12話 異世界での戦争
副砲による一撃は壊れた橋まで綺麗に道を切り開いてくれた。もし、マトモに道を作ろうとするならば我らの力を以てしても一日がかりの仕事だ。一日で終わるのかと思われるが、組織の技術力さえあれば割と何とかなる。
栄一の運転は実に見事なものだ。時折、大きな石や圧し折れた木が道なりにあったが、巧みなドライブテクニックで避けていった。
それを楽々実行できるのは栄一ぐらいなものだろう。
因みに全員、シートベルトは着用している。異世界でもこれは守らんといかんからな。
荒れ地でも揺れない運転は栄一がリンや美月を気遣っての事だろう。女性に優しい運転は我の目から見ても好評価だ。
ふと、そんな運転する姿を見て、そういえば栄一には妹がいたなと思い出した。
この組織に入った理由も難病で苦しむ妹の為に、高額の治療費がいるという事でゲゼルシャフトへと入ったのだ。
ゲゼルシャフトは一般人を戦闘員へと作り替えるノウハウを生かして、医療分野にも手を伸ばしている。
表向きにはゲゼルシャフトとは全く関係のない有名な病院としており、栄一の妹もそこへ転院させている。戦闘員の家族を守るのも、組織の長としての役目だ。
少し前に上がっていた経過報告では、栄一の妹はレイの研究のお陰もあって無事難病を治療することが出来たと上がっていた。
リハビリに長い時間はかかるだろうが、体の作りは戦闘員と同じようにしたので、普通の人より丈夫になり、以前は余命三か月の命と言われていたが今では走り回れるほどの健康体だ。無論、普通の人と同様に妊娠し、出産できる。当たり前の人生を栄一の妹は送れるようになったのだ。
栄一にはこれから生まれ変わったと言ってもいい妹との暮らしが待っていたはずだが、ここまで巻き込んでしまった事に我は申し訳なくなった。
「すまんな、栄一。ここまで貴様を巻き込むつもりは無かったのだが」
「気にしないでください。私が総帥のお目にかからなければ、妹は助かる事はありませんでした。命を救ってもらったからには、命がけで恩を返したい。その為に私はここに残ったのです」
「そうか」
栄一の言う通り、ゲゼルシャフトが決戦の場となる時に多くの戦闘員や非戦闘員達が脱出している。
それも全て我が『逃げる者は逃げるがよい。好きにせよ』と命じたからだ。
それでも半数以上の戦闘員や幹部達が残る結果となったのは、我としては想定外の事態だった。何故逃げなかったのか、理解に苦しんだものだ。
特に多くの非戦闘員まで残るということになれば我としても道連れは心苦しいので、極秘の任務と偽り一部の戦闘員を連れて非戦闘員の全てを退去させた。今ごろは戦闘に向かない幹部が説明をしている頃だ。流石のヒーロー達でもパートやバイトなどの非戦闘員を襲う事もないだろう。
つくづく部下に恵まれたなと我が思っていると、不意に視界が明るくなった。
どうやら森を抜けた様だ。
森を抜けた先には壊れた橋があり、リンはアレを飛び越えてやってきたらしい。リンの種族は獣人の中でも極めて優秀な仙狐族らしい。身体能力は勿論、術にも適性が高いとリンは言っていた。
術の方は分からんが、複数の大人しかも軍人相手ににここまで逃げ切れたのはその身体能力の賜物だな。
「総帥。リン様おっしゃったとおり、橋が壊れてるようですが」
「飛べ」
「はっ!」
「え、総帥さん!?」
美月が驚いているが、この車は伊達ではない。栄一がアクセルを全力で踏み込むとGが我らの身体にのしかかる。
そのまま勢いよく壊れた橋から飛び出し、車は宙へと投げ出される。
「堕ち――」
「堕ちぬから安心しろ」
車全体を覆う様に力を発現させ、重力操作で車を浮かす。
もう少し上だな、よし。
我の力で浮かび上がった車は真っ直ぐ橋の向かい側へと車輪を着地させ、何事も無かったかのように走り出す。
「……総帥さんの力なら車も浮かす事が出来ましたね」
「我がやった事を思い出せ。ビルを丸ごと投げた事もあるだろう」
「……そういえばそうでした」
だいぶ前に戦った時に、魔法少女達に向けて高層ビルを投げつけた事があった。目的を達することは出来たが、破片を足場にして迫りくるプリズマ・ソレイユの野生じみた動きは目を見張るものがあった。太陽の子というのは伊達ではないと。
投げたビルは有名過ぎるブラックを超えてダークネス企業だったので、批判は来なかった。後ろめたい事をしてる連中に遠慮は要らん。
「総帥。あとであの橋を作り直さなければなりませんね」
「我がいなくても通れるようにせねばな」
「拙者も手伝わせて頂きます」
リンも目を回しているしな。金属は難しくとも、石の橋ならば力を使えばそうは難しくない。
古い街道、といっていいのか。人が通らなくなって久しい古ぼけた石道を車で駆けていくと村が見えてきた。
リンが周辺地域の事を教える際に、一番近いと教えてくれた村だ。確か名前はミカヅキ村だったか。
「リン、あれが話しにあったミカヅキという村か?」
「え……あ……はい。も、もうこんな所まで……」
ゲセルシャフトから出発して2時間しかたっていないのに、ここまでたどり着いたことにリンは驚きを隠せない。時速90kmで飛ばしているから当然だな。
ミカヅキ村は既にエッケザックス軍の手に落ち、灰燼と化してた。生きる者はいない死んだ村。
その村の中を速度を落として装甲戦車は進む。
殆どの家屋が焼け落ち、家畜が火にまかれて屍を晒していた。
家族を守るために戦ったのであろう獣人の村人が鍬を持ったまま黒こげになって倒れているのが見える。
この世界でも、この光景を見るか……。
「うえっ……こんな、こんなことって……」
「美月殿。黒いビニール袋でござる」
「あり、がとうございます」
美月は魔法少女で幾度となく激戦を戦い抜いた戦士だが、本物の悲惨な戦場を見るのは初めてか。
「美月よ。見ないならば見なくてもいい。だが知っただろう。これが、戦争だ」
「これが……戦争」
日本は戦争を放棄して長い。美月は平和な日本に守られて、多くの人に守られながら魔法少女をやっていたのだ。初めて本物の戦争の肌に触れて震えている。
魔法少女とはいえ……やはり子供だ。
「美月、戦いたくないのであればお前は守るだけでいい。無理はするな」
子供は子供らしく、笑顔が良い。こんな汚い戦争なぞ、大人に任せればいいのだ。我の手は血にまみれ汚れきっている。血に染めるのは我のような悪でいい。
しかし、美月は我の想定よりも強かった。
「……大丈夫、です。こんな、こんなことが、起こさないためにも戦わないといけないんですよね。だったら、私、頑張れます」
「……そうか。強いな。お前は」
ああ、強い。子供なのに強い。良い大人ならばそれでも戦わないように説得するのだろうが、我は悪い大人だからな。ほめたたえ、戦うのを良しとしよう。
「総帥さんには負けますよ」
「我はお前たちに負けたがな。――イヴだ」
「え?」
「いつまでも総帥では呼びづらかろう。立場上我が上だが、お前はヒーローでもある。名前で呼べ」
ヒーローならば、遜らずに対等であれ。無論、組織の序列では我が上だが、だからと言って偉そうにするつもりもない。
ヒーローとはいつまでも対等で居たいのだ。それも強き心を持つヒーローが相手ならばな。美月は――プリズム・ムーンはそれに値する心の強さを持っている。
「あ、はい。判りましたイヴさん」
「リンも我の事はイヴと呼んで構わんぞ」
「イヴ、おねーさん……」
おねーさん。
何故だろう。この心に来るようなえもいえぬ感情は!
思わず片手で眉間を押さえていると、リンが心配そうに我を見ている。
兵器、じゃない。平気だぞリン。だからそんな目で我を見るな。
ミカヅキ村を抜け、荒れた街道を進むと丘の向こう側から黒煙が見える。それることなく真っ直ぐに進み、丘の上に上がり、車から顔を覗かせると大勢の人々が戦っているのが見えた。
赤い和様甲冑を纏い、刀や槍、弓を持ち所々に獣の部位を持つ者達はクサナギ軍だ。
一方、統一された軍服を纏い魔法杖による火矢、土槍、雷などの魔法の一斉射撃、その後に騎兵で戦陣を崩す近代と中世が混ざったような戦い方をするのはエッケザックス軍だ。
武器の時代が違いすぎるが、そこは身体能力に優れる獣人。自慢の能力を活かし、魔法を避けて騎馬を蹴り落とし、槍を突き入れる姿が見事だ。
だが、悲しいかな。装備の差からかエッケザックス軍の方が優勢。
既に城門に取りつかれ、一台の戦車が城門を壊すべく進軍する姿が見える。
門を壊されれば、街中に兵士が入り込み、国が落ちかねない。もし街中に入られれば我としても大変手間だ。
その前に割り込む!!
「栄一、城門に向かって真っすぐ走れ。美月、車体全体を覆う様にシールドだ」
「はっ!」
「判りました!」
「小鴉丸は空から攪乱せよ! 存分にやるが良い」
「御意!!」
美月が小さなステッキを手に、月の魔法を詠唱し、車体全体を強固なシールドで覆う。
小鴉丸は車から降り、空へと飛んだ。
エッケザックスの者達よ。運が悪かったと諦めてほしい。
我らが来たのだからな。




