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龍虎 壱 ー己が義を貫けー  作者: HANA


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第15話 龍、絶体絶命

店を出ると天音と鷹宮は先の車へ乗り込んだ。

蒼真と蓮は、その後ろの悠真の待つ車へ乗り込む。

ドアが閉まると外の音が遠くなり、車が動き出した。

「…………悠真、俺のサングラスちょうだい」

「え?あ、これっすか?」

「違う…新しい方」

「?夜なのにかけるんすか?どうぞー」

運転しながら悠真はサングラスを渡してくれた。

蒼真は受け取ると右手にサングラスを握り、黙って窓の外を見た。

「何してんの、お前」

蓮が首を傾げながら声をかけたが、蒼真はしばらく口を開かなかった。

長い沈黙の後、ようやく蒼真が口を開いた。


「蓮」

「ん?」

「…………ヤバい」

「何が」

蒼真はゆっくりと窓から視線を蓮へ向ける。

「麗華」

「うん」

「東雲の娘だった」

「…………」

蓮は黙った。

「東雲大和の娘」

「…………」

「俺も今日知った」

「…………」

蓮が蒼真を見る。

「やっぱり?」

「やっぱりって…知ってたの?!」

「いや、会合で名乗ったろ。……マジでお前が付き合ってる麗華ちゃん?」

「はい」

「東雲麗華?」

「はい」

「東雲大和の一人娘?」

「…………はい」

「…………」

「…………」

蓮は数秒黙った。

悠真も口を挟んでいいのか分からず黙っていた。

やがて、蓮が口を開いた。

「お前」

「はい」

「何してんの?」

「知らなかったんだよ!!」

「名字!!」

「聞いてねぇ!!」

「いや、フルネーム聞くだろ!」

「お前はな!」

「そこに納得すんのか!!」

蓮が額を押さえ、俯く。

「……待て」

「何」

「じゃあ」

蓮が顔を上げる。

「会合中、麗華ちゃん、お前ずっと見てたの」

「うん」

「お前も見てたの」

「だって麗華いたんだもん」

「『だって麗華いたんだもん』じゃねぇよwww」

「仕方ねぇだろ!俺だって混乱してたんだよ!」

「目泳いでたぞ」

蓮の言葉に蒼真の顔から笑いが消えた。

「…………マジ?」

「マジ」

「嘘」

「親父、お前何回か見てた」

「…………」

蒼真が固まる。

「あと」

「まだあんの?」

「大和さんも麗華ちゃん見てたし、お前も見た」

「…………」

「お前ら多分」

蓮が笑いを堪えながら言った。

「両方に怪しまれてるぞ」

「…………」

蒼真は背もたれへ身体を沈め、両手で顔を覆った。

「終わった……」

「何がwww」

「絶対バレた」

「付き合ってるとこまで分かるか?」

「知らねぇよ!」

「まぁでも」

蓮が笑いながらタバコを取り出す。

「飯行けって言われて『機会があれば』は面白かったな」

「お前笑ってただろ!」

「だってもう行ってんだろ?」

「そうだよ!何回も行ってるわ!」

「しかも付き合ってんだろ?」

「付き合ってる!」

「っはははは!」

「笑うな!!」

蒼真は深く息を吐いた。

そしてふと、何かを思い出したように止まる。

「…………蓮」

「何」

「今さ」

「ああ」

「俺ら、東雲との繋がり探ってるよな」

「…………」

蓮の笑いが止まり、タバコに火をつけようとした手も止まる。

「破門者が東雲と繋がってるかもしれねぇって」

「ああ」

「俺」

「…………」

「東雲組長の娘と付き合ってんだけど」

「…………」

車内が静かになり、蒼真と蓮が見つめ合う。

「…………」

「…………」

蓮が口を開いた。

「繋がってんじゃねぇか」

「…………はい」

「ガッツリ」

「はい」

「組長の娘と」

「はい」

「何ならキスまで」

「それ今関係ねぇだろ!!」

蓮がまた吹き出すと、運転席の悠真も吹き出していた。

「笑い事じゃねぇよ、てめぇら!」

「いや、だってお前www」

「俺だって知らなかったんだよ!」

「組の連中に知られたら面倒だぞ」

その言葉に蒼真の表情が少しだけ変わった。

「…………」

蓮も笑うのをやめ、タバコに火をつけた。

「まだ誰にも言うな」

「ああ」

「親父にも?」

蒼真は少し考えた。

座敷を出た時の天音との会話を思い出す。

「もう遅ぇ気がする」

「だな」

「…………」

蒼真はポケットから煙草を取り出し一本咥え、火をつける。

深く吸って、吐く。

「ヤバいな」

「何が」

「いや」

蒼真は窓の外を見た。

「色々」

蓮が笑う。

「まぁ、麗華ちゃんと別れたいわけじゃねぇんだろ?」

蒼真は即答した。

「それはない」

「じゃあ腹括れ」

「…………」

「惚れた責任取れって言っただろ」

蒼真が蓮を見る。

少しだけ黙って。

「ああ」

頷いた。

「ところでさ」

「あ?」

「なんでサングラス握ったままなんだよwww」

「………持ってねぇと死にそう。麗華が選んでくれたやつ」

「………メンタル崩壊寸前じゃねぇかwww」

蒼真の答えに蓮は腹を抱えて笑った。

そんな蓮の肩を蒼真が軽く小突いた時、蒼真のスマートフォンが震えた。

画面を見ると麗華からのメッセージだった。


『びっくりした?』

「…………」

蒼真の眉間に皺が寄る。

蓮が覗き込む。

「麗華ちゃん?」

「うん」

「何て?」

蒼真は無言で画面を見せると、蓮が笑う。

「余裕じゃん」

「こいつ……」

蒼真は返信を打つ。

『びっくりした?じゃねぇよ』

すぐに既読がつき、返事がきた。

『やっぱり知らなかったんだ』

『知らねぇよ!!』

『私は蒼真が神代の若頭だって知ってたよ』

「…………」

蒼真の動きが止まり、蓮が横から画面を見る。

「知ってたって」

「…………」

『いつから?』

『最初から』

「…………」

蒼真は固まり、動かなくなった。

頭が情報を処理しきれなくなったようだ。

「最初から?」

蓮が聞くも返事が蒼真からなかなか返って来ない。

「…………」

「おーい」

「…………最初から知ってたって」

「っははははは!!」

「何でだよ!!!」

蒼真がスマートフォンを握ったまま叫ぶと、運転している悠真の肩が僅かに揺れた。

「前見てろ!」

「見てます!」

「笑うな!」

「笑ってません!」

蓮は隣で腹を抱えている。

「お前だけ何も知らなかったの!?www」

「うるせぇ!!」

叫びながら、蒼真はメッセージを打ち込む。

『何で言わなかった?』

『聞かれなかったから』

『普通言うだろ!』

『蒼真も自分が神代組の若頭だって自己紹介しなかったでしょ』

「…………」

蒼真が再び黙り、蓮が画面を見る。

「正論」

「うるせぇ」

『でも』

麗華から続けて届く。


『蒼真が誰でも、私は蒼真が好きだから』


「…………」

蒼真の口元が僅かに緩み、蓮が横から覗く。

「…………」

「見るな」

蒼真がスマートフォンを胸元へ引く。

「何で」

「見るな!」

「顔緩んでんぞ」

「緩んでねぇ!」

「緩んでる」

「うるせぇ!」

蒼真は窓の外を向いた。

それでも、口元は少しだけ緩んでいた。

「……俺も」

「何?」

「何でもねぇ」

麗華へ返信する。


『俺もだよ』


そう送信して、スマートフォンをしまった。

「…………」

煙草を吸うと少しだけ、落ち着いた。

その時だった。

蓮のスマートフォンが震えた。

「ん?」

画面を覗く、蓮の表情が止まった。

「…………」

今度は蒼真が画面を覗き込んだ。

「何?」

「親父」

「え?」

「これ、やべぇぞ」

「何」

蓮が画面を見せた。

そこには店の名前だけが書かれていた。

「…………」

蒼真の顔から今度こそ、完全に笑みが消えた。

「……ヤバい」

「だよな」

「この店」

「…………」

蓮も店名をもう一度見る。

「な?」

「ここ」

「うん」

二人が顔を見合わせ、蒼真が呟いた。

「この店はヤバい」

蓮も頷く。

「ここ、ヤバい話の店じゃん」

「…………」

「…………」

車は何事もなかったように夜の街を走っていく。


蒼真は煙草を吸いながら。

もう一度、蓮のスマートフォンに表示された店名を見た。


今夜、神代天音が龍と虎を呼んでいる。

完全個室。

外へ話が漏れることのない店。


「…………」

蒼真が深く煙を吐いた。

「絶対バレた」

蓮が隣で笑う。

「頑張れ、龍」

「お前も呼ばれてんだよ、虎」

蓮の笑みが消えた。

「…………」

「お前のスマホに来てんだから」

「俺、関係なくね?」

「龍虎だから」

「こういう時だけ虎にすんな」

「とりあえず、その店向かいますー?」

悠真が運転席から声をかけた。

「頼むわぁ……」

蒼真は溜息をつきながら返事をして、車窓から覗く月を眺めた。


「で?」

「何」

「サングラスいつまで握ってんの?」

蓮がそう言うと、蒼真は自分の手元に目を向ける。

確かに、ずっと握っている。

だけど、今はこれだけが心の支えだった。

「………店にも持ってこうかな」

「アホかwww」

蒼真のひと言で蓮と悠真が声を出して笑った。


蒼真は今は笑われても、それでも、サングラスを手離すことが出来なかった。


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