14話 守護の盾と、漆黒の凶鳥
イヴ以外の視点なので三人称視点となります。ご了承ください。
イヴと分かれ、美月は使い慣れた小さなステッキを手に一直線に城門へと向かう。
猫耳のフードが付いた外套は美月の装いを隠し、この世界では異端な現代服を見事に隠していた。
今は一刻も事態を争う。
城門を破った戦車が次に狙うのは破られた城門を守る兵士達。
頑丈な城門でさえ、砲撃の一撃で壊されたのだ。もし人にそれが向けられたとしたらと思うと美月は想像するだけで背筋が寒くなる。
正直、美月は怖かった。だが、それ以上にこの力を持っているのに、護れないという事の方が怖かった。
多くの戦いを潜り抜けた。大事な友達と、他のヒーロー達と共に『ゲセルシャフト』までたどり着いた。
それまでに比べたらこの戦場は自然と怖くはなかった。
だから、唱えれる。魔法の国の女王様から授けられた、月の恩寵を受けた月光の魔法を。
「星々のきらめきよ! プリズムアーップ!!」
小さなステッキに埋め込まれた月の形を模した宝石が戦場に輝く。
猫耳フードがめくれ、美月の顔が露わになると昼間だというのに月光が美月に降り注ぐ。
キラキラと輝く月の光に呼応する様に猫耳フードの外套、その内にあるレイが見立てたジャケットと白いTシャツ、ブラウンチェック柄のスカートも光に溶けるように消え、イヴ同様に光で身体を覆われる。
美月が軽快なステップでステッキを振るえば、両手に淡い月の光が集まりはじけ、月の飾りが添えられた白い手袋とブーツに。
続けて円を描くように舞うと中学生に不釣り合いな豊かな胸がぷるんっと揺れ、淡い黄色を基調とした黄色と白のグラデーションが綺麗なドレスをその身に纏わせる。
黒い髪は神々しく輝き、金色へと変わる。その金色の髪を際立たせるように月の飾りが付いた赤いリボンが髪の根元に巻きついてロングの髪をポニーテールへと変えた。
月の光が神々しく照らす中、美月は堂々と恥じることなく宣言する。その姿の名を。
「月の光に導かれ、悪よ晴れなさい! プリズマ・ムーン!!」
戦場にいる誰もが彼女を見て幻視した。月の女神が下りたのかと。
ここが戦場で無ければ喝采しただろう。だがそんな暇はない。
無論プリズマ・ムーンにも。走りながらステッキの切っ先を城門へと向ける。
「月の光よ! 我らをお守りください! 『セイクリッドバリア』!!」
プリズマ・ムーンが守護の守りを放ったと同時に、追撃の砲弾が戦車から放たれる。
耳をつんざくような激しい砲撃音と共に打たれた砲弾は、城門を守るクサナギ軍の兵士達を殺すべく無慈悲に真っ直ぐ飛ぶ。
(もうダメか! 親方様! 姫! 申し訳――)
最前線にいたクサナギ軍の兵士は目をつぶり死を覚悟した。
だが、死は訪れなかった。
クサナギ軍の兵士は未だ訪れない衝撃に不思議に思い、うっすらと目を開くとおそこには驚くべき現象が起きていた。
砲弾は光の膜に防がれ、宙へと浮いていたのだ。
そこにふわりと空からプリズム・ムーンが舞い降りた。そして優しい笑みを浮かべて頭から流血を流していた兵士に手を翳す。
「安らぎを与える夜の光よ。彼の者達に癒しを。『ムーンライトヒール』」
プリズム・ムーンの手から黄金色の煌びやかな光が放たれ、それらは兵士達の傷を覆えば怪我どころか疲労まで癒していく。
「皆さん、大丈夫ですか? 魔法が漏れた人はいませんでしょうか?」
「おおおぉぉ……! だ、大丈夫です。有りがたい……! これならばまだ、戦える……!」
クサナギ軍の兵士達は疲れも怪我も無くなり、士気も高く喝采をあげる。
「護りは任せてください。何が何でもここは通しません!」
あの戦車の砲弾すら防いだ障壁だ。目の前で経験した兵士達は一斉に片手をあげる。
「我らには天使様がついてらっしゃる! 行くぞ者どもよ!!」
「おおおぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」
「天使様が守ってくれるんだ!! これほどありたい事はねぇ!」
「天使様マジ天使様!! オオオオオオオ!!」
「ちょっと待ってください! 私、天使様なんかじゃありませんよ!?」
プリズム・ムーンの声はクサナギ軍の兵士達の声にかき消された。天使コールに恥ずかしくなりながらも、戦いの最中なので目は前から逸らせない。
「天使だと!? 獣共が小賢しいわ! 砲弾が通じないのであれは引きつぶしてやる!!」
戦車は砲弾が通じないと判れば、その質量を活かして体当たりを仕掛けてくる。
これにはクサナギ軍の兵士達も溜まった物ではなく、道を開いてしまった。
プリズム・ムーンは引くことなく、杖を前に構えたままキッと戦車を睨みつける。
「これ以上進ません!! 一点集中! 『ムーンシールドワイア』!!」
プリズム・ムーンは杖の先に金色に輝く盾を作りだすと、盾は一直線に戦車へと向かいながら巨大化し、戦車を超える大盾となって進行を防いだ。
「何だと!! このような、このような小娘にっ!!」
ギャリギャリギャリとキャタピラが地面を削る音が聞こえるが、大盾は一向に動かない。
その間にも両脇からクサナギ軍の兵士達が抜け、エッケザックス軍の兵士達を斬り倒していく。
「もう一台の戦車はどうした! そいつもこっちに回せぇええ!」
部隊の指揮官であろう男が、戦車から顔を出して周囲の兵士に声を掛ける。
「その戦車ならば、つい先ほど切り捨てた」
指揮官の声に応じた声は真上から聞こえた。
自身を覆う黒い影に気づき見上げれば、そこに着物をまとい、刀を持った漆黒の人型の鴉が舞い降りてきていた。
ゲセルシャフトの唯一の怪人『小鴉丸』だ。
「その首、貰う受けるでござる」
すっと刀を振るえば、自身と同じ銘を持つ刀は豆腐を着るかのように指揮官の首を跳ね飛ばした。
血が溢れるよりも速く、小鴉丸は戦車の中に指揮官の男の身体を蹴り倒して中に入り込み、速やかに操縦者を刺殺していく。
急所を狙ったその一撃は小鴉丸に返り血を浴びせることなく一撃で仕留めていく。普段ならば、このような手間は駆けないのだが、今は傍にプリズム・ムーンこと美月がいる。
(あまり、女子供に血を見せるのはよくありませぬからな)
的確に頭を一突き。沈黙した戦車から飛び出せば、じっとプリズム・ムーンが小鴉丸を見上げていた。
「有難うございます。小鴉丸さん」
「何、礼を言われる事ではござらんよ。何せ今は拙者たちは仲間でござるからな。仲間ならば助けるのは当然の事。ムーン殿は心置きなく防御に勤めて下され。拙者は戦場を有利にすべく、再び舞って来よう」
「はいっ。頑張ってください!」
まさか、ヒーローであるプリズム・ムーンに頑張ってと言われる日が来るとは、小鴉丸も内心驚きながらも愉快な気持ちになった。
(いつの日か、総帥が仰っていた。ヒーローと肩を並べ、笑いあえる日が来る日を来ればよいと。何時の日かそれは激しい戦いへと変わり幻と消えた。だが、まさか異世界にて叶うとは。愉快、人生とは実に愉快だ!)
小鴉丸は舞う。戦場に混乱を与える為に。そして一刻も戦いを終わらせるために。
狙いは各部隊の指揮官達。凶刃は速やかに命を刈り取り、再び舞えば小鴉丸から放たれたマヒ毒の羽が魔法杖部隊に突き刺さり、動きを封じる。
守護の盾と漆黒の凶鳥。
その二つの存在はこの戦いを期にクサナギ軍に、エッケザックス軍に尊敬と畏怖を以て伝えられていくのだった。
そして、別の戦場ではたった一人の非凡なる英雄が歴史の大舞台へと立った。
その名は悪童・栄一───戦闘員である。




