11話 目標
作戦室では、既に栄一、銀二、チャールズ、小鴉丸に加えて、美月やリンも身支度を整えて待っていた。我らが最後のようだ。
「皆の者、おはよう」
我から挨拶をすると、『ゲセルシャフト』の面々は一同に立ち上がり、遅れる形で美月とリンも立ち上がる。
「総帥、おはようございます」
「総帥、おはようございますっす」
「グッドモーニング。ソースイ」
「総帥さん、おはようございます」
「んと……おはよう……ございます」
全員の顔色は良さそうだ。美月とリンもゆっくりと休めたようで顔色は良好で、レイが見立てたのか美月はTシャツとジーンズのジャケット、膝上までの高さのブラウンのチェック柄スカートを着ている。リンは赤と白を基調とした巫女服に近いゴスロリドレスだ。こうしてみるとただのコスプレだが防御力もレイの事だから戦闘員のスーツ並みに頑丈に作ってあるだろう。間違いなく。
戦闘員の面々は没個性のフォーマルスーツだ。戦闘員スーツは戦闘時だけに装着すればいいからな。小鴉丸も和服を着ている。
翻訳機能が付いた指輪も全員が身に着けている。
レイが徹夜したお蔭だが、一晩で全員分の量産を終えているのは流石だ。
全員、声色や顔色を見る限りは快調のようだ。
「さて、皆の者も聞き及んでいるとは思うが、今日は『ゲゼルシャフト』の異世界による初の行動となる。その前に『ゲゼルシャフト』としての大きな目的を発表する。最終目標は元の世界への帰還だ。無論誰も欠けることなく。大変困難な道のりだが、やり遂げなければならない」
我らの誰かを犠牲にしての帰還なぞ、誰も望まない。元の世界で待ってる者達がいるのだ。悪でもそれは変わらぬ事実。
「それに辺り、第一の目標は亜空戦艦『ゲゼルシャフト』の修復だ。これには必要な資材の入手が最優先となる」
これに関してはリン以外の全員が頷く。今のこの艦は推進器やら副砲、主砲、反重力装置や空間転移装置など重要な部分が修理中だ。問題となるのは人手もだが、修復するための物資だ。
副砲にしても治すための鋼鉄が足りず、エネルギーバイパスの修理に必要な金属が足りない。推進器、反重力装置、空間転移装置に至っては地球に居た頃でもかなり貴重な金属を使っていたので、足りるわけがない。
これらの金属、又は代用品を何としてでも手に入れる必要がある。
「次に、レイ。ヒーローの確保、で間違いないな?」
「ああ。あのときに戦った全ヒーローの確保。これが第二目標だね」
「あの、総帥さん。私としては、嬉しいのですが、なんででしょうか?」
美月は良い質問をしてくれる。他の戦闘員や小鴉丸も同じ疑問を抱いているだろう。
「我らが戦った時の事を思い出せ」
「あの時の……」
あの時、我らは雌雄を決しようと力の限りをぶつけ合い、大きな力が対消滅していた。それらがあの次元に大きな歪みを与え、戦艦ごと落ちる事になった。
再びあの空間に戻る為には同じ状況を作る必要とレイが説明すると、納得したのか全員が頷く。
美月は何処かしら嬉しそうにしていた。それはそうだろう。何処にいるかもわからない魔法少女の友達を組織で探し出してくれるとは夢にも思っていなかったはずだ。元々敵対してたしな。
目下の問題は……デモンロイドだな。あいつの事は後回しにしよう。今考えても頭が痛いだけだ。
我の身体の捜索も考えたが、この世界にあるかどうかすら不明だ。これを目標に混ぜると余計な手間になる。
召喚され消えたヒーローと我の身体。もしつながりがあるとすれば自ずと何かしら情報が入るはずだ。
「第三の目標だが、現地の協力者を得る。その為にこれからクサナギ国とエッケザックス国の戦争に武力介入する! 任務はクサナギ国の救援及びエッケザックス国の軍隊の壊滅だ」
敗走だなんて生易しい事は言わん。徹底的に叩き潰してやる必要がある。戦争に武力介入するという事は、こちらから戦争を仕掛けるという事だ。
今まで怪人、戦闘員や魔法少女の敵である邪人としか戦ったことがない美月の方を見れば、戦争するときいて顔を強張らせていたが、避けられない戦いで、リンを助けたいと強い意志が瞳からひしひしと伝わる。
「レイ、地図を出してくれ」
「判った。皆、地図は各自腕輪に送るがちゃんと頭に叩き込んでおくように」
ドローンによる空からの偵察、そしてリンの話を元に地図は作られている。粗が目立つがこの精度ならば上出来だ。
次に向かうメンバーを発表。艦の修復もあるので、全員は連れて行くことは出来ぬ。レイはこの後寝る予定だ。
「向かうメンバーは、我、美月、栄一、そして小鴉丸とリンだ。小鴉丸、体調はどうだ?」
「問題ありませぬ。インフルからは完全に復帰いたしております」
「総帥。準備は前日のうちに万端です。勿論、リン様の分も物資は整えております」
「うむ。そうか」
栄一はこういうところが気が利いている。元々前日は周辺の調査の為に出かける予定だったが、何かしらのトラブルに備える行動力が特に優れている。
物資の方を確認すると、食料の他に野営道具は勿論、姿を隠すための外套や簡易的な治療セットも備えてある。
服装も栄一は馴染みの戦闘員スーツでなく無地のシャツ、茶色のジャケットに紺色のジーンズ、長旅にも耐えられる軍用ブーツといったありふれた服装を用意していた。姿を隠して動く場合はこっちの方が都合がいいからだ。あとは現地調達。腕には『ゲゼルシャフト』の印である腕輪を装着している。戦闘員達は腕輪に手入力か、音声でキーワードを入力すればいつもの戦闘員の姿になる。緊急時は自動で着装し装着者の身を守る仕様だ。
栄一は黒髪で顔つきは戦闘を好まなそうな優男に見えるが、これでも戦闘員の中ではトップクラスの力を持っている。
小鴉丸も和服だが、頑丈さは戦闘員の服以上の硬さを持つ超硬度繊維を使った和服だ。耐熱耐寒防弾防刃とライフルやチェンソーでも歯が立たない代物だ。
栄一が道具を見せていると、レイが所持してた袋から一着の服をリンへと手渡す。
「リンにはこれを」
「これは……お着物、ですか?」
「小鴉丸と同じ素材を使った着物さ。出来る限り君の服に似せてみた。君は大事な御身だからね。命を守らないと」
レイが用意した着物、というのであればあれは只の着物ではない。限りある時間の間に作り上げたリン専用の防具だ。
小鴉丸の着物と同じものならば、暗殺や流れ弾で死ぬ恐れは限りなく減る。ライフルが通らんのだ。矢なんて刺さりもしないだろう。
次にレイは美月に外套を手渡した。猫耳が付いた可愛らしい外套だ。
「美月君、君もこれを着ておくといい。外に出るともなれば、姿を隠せるコートがある方が良い」
「あ、ありがとうございますぅ。わっ、これ凄く軽いですねっ。見た目重そうなのに羽みたいに軽い」
「ふふん、それはそうだろう。そのコートは戦闘員達が着ているスーツと同じ強化繊維でできているから並大抵の事では破れることは無い」
自信満々に豊かな胸を張って言うレイ。
その自信の通り、美月はコートを強く引っ張って軽く魔法を打ってももびくともしない。戦闘員のスーツと同じ素材だから当然だ。
美月は着心地も良く、見た目も良い。特に美月はフードに猫耳のような飾りつけがされているのが気に入ったようだ。こういうところは女の子だな。
「それとイヴ。君にも渡すものがある」
「我にもか? コートならこれがあるから十分だが」
「大事な物だよ。ほら、これを持っていくといい」
そういってレイは長い棒状の物を我に差し出す。
我は包みを解き、中身を改めるとそれは一本の長杖。
太さは我の手に合わせて握りやすく、持ち手の部分には滑り止めの藍色の布が巻き付いている。
柄の部分は銀色をした金属製で出来ており、丈夫さを基調としているが樹の木目のような模様が掘りこまれており、神秘的な雰囲気を醸し出している。
一番注目するところは杖の先端。
先端部分は黒色の金属でできており、天辺の部分には一枚のカードがガラス玉の中に入っていた。
カードを保護するように黒と銀色の金属がガラス球を沿って縞状に覆っている。
我は其のカードに見覚えはあった。我の切り札であり、魂の一つと言っても過言ではない。
「これは……『ルシファー』か!」
いつも肌身離さず持っており、あの最終決戦でも最後の切り札として取って置いた代物だ。
デモンズカード。
その名の通り、悪魔の力を宿したカード。
製作者や素材は不明ながらも、手にしたものは絶大な力を得ることが出来る。
強大な力を得る事が出来るが、当然ながら代償も付きまとう。使い続ければ悪魔に魂を蝕まれ、身も心も魂でさえも悪魔と化してしまう。まさに禁忌のカードだ。
デモンロイドは悪魔に落ちた人間と戦い、我もまた、邪魔な悪魔どもをシバキ倒していくうちにルシファーと出会い認められた。
そう。極まれに悪魔にその魂を認められる事があるのだ。
その場合は、デモンズカードの真の主となり、悪魔となった者達よりも圧倒的な力を得ることが出来る。
孤高のヒーロー『デモンロイド』もデモンズカード『アスタロト』に認められた者で、我もまたデモンズカード『ルシファー』にその魂を認められている。
「スーツは大破してしまったけど、これを置いておくのは非常に勿体ないと思ってね。急ごしらえだが、杖として力を引き出せるようにしておいたよ。変身機能もセットでね。いつものスーツとまでいかないけど、相当強力な力を纏う事が出来るよ」
「そのために徹夜したのか」
「無手よりは武器があった方が都合がいいだろう。それに、大事な君のためだからね。これ位はさせてくれ。キーワードは変わってないからさ」
「……ああ。助かる」
我は長杖『ルシファー』を大事そうに両手で握りしめる。
『ルシファー』は我にとっては半身ともいえる存在だ。スーツが使い物にならなくなったが、こうして改めて武器として手に取ることが出来、我は思わず嬉しくなり笑みがこぼれる。また、共に行くぞ。ルシファーよ。
支度を終えた我らは準備室からつながるエレベーターを下り、戦艦ゲゼルシャフトの最下層へと向かう。
最下層では幾つもの車両があり、そのうちで今回移動で使うのは一番頑丈な車だ。
これはテロや紛争地帯に赴くために開発された六輪の装輪装甲車で荒地や沼地でも進むことが出来る。それを『ゲゼルシャフト』の技術で魔改造した代物だ。元々核すら防ぐ車両だが、魔法や超能力、果てにはヒーロー達の攻撃まで防ぐ耐久力を実現させた車だ。
生憎と、ヒーローや魔法少女たちは空を飛んだりするので出番がなく、お蔵入りしたが、軍相手には無類の強さを誇った特殊車両だ。今回も憂いなく力を発揮してくれるだろう。
森の中を抜けるのは無理だが、副砲がまだ生きている。あれで道を開けば楽々進める。
栄一がエンジンに火を入れるとレイが近くのタッチパネルで操作をする。
美月達ヒーローは力技で戦艦の装甲を突き破り、艦内へと侵入してきたが本来の出入り口は最下層の搬入口と転送用のトランスポーターの二つだけだ。
搬入口のレバーを捻ると重厚な扉がズズズと重い音を立てて開かれた。
それと同時に扉の隙間から風が入り込み、我らの頬を撫でる。
「では、行ってくる。レイ、留守は任せたぞ」
「うん、行ってらっしゃい。良い土産を楽しみにしているよ」
「ああ」
レイは気を付けてなんて月並みな言葉は言わない。我の事を信じており、我もまたレイから信頼されているという事を知っているから。
車に乗り込み、ゲゼルシャフトから降りると、窓ガラスから我達に空から眩い光が降り注ぐ。
目を細めながらゆっくりと大地を見やる。
「では、行くぞ。美月、栄一、小鴉丸!」
「は、はいっ!」
「「ハっ!」」
『三番副砲、発射!』
装甲車の行く先をレイの操作で副砲が火を噴き、強引に道を作る。砲撃は木々を薙ぎ払い、一直線に道を作り上げた。
排気音を鳴らしながら、我らはゲゼルシャフトを背に強引に切り開かれた森の中に入っていく。
見た事もない光景を眺めるとふいに忘れていた昔の、子供の頃に感じていた高揚感を感じた。
未知への旅路。
壊滅したゲゼルシャフトは、異世界にてまた新たな一歩を踏み出す。
今日がその一歩だ!




