20話 温泉!
晩餐会に招かれての夕食は中々に豪勢な代物だった。
食文化も現代和食に近い代物だ。
多少違うのは豆系が少なく、肉が豊富な所か。この辺りはクサナギ国の者達が獣人であるという事が関係するのかもしれない。
「ご馳走様。美味だった」
「ご馳走様でした。……お肉一杯でしたね」
「総帥、美月様、小鴉丸様。お茶をどうぞ」
「助かるでござるよ。栄一」
栄一が我らに茶を入れて差し出してくる。
湯呑から漂ってくるのは淹れたてのウーロン茶の香り。これはうちから持ってきた茶葉だな。
食事に脂が多いと栄一が察し、物資の中から良い物を見繕い淹れたのだろう。こういう器量の良さも栄一は優れている。
全員で茶を啜っていると、同じ部屋で食べていたテルズミ王もメイドが入れた茶を啜り、一息置いてから我らを見やる。
「どうでしたかな? クサナギ国の料理は」
「大変美味だった。色々と物入りな時にこのようなご馳走を頂けるとは思っても見なかった」
「貴女達に助けられた恩を思えば、この程度はまだまだ。治療薬、衣類、それに食糧まで提供してもらえるとは……これで民たちにひもじい思いをさせずに済みます」
テルズミ王は受け取った物資の大半を民たちの為に解放したのだ。勿論戦った戦士達にも分け隔てなく配られ、外では大なべで煮込まれた粥や麦粥、それに簡単なレシピで作ったポトフなど湯気が至る所で立ち上っている。
シルバーイーグルの積載量は武器さえ外せば相当なもので、約1,5トン程の積載量を誇る。
それだけの物資を放出となると、我らにも相当の負担がかかったかと思われたが、案外そうでもない。
「気にするな。これも治安の為だ。飢えや寒さ、住むところさえあれば人は荒まずに済むのだからな。それに、吐き出した物資も我らが貯蓄しているモノのほんのごく一部。大した負担ではない」
「そ、そうなのですか。『ゲセルシャフト』とは凄まじいのですね」
なんせ、艦内に農業プラントまであるからな。治療に使える植物も栽培してるから医療面の方でもある程度は何とかなる。
そもそも、戦闘員、怪人達が全員いる前提で様々な備蓄を用意してあるのだよ。この国程度なら1年は余裕で賄えるくらいのな。
食後は互いに明日の予定を告げ、我らは温泉に向かう事にした。
「イヴさん。嬉しそうですね」
「む、そうか?」
「はい。だって、さっきから凄くニコニコしてましたし」
むう、意識していなかったが顔に出ていたか。
嬉しいのは、仕方ないではないか。だって『ゲセルシャフト』を立ち上げて以来、満足に温泉なぞ浸かる機会はなかったのだからな。
一度は温泉地を占拠する作戦も考えたが、流石に温泉目的で占拠するのはダメだろうと思い、断念した。
賛成者は割と多かったのだがな。
しかし、温泉に浮かれていて我は忘れていた。
―――今の我の姿が、美少女であることを。
「嫌だ。我はこっちに入る!」
「ダメですよ! アダムさんの頃ならともかく、今はイヴさんなんですから!!」
温泉浴場の前で必死に抵抗する我を、美月が力一杯に女湯へと引き込もうとする。
くそう! 防御が高いということは足の踏ん張りも強いというのを完全に失念していた。じりじりと女湯に引きこまれようとする我は栄一に向けて手を伸ばし助けを求める。七倍の力があれば!
「栄一! 我を引っ張れ」
「総帥……流石にこちらに来られては我々も困ります。そちらの方でお願いします」
戦闘員に裏切られた!? ならば小鴉丸!!
「では、総帥。いくでござるよ」
美月と共に我の脇を抱え、女湯へと連れて行こうとする小鴉丸。
ああああぁああ! そういえばこやつ! 女だった! 怪人姿だと見分けがつかんからなぁ……。
小鴉丸の姿は何時もの鳥の姿ではなく、艶やかに黒く濡れた黒髪美女。胸は鳩胸らしく大きく、和服の上からでも強調された胸は騒ぎを遠巻きに見ているクサナギの男衆の瞳をくぎ付けにしていた。その小鴉丸にひょいっと脇を抱えられて持っていかれる我もまた注目の的だ。
ははは……、いっそ殺せ。
栄一に見送られ、女湯へと連行されていくとあれよあれよという間に服を剥ぎ取られ、肢体を露わにされた。手際が良すぎる。
美月たちの方を見れば、我がいるのにも関わらず躊躇なく目の前で脱ぎ始めたので、急いで目を逸らす。
まだ中学生だというのに近頃の子は発育が良すぎるだろう……!
そんな我の心境を露とも知らず、美月は再び我の小さな手を引く。
「それじゃ、イヴさん。行きましょう」
「ま、待て美月! 今の我の身体は女とは言え、不味いだろう色々と! 中身は男なのだぞ!」
「? でも今は可愛い女の子ですよね? だったら大丈夫です!」
我が大丈夫じゃない。
ずるずると引きずられる形で浴場まで持っていかれ、お湯を掛けられる。
暖かいが温泉というのはもっと心安らかに入るものだと思うのだが。
……仕方ない。何時までも抵抗しては美月にも迷惑という物だ。
ここは覚悟を決めて大人しく入るか。
出来るだけ美月の身体を見ないようにして。
「総帥。髪を纏めるでござるよ」
「む、済まんな小鴉丸」
そういえば、長い髪を湯船に付けてはいけないのだったな。小鴉丸は手慣れた手つきで我の後ろ髪を纏めて団子状に形成する。
美月も髪をタオルで束ねており、掛け湯してから入っている。
我も疲れたので入る。
「あぁ……」
気持ちいい。昨日は部屋に備え付けられているシャワーで済ませたが、やはりこうやって足が伸ばせる風呂は良い。
「心地よいござるな。艦内の大浴場も良いが、この温泉も良い」
「ゲセルシャフトにも大浴場があるんですか?」
そういえば、あの時は湯船にお湯を張っていなかったから案内していなかったな。
「あるぞ。ここまでとは行かぬが、一度に50人ぐらいは入れる浴場がな」
「50人!? それって殆どスーパー銭湯じゃないですか」
「総帥が力を入れて作っておりますからな。そこら辺の旅館よりは豪華でござるよ」
「帰ったら楽しみにするが良い。だが今は……」
「ここの温泉を楽しまなきゃ、ですね。はぁぁ……気持ちいい……」
美月も気持ちよさそうにお湯に身体を預けている。
たわわな果実が二つ湯船に浮いている……いかんいかん。何を見てるのだ我は。
目を逆に逸らせば、今度はスイカが二つ浮いていた。小鴉丸のだ。
「拙者も温泉は山奥にいた頃入ったきりでござるなぁ……♪」
左右をたわわに挟まれ、不意に自分の胸元に視線を落とす。
慎ましいのがある。
……うむ、気にしても仕方ない。これから成長……じゃないっ!
何を考えてるのだ我は……!
葛藤してる間に再び美月に手を引かれて、今度は身体を全身くまなく洗われる事になった。
「イヴさんの肌。本当にスベスベで綺麗で羨ましいなぁ」
「そんな事言われてもな。美月も十分綺麗だろう。ほら、次は我が背中を流してやる」
やられっぱなしは癪だからな。やられたらやり返すのだ。
「えへへ、ありがとうございます」
……背中を洗いかえすだけだがな。ほら、悪の総帥とはいえR指定の方は我の分野じゃないし。
全員で温泉を満喫した後、用意された浴衣に袖を通した。
そして目の前にあるのはリボンが付いたフリル付のショーツ……透けてる……。
出来ればこういう可愛らしいショーツを穿くのは避けたかったが、ノーパンは我の趣味でもないので本当に仕方なく穿いた。
その後、用意された来客用の部屋に案内されると我らは疲れもあり、直ぐに眠った。
……おやすみ、ぐう。




