケザックス国ではどうでしょうか?」


 空いた、という言葉が気になるが、確かにクサナギ国でやるには問題だな。エンキの方を見れば、首を必死に横に振っている。流石に大国の会談場所にされるのは勘弁願いたいようだ。


『なるほど。流石アリシアだ。魔導船なら二日あれば辿り着く。では、アリシア。彼女達の送迎はお前に任せる』

「はいっ! お任せくださいませ!」


 アリシアは妙に嬉しそうだな。先ほど、お姉様とも零していたし、シスコンなのだろうか。それとも禁断のアレな感じなのだろうか。


『会談は二日後にでも――』

『殿下! いけません! そもそもまだ大量の決裁していただくべき書類があります! せめて七日後にお願いします』


 水晶玉の向こう側から悲痛な男の声が聞こえる。これは文官か。


『嫌だ! 余は直ぐに行きたい!』

『我儘言わないでください! 貴女は皇帝なのですよ!』

『皇帝だからこそ我儘言っても良いだろう!』

『ダメに決まっているでしょう!!』

『やっ!!』

『子供ですか貴女!』


 とうとう我らを放置して言い争いが始まった。

 とはいえ、これに関しては我も色々とやることがあるからな。二日後と言われても困る。


「あー……ヒルダ。我としても会いたいのはやまやまだが、やることがあるのでな。今、無理して時間を作るよりも七日後に余裕を持って会わぬか? その方がお主としても良かろう」

『ううむ。致し方あるまい。余は皇帝であるからな……仕事はおろそかに出来んのだ。――イヴよ。余は取っておきを持っていく。そなたも期待しておるぞ』


 ヒルダはそう一方的に告げると、通信を切った。

 とっておきか。ヒルダの言うとっておきが何か気になるが、こちらもそれ相当のものを用意すべきだろう。


「イヴ様」


 声の方を振り向けば、アリシアが我に膝を付いて敬服するような姿勢を取っていた。なんだ急に。


「そのようにかしこまって何だ」

「いえ、陛下に見込まれた以上は決して蔑ろに出来ませんので。お姉様……陛下が名を許すというのは余程の事が無ければありませんの。――先の無礼な態度、大変申し訳ありませんでした」


 アリシアはそういうと、両手を付いて深々と頭を下げた。

 異世界でも土下座があるのか。

 あまりの態度の代わりように、美月たちは驚いているな。

 さてと、ここで更に追い打ちをしてもいいが、下手に関係悪化をしてもマズイ。ここは組織でいつもやっているような感じで行くとしよう。


「二度だ」

「え?」

「我は二度までは許すと決めている。故に許す」

「あ、有難うございます! あの、これからイヴ様と呼ばせてもらっても」

「……好きにせよ」

「判りましたわ! イヴ様❤」


 待て。

 何か妙にニュアンスが違う気がしたぞ。何故両手を組んで我を見る。

 その恋する乙女的な目は何だ!!


「あっ……! そうでしたわ。イヴ様。一つお気を付け下さい」

「何だ?」

「……陛下のとっておきは自身の力を象徴するものです。イヴ様もそれに比類、又は凌駕する物をお持ちでなければ陛下は即座にイヴ様を見限るでしょう」


 なるほど。見定めという訳か。

 ならば、ヒルダに見せつける為にとっておきを用意せねば。

 七日、地球感覚で言えば一週間か。十分だ。


「安心せよ。決して期待を裏切らんとヒルダに伝えて置け」

「承知しました……。時に、そこのあなた。エンキと言ったかしら」

「はっ!」


 今まで空気に徹していたエンキが名を呼ばれて即座に一歩踏み出し、膝を付く。


「貴方がた、クサナギ国の者達もイヴ様達との会談に同行しなさい。今回の話は元々はエッケザック国とクサナギ国との戦争が発端。メインはイヴ様と陛下の会談とはいえ、当事者が居ないのは話になりませんの」

「それは勿論。となると……エッケザックス側からも」

「ええ。これが元国王の最後の仕事になるでしょうね」


 先ほどからエッケザックスに『元』という単語が付属している。まるでもう国が無いとでも言うかのように。


「あの、元……とは?」

「あなた方はご存じでありませんでしたわね。エッケザックス国は我が帝国との契約違反、および矜持を汚したとして傘下国から除名。国として滅亡しましたわ」

「なんと!?」


 そりゃ驚くだろう。今まで戦ってきた憎き相手が帝国によって滅ぼされたのだから。


「いつもなら上層部を入れ替えて、新しい国としてやり直すところですが、今回はクサナギ国に謝礼として受け渡す可能性が高いですわね」

「謝礼……国がですか」

「可能性の話ですわ。本来ならば戦争に敗北したエッケザックス国はクサナギ国に土地と多額の賠償金を払うところですものね。その辺りも含めて会談に参加していただくの。お分かりになりまして」

「はっ! 丁寧な説明有難うございます」

「これ位はどうという事はありませんわ。精々相応しき人材を見繕う事ね」


 これはクサナギ国としては勝負どころだろう。

 上手く行けば帝国とは敵対せずに済むのだからな。

 エッケザックス国を丸ごと貰い受けるのは相当リスクが高い。

 なんせ今まで戦ってきた相手だ。

 今日からクサナギ国ですと言われてもはいそうですか、と受け入れるのは到底無理だろう。

 これからのクサナギ国がどう動くか、これ次第で我らの動きも大きく変わる。

 リンの事もあるし、出来るだけ敵対せずに取り込む方向で動きたい。

 まぁ、大量に恩を貸し付けているので、返すまで取り立てるがな。

 そんな事を思っていると我の腕輪から通信が入った。シルバーイーグルからだ。この距離なら通信届くのか。本当に便利だ。


『イヴ・ゲセルシャフト。クサナギ国の王妃の治療が完了しました』


少しストックを作ってました。一章ラストまで毎日一話投稿します。

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