13話 戦場を駆ける悪
11話に全員に指輪を配る描写が抜けてました。申し訳ございません。
戦場となった草原を颯爽と装甲車が走りゆく。戦いとなっては多少の揺れは我慢だ。
「な、何だあれは!?」
「戦車、にしてはうちのとは違うぞ!?」
排気音の所為か気付かれたようだ。しかし、もう遅い。
「突っ込め」
「はっ!!」
栄一はブレーキを踏むことなく、アクセルを踏み抜いたままエッケザックス軍の兵士達を装甲車で弾き飛ばした。
美月の防御壁のお蔭で車には傷一つない。轢かれた連中は悲惨な事になっているがな。
器用にクサナギ軍の兵士を避けるのは見事だ。
我らの存在に気付いたエッケザックスの者達は海が割れるように道を開ける。
「止めろ!! あの車を止めるんだ!!」
指揮官らしき男が馬上から兵士達に指示を出してるが、猛烈な速度で駆ける車の前に飛び出る者達はいない。
魔法が飛び交うも、それらは全て美月のシールドの前には無力だ。
「流石は美月のシールドだ。多種多様な魔法でもビクともせんな」
「えへへ、ありがとうございます」
褒められて美月は嬉しそうに微笑む。プリズム・ムーンに変身せずともこの防御を張れるのは相当な強みだ。
その時、大気を震わせるような重い打撃音が鳴り響く。
ちぃ! 間に合うかと思ったが、戦車が城門に砲撃したか!
城門へと視線を向ければ、立派だったであろう巨大な門に風穴が空いていた。
そこに群がる様にエッケザックスの兵士が襲い掛かり、クサナギの兵士達がさせるものかと刀や木盾を手に防ぐ。
エッケザックス軍の兵士の後ろに魔法杖を持った小隊が近づくのが見えた。
「総帥! 多少荒い運転になりますがご容赦を!」
「我らにかまうな! いけ!!」
アクセルをベタ踏みし、爆音を鳴らしながら栄一が操る装甲車は進む。そして急にブレーキを掛けて車体を横に傾けながら魔法杖を持った小隊を薙ぎ払う。
大質量の一撃だ。如何に強靭な身体、装備を持っていたとしてもヒーローや怪人ならざる身ではひとたまりもない。
突然の闖入者に両軍とも混乱しているようだ。今が好機だ。
「美月、出るぞ! お前は城門に結界を張り、害意を持つ者達を入らせるな!」
「はいっ! イヴさんは?」
「我は奴らを殲滅する! 栄一、お前は車とリンを守れ!」
「了解!」
車から飛び出し、我は最も数が多いエッケザックス軍に向かって駆ける。
程なくして、見つけたのはなだらかな丘の上に陣取ったエッケザックス軍だ。
魔法杖と槍兵で構成された小隊に横から殴りこむ!!
「何っ!? 女ぁ!?」
「遅いっ!!」
何者かが襲撃してきたのは分かっていたようだが、それが我のような者とは思わなかったのだろう。今の我の見た目は美少女だからな。我が言うのもだが可愛い。
折角与えてくれた隙なので、遠慮なく長杖『ルシファー』を振り抜く。
マトモに脇腹に喰らったエッケザックス軍の兵士の軍服が中のチョッキごと弾け、ゴルフボールのように吹き飛ばされて空を舞った。一撃で大の大人が吹き飛ぶ光景に今まで戦っていたクサナギ軍の兵士は勿論、エッケザックス軍の兵士までもが硬直する。
「何かわからんが好機だ!! 押し返せ!!」
「お、おおおーーー!!!」
ほう、これだけの事が起きたというのに見事な采配だ。
戦場では一瞬の悩みが命取りになる。難しい事を考えずに、使える状況を使うのは非常に優秀な指揮官の証。
それに対し、エッケザックスの方はダメだな。まだ混乱しているし、指揮官に至ってはおろおろと動揺を露わにしている。武器は良いようだが、練度は未熟なようだ。
「この辺りの練度は、クサナギの者達が優秀だな」
「何だと!? 小娘がふざけた事を――」
「口より先に手を動かせ、ほら死んだ」
我の独り言を聞いたエッケザックス軍の兵士が杖の一振りで紙切れのように吹き飛ぶ。
さぁ、恐れおののけ。ここから始まる戦いは戦ではない。
特とご覧じろ。
―――鏖殺だ。Makeover――!!
杖に変身のキーワードである声を入力。
◆◆◆
雄々しく、そして可憐にイヴは杖を両手に構え、柄頭をドンと地面に付きたてる。
すると、地面に巨大な魔方陣が現れ、紫色の光を放ち、イヴの身体を覆えば身を纏っていた服が羽吹雪のように飛び散り、服の代わりにその美しい身体を強調する様に身体の輪郭を露わにする。
慎ましくも綺麗な胸、幼さと大人の境目独特の小尻、年頃の腰、肩、太腿から足先まではっきりと光が覆った。
魔方陣の中から黒い布を思わせる光が現れ、イヴの身体に巻き付く。
光は細い布状に裂け、その細い布は細いイヴの指先に巻き付き、黒い布は指先から肘まで覆う黒い長手袋へと姿を代える。
腰に巻き付いた光は腰から太ももまで覆い、その上からふわりとしたドレス状に形成、その下には足首から脹脛まで伸びた赤いニーソックスはお嬢様を思わせる。
足元を守るのはベルトが付いた黒いロングブーツ。変身の際に足を鳴らせば、タンタンっと軽快な音がなる。
頭には戦乙女を思わせるような黒いヘアバンドに、六枚の白い翼の飾りがりんっと音を鳴らしながら風になびく。
美しくも慎ましい胸を覆う光は頑丈な胸部鎧となり、未来と希望を護る。胸元には蒼く綺麗なクリスタルがきらりと飾られた。
クリスタルの内部には生命の樹を逆にした『クリフォト』が黒い光と共に顕現し、杖に埋め込まれた『ルシファー』のカードが輝くのに呼応し、王の位置が神々しく光る。
数多のヒーローを倒し、悪逆の限りを尽くした怪人を葬り、そして最強にして最後の『ゲセルシャフト』の総帥であるイヴが凛とした瞳を開いた時、留められていた魔力、超能力が解き放たれると、強烈な衝撃波と共に周囲にいたエッケザックス軍の兵士達が吹き飛ぶ。
戦乱の異世界にて、魔王に並ぶ最強の悪の総帥。『イヴ・ゲセルシャフト』の降臨である。
そのイヴの第一声は――。
◆◆◆
「やってくれおったなぁ! レイイイイイイイィィィィィ!!!」
衝撃波で吹き飛んだエッケザックス軍だが、今はそんな事どうでもいい!
あいつ! 我の変身を! 魔法少女風に仕立て上げおった!
ヒラヒラのスカート!
無駄に露出してる肌!
何の意味があるか判らぬ羽根飾り!
ここにレイが居らんとわかっていても叫びたくもなるわ!しかも力が溢れてくるから尚更だ!!
砂煙が晴れれば、我の声で何事かと突撃を戸惑っていたエッケザックス軍の兵士達が目に入る。
よし決めた。この怒りは全部アイツらにぶつけよう。
我がこんな格好になったのも全てあの者達の所為だ。そうしよう今決めた。
「く、ふふふふふっ……!!」
思わず口角が上がる。笑い声が漏れる。人って怒りが頂点に達すると笑うのか。
「ひいっ!?」
「な、何だアイツ! 笑ってるのにこえええよ!!」
「お前行けよ!」
「踏まれたい!!」
後ずさるエッケザックス軍の兵士達。
何か変な声が聞こえたが、どうでもいい。
今やることはアイツらに怒りをぶつけるだけだ!!そうでもしなきゃやってられん!!
変身の際にこの力の使い方は頭に叩き込まれ、万全に使えるようになっている。
杖を手に、強く足を踏み込めばただでさえ強靭な身体が羽のように軽く飛び、一足飛びに目の前の敵に肉薄する。
すかさず、杖を振るえば魔法や銃弾を防ぐ強靭なチョッキも意味もなさず、文字通り人が飛ぶ。
「打て!! 近づけさせるな!!」
魔法杖を持った集団が我に向かって一斉に杖を向け、一斉に炎や雷、石や氷の散弾を放ってくる。
クサナギ軍の者達が表情を青くし、逃げろと言っているが問題ない。
「この程度で我を止められると思ったか」
眼前に重力の壁を作り、放たれた魔法の弾を反転。自らの力を受けたエッケザックス軍の兵士達は悲鳴をあげながら次々と倒れていく。
「この程度か?」
「ひっ!?」
首をコキコキと鳴らしながら、歩みを止めたエッケザックス軍の兵士達を見やり、足を踏み出せば陣形ごと後ずさる。
「来ぬなら、我から行くぞ!!」
これより――蹂躙を始める!!
これから起こるのは戦いでも戦争でもない。混乱した兵士を狩る一方的な狩りだ。
「あの者だけに任せては武士の名折れ!! 我らも行くぞー!!」
「おおおぉぉぉぉ!!」
「やってやらぁあああああああ!!!」
クサナギ軍も今までの借りを返す様に、狩りたてる。
思いを返すがいい、怒りを返すがいい。お前たちにはその資格がある。
杖を振るいながら思う。当てが外れたな。
数が一番多い所に強そうな奴がいると思ったが、数が多いだけの外れのようだ。
栄一の所か、小鴉丸か、または美月か。どちらにせよ心配はない。
アイツらの強さを信じている。
それに、このまま暴れまわれば自然と現れてくるだろう。その時に仕留めれば良い。
さぁ、お前たちには撒き餌になってもらおうか。雑兵どもよ!
目の前の雑兵を陣形丸ごと吹き飛ばし、杖を振るい続けていくのだった。




