21話 ドラゴン襲来
「―――!! ―――! ―!」
「ふぁ……ああ……何だ。騒がしいな」
良い感じで起きたのだが、何やら騒がしい。
我は眠気が残った目をこすりながら、障子を開けて外を覗き込む。
すると、廊下をせわしなく走るメイドや武士、文官たちの姿が目に入った。
そのうちの一人、文官の男がこちらにやってくる。丁度いい、アイツから聞くか。
「すまんが、何かあったのか?」
「え、騒がしくして申し訳――!?」
文官の男は突如顔を真っ赤にし、後ろを振りむいた。
その時、後ろから美月の大声が響く。
「イヴさん!? 何してるんですかそんな恰好で!!」
そんな恰好? あ……。
今の我の格好は浴衣を着崩した状態で下着が丸見えで大きく肌を露出していた。なるほど、あの者はこれを見て顔を赤くしたのか。
「早く扉を閉めて! もうっ!」
「お、うむ。すまん」
「むにゃ……何やら騒がしいでござるなぁ」
顔を真っ赤にした美月の勢いに押され、言われるがままに扉を閉める。
遅れて起きた小鴉丸も寝癖を直し、零れた大玉果実を浴衣の中に仕舞って着替え始める。
我もまた、白と黒を基調としたゴスロリ服に着替える。
だが、未だ慣れないので美月に手伝ってもらっているが、美月は先ほどの出来事をまだ引きずっていた。
「全く、イヴさんは今は女の子なんですから、もっと自分に気を使ってください」
「と言われてもな……。中身は元々……」
「中身は変わって無くても外見が変わってるんだから、気を付けないとダメですよ! 変な男達に狙われちゃうかもしれないんですから」
むう、確かにそういう輩に狙われるのは良い気がしない。
それに美月の言い分も一つある。何時までも男気分で居たら何かしら問題も起きるだろう……現にいま起こしてしまったしな。
「はぁ。分かった。今後は気を付ける」
「絶対ですよっ。もう……はい。これで終わりです」
美月のお蔭で無事着替える事が出来た。一人で着替えれるようにならんとな……流石にいつも着替えさせられるのは屈辱過ぎる!
「それで、この騒ぎは何でしょう? 外の方が騒がしいみたいですけど」
「そうでござるな。城全体からピリピリとした気配が感じられる」
二人の言う通り、外で何か起きているのは間違いない。
早速着替えて、外に出ると未だ文官がこちらに背を向けて待っていた。
「先ほどはすまんな」
「い、いえ。こちらこそ良きものを……」
良いものだったらしい。
「それよりも、先ほどから何やら騒がしいようだが、何か起きたのか?」
「あ、はい。実はですね、今朝方アマツ砦の方角から多数の大型飛竜の姿を発見したと斥候から連絡がありまして」
「なるほど……。飛竜となるとワイバーンか?」
「……いえ、ドラゴンです」
ドラゴンか。流石ファンタジーというべきか。こうも早く出会う事になろうとはな。
「大型飛竜は群れを成してクサナギ国に向けて真っ直ぐ向かっているようです。私が知るのはこれ位なので、詳しい話は外の者に聞くと宜しいでしょう」
「そうか。忙しい所を呼びとめてすまんな」
「いえ、ではこれにて!」
そういうと、文官の男は足早に書類を持って走っていく。
やはり、詳しい話は文官の言う通り外に出て聞くのが一番か。セキエンかエンキ辺りがいると楽なのだが。
「ドラゴン……、やっぱり襲ってくるんでしょうか」
「何の目的もなくこちらに、それも大軍でやってくるとは思わんからな」
昨日は大量の死傷者を出した。その半分以上がエッケザックス軍だが、血の匂いでも嗅ぎつけたのだろうか。
そのまま外に出ると、栄一がエンキとテルズミ王と話をしていた。
我らの事に気づいた栄一が、小走りに駆け寄ってきた。
「総帥。おはようございます」
「栄一、おはよう。途中で文官の者から聞いたのだが、ドラゴンがこちらに向かってくるようだな」
「はっ! しかし、実はそれだけでなく――」
「栄一殿。続きは自分が話そう」
栄一の言葉を遮り、テルズミ王が戦装束に身を包み、栄一の隣に並び立つ。
テルズミ王の戦装束はまさしく豪華な飾りがついた兜に、武者鎧といったまさしく大将に相応しい姿だった。つまり、この事態はテルズミ王が打って出なければいけない程の事態という事か。
「イヴ殿、ドラゴンがこちらに向かってくるというのは本当だが、そのドラゴンは野生のものではない」
「というと……何処かの国か組織が所有している……と?」
「ああ。伝令の話では、竜に剣の紋章が描かれた旗が見えたとか。この大陸でそのような旗を持つのは一国しかない」
テルズミ王は振り絞るようにその国の名を告げた。魔導兵器技術により、大陸の三割を占める国の名を。
「ウケラノス帝国。東を支配する帝国が我らの国に向かっている」
ウケラノス帝国か……。まさか、エッケザックス国の後ろ盾の国がここまでやってくるか。
考えられるのはエッケザックス国の増援か、またはウケラノス帝国が欲する何かがここにあるかだ。
そのようなことを考えていると、周りの兵士たちが更に騒がしくなる。
大勢が同じ方角を見て指差し、あるものは怯えすくえ、ある者は腰が抜けたのか座り込んでいる。
目を凝らし、同じ方角を見れば丘の上に大量の鳥……違うな。あれがは竜だ。
竜の大軍がこちらに向けて真っ直ぐ飛んできていた。
目を凝らせば、首の根元には鞍が括り付けられ、数体の竜には旗が括り付けられていた。
あれが話に合ったウケラノス帝国の紋章か。
その中で一番を引くのは全てが緑の竜の中、唯一蒼い鱗を持つ飛竜だ。遠目からでも判るほどにその体格は大きく、周囲の飛竜の1.5倍程の大きさだ。
周囲を見れば、兵士の殆どが恐怖で使い物にならない。
無事なのは一部の隊長と我らぐらいなものか。
「イヴ殿……ここは自分たちが時間を稼ぐ。貴殿たちは逃げて――」
「断る」
「え?」
何故、逃げねばならんのだ。
あのような相手なぞ、我らは幾度となく戦った。戦闘機に比べたら遅すぎる。
「ここは任せるがいい。美月、栄一、小鴉丸。共をせよ」
「はっ!」
「は、はいっ!」
「承知!」
我の言葉に一同が頷く。
『イヴ・ゲセルシャフト。ワタシも向かった方が宜しいですか?」
シルバーイーグルか。こいつも合体変身せずとも、相当の戦闘力を誇るが今はダメだ。
「いや、お前はそのまま王妃の治療に当たってほしい」
『了解しました。王妃の治療まであと一時間です』
思ったより早いな。流石はレイ特製の治療ポットだ。
「よし、ならばテルズミ王。出来ればこやつの中にいて王妃の傍にいてやれ。どこかもしれぬ、それも狭い所に入れられてたとあれば錯乱するだろうからな」
「そうだな……。自分も王として貴女らに付いていきたかったが、そちらの方が良さそうだ。イヴ殿の言う通りにしよう」
「殿。イヴ殿には某が共にします」
そういって一歩足を踏み出したのはエンキだ。
我としてはどっちでも良いのだがな。ただ、テルズミ王が付いてくるよりはマシか。エンキはクサナギ国の宰相も務めている。説明役として来てくれる分には助かるというものだ。
「判った。共に来るが良い」
装甲車に乗り城下町を抜けて、門前まで来ると竜達も同じタイミングで辿り着いたのか、上空を旋回していた。
そしてそのままゆっくりと小さな飛竜から降り立ち、次々と大きな足音を立てて飛竜が下りてくる。
最後に一際大きく、それでいて青い鱗を持つ例の飛竜が降り立つと、その背中から小柄な何かが下りてきた。
「何とも少ない出迎えですわね」
降りてきたのは我よりも小さな少女だった。リンと同じくらいか。
「イヴ殿。彼女はウケラノス帝国第四王女のアリシア様です」




