22話 頭が高いのはどちらか
「あら、よくわたくしをご存知ですわね。貴方のその出で立ちを見るとこの国の高官かしら?」
「はい。儂はエンキと申します。この国の宰相を務めております」
「そう。先触れを出したのだけど、たったこれだけというのはわたくしを舐めているのかしら?」
先触れ? そんなのは聞いてないぞ。エンキの方も見れば、心当たりが全くなく首をかしげている。
「……先触れはいらっしゃってませんが?」
「え? ワイバーンに乗った奴がここに来たでしょ! エッケザックスの紋章を掲げた奴が!」
「来ておりません」
アリシアは我に視線を向けてくるが、我も見てないので首を横に振るしかない。
「あの野郎……逃げやがりましたわね!! このわたくし達に恥をかかせるなんて……!」
どうやら、先ぶれに出した兵とやらが命令を無視し、逃げてしまったようだ。
確かにこれは恥ずかしいだろう。既に話が伝わっているはずが、微塵も伝わっていないというのは。
「それで、ウケラノス帝国の者が一体ここに何のようだ?」
「……随分な物言いですわね。このわたくしが誰か知ってのことかしら?」
エンキは必死に目で我に訴えてくる。大人しくしてほしいと。
しかし、我はそんな事に応じるつもりは微塵もない。
「ああ。今さっき教えられたよ。ウケラノス帝国の第四王女だろう」
「そう……。わたくしが第四王女と知ってもその態度は改めるつもりはないと……」
「当たり前だ」
何故、我らがこのような小娘に態度を改めんといかんのだ。
「そう……。その異質さ、不遜な態度、そして見知らぬ衣装と車。貴女が、貴女達が凶星――別の世界からやってきた者達なのね」
「ほう、一目で我らが別の世界の人だと見ぬくか」
「知らない未知の車に、その衣装にわたくしの威光にも寸分の怯みもしない無粋な態度。どれをとっても異質すぎますわ」
洞察力は中々といったところか。流石は王女を名乗るだけあるとしておこう。
「それで、再び聞くがここに何のようだ。それだけの竜を連れて散歩という訳ではなかろう」
「……ええ。目的はたった一つ。その前に貴女、名は何というのかしら?」
「それを教える必要性があるのか?」
「ええ、勿論。だって、これから取り込む者の名を知るのは必要でしょう」
我らを取り込むか……。
「ああ、拒否権なんてありませんわよ。もし断りでもしたら――」
アリシアが手をあげると、一斉に飛竜達が再び空を舞い、旋回し始める。飛竜達の目は我ら『ゲセルシャフト』へと向いていた。
「あの子達が貴方達をズタボロにしてからでも引きずって行きますの。さぁ、痛い目を見たくなければ、名を教え頭を垂れなさい。頭が高いですわ」
頭が高いか。
我の感情を察したのか、栄一が美月を庇うように下がり、小鴉丸もそれに習う。ああ、それが正解だ。
「くっくっく……ふはははっ! ハーッハッハッハ!!」
「何がおかしいのですの? 気が振れたのかしら」
ふざけるなよ小娘が。
「頭が高いぞ……小娘が!」
空を飛ぶ飛竜、そしてアリシアを押さえつけるように『グラビトン・レベル2』を叩きこむ。
「ガッアッ!?」
「ギュアアアアアアア!!?!?」
飛竜達の悲鳴と共に地面が激動するほどの衝撃が走る。
『グラビトン』は自らの体重を同じ重力を叩きこむ技。そのレベル2は体重の倍の重力だ。
その図体の倍の重力ともなれば、さぞかし重かろう。
地面が飛竜の体重と重力により、ひび割れて飛竜達が泡を吹き白目をむき始める。
アリシアも自分の体重の倍の力に抑え込まれ、地面に伏している。
「こんな、こと、して」
「こんなことをしてなんだ? ただで済むと思うなとでもいうつもりか?」
「そうです、わ。大国である、ウケラノス帝国を敵に回して――」
「『ゲセルシャフト』を舐めるなよ小娘。言っておくが――まだ我は2割しか力を使っておらん」
「なっ!? 嘘、でしょう……!?」
嘘は言っておらん。現に我の攻撃を受けた美月は何度も頷いている。
「イヴさん、戦いの時はもっと酷かったです」
「本気であれば、既に巨大なクレーターが出来てますね」
「左様。空から流星等は序の口でござる」
「そ、それほどまでの力を……。いやはや……貴殿方と敵対せずに良かった……」
美月だけでなく栄一も小鴉丸も同意し、話を聞いたエンキが冷や汗を流している。ああ、そうだ。クサナギ国は良かったのだ。
強要も臆する事もない。恩を恩で返す気風は好ましい。それが我のような小娘の姿であってもだ。
「アリシアといったか。我を勧誘したければ、皇帝自らが来い。そうしたら話位は聞いてやる。貴様のような小娘で無く、な」
「っ!? ふざけるじゃ、ありませ」
「ふざけてるのは貴様だ。まだ判らぬのか? お前が対峙してるのは――帝国と敵対しても勝てると見込んでいる者だ」
「!?」
ああ、そうだ。たとえ、ウケラノス帝国と戦端を開くことになったとしても勝てると踏んでいる。自信過剰と見られるかもしれないが、『ゲセルシャフト』の力があれば勝つ。だからこそ、世界にも喧嘩を売ったのだ。
さあ、どうする? このまま話を持ち返るか、又はここで潰えるか。二択だ。
じっと見下ろしていると、三択目となる答えが返ってきた。それも予想外の方角から。
『アリシア。彼女の言う通りだ。王たるもの、ここは余が出向くべきであった』
「陛下!?」
声の先はアリシアの腰元から聞こえる。流石にこの状態では話にもならんので、重力を解除してやる。無論、何かしらやろうとして来たら再び頭を押さえつけてやるがな。
『彼女と話がしたい。アリシア、魔導球を彼女に向けてくれ』
「お姉さま……判りました」
アリシアは土汚れもよそに、魔導球と呼ばれた球体を我に向ける。
魔導球は我らで言う通信機のようなものか。レイが見たら欲しがるだろうな。
球体には豪華な軍服に近い衣装をまとった貴人というべき女性が映っていた。
見ただけで判る。衣装に着られておらず、その者が身にまとうにふさわしい風格、そして画面越しからでも感じ取れるほどの覇気だ。
『お初にお目にかかる。余がウケラノス帝国皇帝、ヒルデガルド・アース・グランドール・ウケラノス。ヒルダと呼ぶことを許そう。余が名を明かしたのだ。おぬしの名も聞かせてくれないか?』
名乗られたからには、名乗らない訳にはいかん。と行ってもアダムの名は今は封印しているからこの身体の名だがな。
「我の名は、イヴ・ゲセルシャフトだ。イヴとでも呼んでほしい」
『そうか。やはり貴殿が地に落ちた凶星だな』
ヒルデガルドと名乗った女性は何やら確信を持って我の事を凶星と呼ぶ。
これが我と長い付き合いとなるウケラノス帝国の皇帝、ヒルダとの初邂逅であった。




