10話 逃げ道と二人の仲
だまし討ちのような形で半ば強制的にゲゼルシャフトの一員となった美月。
悪いな美月。我は悪の総統と呼ばれた存在なのでな。
だが、愉快だ。あの魔法少女がこうも手のうちに入るとは。はっはっは!!
涙目な美月を見るとついつい頭を撫でてしまった。
「うぅぅ……あんまりですぅよぉ……」
「衣食住の全てを請け負ってやるというのだ。何の対価もなくそのような施しをするわけがないだろう」
「それはそうですけどぉ……」
美月は改めて思い出したのだろう。ここは悪の組織の本拠地であるということを。何かあると疑うべきだったのだが、それを忘れてしまった美月にも負い目があるようだ。ご飯も美味しかったのもあるのかもな。
そろそろネタバラシといくか。
「それに、この方がヒーローである貴様にとっても都合が良かろう」
「え? あっ……」
都合が良いという言葉で美月ははっとなって気づいたようだ。
直接的にヒーローである美月が、ゲゼルシャフトの世話になるのはヒーローとしては問題だ。
だが、それがもし騙すような形で、弱みを握って半ば強制的に入れられればどうだろうか。
ヒーローが自分の意思で悪の組織に協力してるのではなく、弱みを握られ、仕方なく協力させられている図になる。
前者ならば、もしこの世界でプリズム・ソレイユや他のヒーロー達と出会った場合裏切り者などの誹りを免れないが、後者であれば囚われの身から解放する流れも可能だ。
そういう事もあり、このような逃げ道を作ったわけだ。協力はしてほしいが、騙したままだと今後に影響が出る。その影響は最悪の形で帰ってくるよりはこうやって助けの道を作った方がヒーローである美月にとって最善とは言わずとも、良い結果になる。
「以前は敵同士だったが、今は一時的にだが貴様は我の仲間だ。生きて元の世界に戻る為にも協力してもらうぞ」
「はい、えっと、総帥さん。改めて宜しくお願いします」
我は組織の一員という事であれば甘くも優しくもなるが、今回に限っては美月にヒーローとして揺らいでは困るのだ。
我としても未知の世界。何があるか分からない以上、頼りになる存在は味方につけておきたい。美月は騙されやすい欠点はあるが、実力は申し分ない。後はそのヒーローとしての力を十全に発揮できるように、このようなだまし討ちを仕掛けた。美月には悪いとは思っているがな。
美月は他のヒーロー達を見つけた時の橋渡し役ともなれる貴重な存在だ。ここで手放すには惜しい。我としては今のうちに自軍に取り込んでおきたかった。
将来的には、闇落ちした魔法少女を一員に入れたいなとも密かに思っていたが、それは内心に秘めるだけにしておく。
心配したようにリンが顔を覗かせる。我はその頭を優しく撫でて、お休みと声を掛けて自分の部屋に戻る。
明日は忙しくなる。早く寝て備えねば。悪の組織とは言え早寝早起きは大事なのだ。その前に、レイに連絡をしておこう。あの男達の処遇についてだ。
我は部屋に戻ると、布団を被りそのまま眠りについた。
◆◆◆
「むぅ……ふぁ……ぁぁ……」
我は気だるそうに眠気が残る身体を起こし、欠伸をしながら大きく背筋と腕を伸ばす。
(……はて、このように我は寝起きが悪かったか? 声も妙に高いな)
我は寝起きは良い方だが、今は妙に身体が重く眠気が残っている。
ぼやけた視界がはっきりすると、今までと違った視線の高さ、白く絹のような滑らかな肌、線が細く華奢な身体、銀細工のように光沢のある銀髪、宝石の様な藍色の瞳をした美少女の姿が目に入る。
「ああ……そうだったか」
改めて思い知らされた自分が美少女の身体に意識を移植されたという事実。
寝る時は肌着一枚になって寝るタイプなので、今のアダムの姿は薄手のワンピース一枚羽織っている程度だ。
外の気温は春か秋の頃だが、朝方は冷える。それでもこの姿でいられるのは室温が一定の温度で保たれているので、薄着で寝ても体調を崩すことは無い。一部の戦闘員などは裸で寝る程だ。
顔を洗い、目をさっぱりと覚ました後に姿見に自身の身体を映しては、寝癖をしっかりと整える。身だしなみには気を付けているのだよ。
香水は……今までのは使えぬな。女性物の香水などは持っておらぬぞ……。
我は男としての嗜みとして香水も使っている。男物の香水がこの美少女となった身体に合うかは分からないので、今はパスだ。レイは香水を使わんから当てにならんしな。何れはこの体に合った香水を用意すべきだろう。それより先に考えるべきはリンの事だ。
今日はこれからリンの国を助けに向かうのだ。悪の組織が国を助けに行くのはおかしいと思われるだろうが、全くそんなことはない。全ては打算と、ほんのわずかな気まぐれだ。
リンはクサナギ国の大事な王女だ。彼女を助け、国を救えば小国とは言えどもこの世界の足掛かりとするには最適だ。エッケザックス国には悪いが、糧になってもらおう。
エッケザックス国の事に付いては、レイの事だから男達から調べているはずだ。あのレイがただ捕えるだけはあり得ない。
さてと、いつまでもこの姿でいる訳にもいかない。
我は机の上に折りたたまれた服に視線を移す。
アレを着るのか……。
寝ている間にレイが用意していた服で、昨晩着ていた服と同じもののようだ。
一度はレイに着付けてもらったが、着慣れぬ女性服を四苦八苦しながら身に着けた。
可愛らしいブラやパンツにはいささか抵抗があるな……こっそりトランクスに……ない。
我の着替えがいつの間にかに全て入れ替わってる!?
犯人は言わずもながらレイだろう。共犯者は小鴉丸か? それとも栄一か? 銀二は無い。あいつの気配の消し方は下手だからな。
くそぅ……! こうなればつけるしかないか。
着替え終わると、何時も着ていた黒いコートを羽織る。
「これでよし。さて、行くか」
尋問の結果を聞くべく、レイの元へ向かう。
レイがいつも引き籠っている研究室の扉を開けると、珈琲を飲んで椅子にもたれてるレイがいた。目の下にはクマが出来ている。また徹夜をしていたようだ。
「やぁ、おはよう。アダム……じゃなくて、イヴちゃんでよかったかな」
「ちゃんはいらん。やはり聞き耳立てていたか」
「当然。彼女達とどんな会話をしているかはしっかりと把握しておかないとね」
彼女達、というのは美月とリンの事だな。当然ながら、入ったばかりの美月も信用は足りない。これから信用を積み重ねれば、いずれレイの監視の目が外れるだろう。
「なら、我の尋ねた理由も判るか」
「私と君との仲じゃないか。当然だとも。エッケザックス国、そしてその背後にいるウケラノス帝国の事だろう。作戦室に歩きながら説明するよ」
流石はレイだな。そこまで情報を引き出していたか。
レイは珈琲を飲む干すと、幾つか荷物を持ち我と並びながら作戦室へと向かう。荷物の半分は我が持とうとしたが、これ位なら平気と頑なに固辞された。
むう、前ならば押し付ける位にやっていたのだが、この身体と持たせてもくれん。
レイは荷物を持ちながら、調べた事を要所をかいつまんで我に説明してくれた。
「エッケザックス国はそこまで大きくないが、ウケラノス帝国のバックアップを受けて色々な小国を落としたり、脅してお姫さんを手籠めにしたり好き勝手にしているようだよ」
「虎の威を借る狐か」
それでも、虎の威を借りれるだけの何かを持っているのはそれだけで強みだ。それで多くの小国が、女性が被害にあっている。その次の矛先がクサナギ国だ。
「戦力は兵数は二万三千程。魔導戦車が五両、魔導兵器、私達の世界観で言えば銃と思ってくれたらいい。魔法を放つ杖が一万本。およそ5割の軍が魔導兵器を所持しているね」
5割か。そこまでの数を揃えているとあれば、魔導兵器を持たぬ軍では太刀打ち出来ないだろう。クサナギ国は刀や槍が弓がメインで、火薬を使った鉄砲が三百丁。魔法代わりの術があるようだが、数、質ともに大きく負けている。
「他にも王族専用で強力な魔導兵器があるらしいけど、それらに関する情報は彼らの頭を覗いても判らなかったよ」
「そうか。だが、問題は無かろう」
「だね。私達の相手ではないよ。これがドローンを使って空撮した周辺地図のデータだ。君の腕輪にデータをインストールしておくよ」
レイはそういうと、腕に取り付けていた端末を操作していく。程なくして、イヴの腕輪からポーンと音がなる。データの受信音だな。
「助かる。皆は?」
「作戦室で既に出かける準備に取り掛かってるよ。ふぁ……あ……」
「随分と眠たそうだな。また徹夜か?」
「ああ。こんな事態だからね」
「無理はするでないぞ」
今、お前まで失っては我はもう立ち直れんかもしれんのだからな。
「判ってるさ。だからそんな顔しないでくれ」
「む……」
言わずとも表情に出ていたのか、少しの驚きと嬉しさが入り混じった表情をレイは浮かべながら頷く。
それからは他愛無い話をしながら作戦室へと歩いていた。
今日は何を食べたいのか、何か欲しいものはあるか等だ。
こういった会話は我はレイとしかせぬ。レイもまた、同じだろうと思いながら、我らは作戦室の扉を潜るのだった。




