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漂流国家アステリア ――「 リサイクル対象の屑拾い」が無慈悲な選別を船の全権掌握で逆転する   作者: 端野ゼロ


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船体外殻ハルの表面は、狂気じみたパッチワークの海だった。



 かつてアルタイル・カーボンと呼ばれた滑らかな流線型の装甲は、とうの昔に失われている。今は、無数のスクラッパーたちが継ぎ接ぎした廃材と、醜い溶接痕が延々と続いていた。推進系からの熱漏洩のせいで、この第4隔壁付近の装甲板は不規則に熱膨張を引き起こし、微妙に歪んでいる。



 カイは、微小重力の中で慎重に足場を選びながら進んだ。



 重力錨が船体の金属面を捉えるたび、骨伝導で「ガコン」という重い振動が顎の骨に抜けていく。巨大なシリンダーが約0.46回転/分という途方もなくゆっくりとした速度で自転しているため、頭上では絶対的な暗黒と、遠い星々の冷たい光が交互に流れていった。


 右手に握ったVウェルダー(真空溶接機)を操作し、船体に食い込んだデブリを焼き切る。コンデンサが劣化しているせいで、アーク放電は不規則な高周波ノイズを伴い、火花の色も青白くブレていた。


 カイは目を細め、火花の色合いだけで手元の電圧ダイヤルを微調整する。機械の悲鳴を色と振動で読み取る。彼にとって、それは息をするのと同じくらい自然なことだった。



 その時だ。



 網膜の端で、何かがギラリと強烈に光を反射した。



 カイは反射的に作業の手を止め、虚空を見上げた。ヘルメットのバイザーの向こう、無限の暗闇の中から、無数の細かな光の点が急速に拡大してくる。


 予期せぬ微細隕石の群れ。散弾銃のように広がりながら、カイのいる区画へと容赦なく降り注ごうとしていた。



 「……」



 カイは声を出さない。焦りも、恐怖もない。


 ただ、身体が極限の集中状態へと移行し、心音が一つ、大きく跳ねた。



 逃げる場所はない。ハッチへ戻るには時間が足りず、装甲の裏に隠れるような出っ張りもない。


 カイは左手のスイッチを叩き、両足の重力錨の磁力を強制的にカットした。



 船体に縫い留められていた身体が、遠心力によって宇宙空間へとフワリと投げ出される。



 無音の世界で、無数の光の弾丸がカイの全身をかすめていく。


 彼は完全に脱力し、船体の自転が生み出す慣性のベクトルに身を任せた。そして、隕石の軌道が自らの身体と交差するそのコンマ数秒前、背部のスラスターを叩く。



 『シュッ』



 わずか0.05秒のマイクロ噴射。


 消費ガス約60グラム。


 その極小の推力が、カイの身体を紙一重でずらす。


 隕石が分厚い肩の装甲をかすめ、塗料の剥がれる振動だけが骨を伝わってきた。



 『シュッ』



 再びの噴射。姿勢制御。


 カイは宇宙空間で、見えない階段を駆け上がるように、あるいは死神とワルツを踊るように、緻密で完璧な『ゼロ・ステップ』を踏み続けた。無駄な感情を一切排除し、純粋な物理法則と機械の摂理だけと同調する。


 背中の窒素ガスの残量ゲージが赤い点滅を繰り返しているが、カイの視線はただ、飛来するデブリの軌道と自身の質量のみに向けられていた。



 数秒か、あるいは数分か。


 静寂の中で繰り広げられた死の舞踏が終わり、最後の隕石がカイの足元を通り過ぎて、遥か後方の外殻に音もなく突き刺さった。



 カイは小さく息を吐き、再び重力錨を起動する。



 ガキン、と金属が噛み合う強烈な衝撃と共に、カイの両足が安全地帯の装甲板に吸い付いた。


 ヘルメットの中で、荒くなった呼吸と、酸素が漏れるシューという細い音が響く。


 生き延びた。その事実だけを機械的に確認し、カイは再びVウェルダーを構えようとした。



 だが、その手がピタリと止まる。



 視線の先、乱反射する星明かりに照らされた装甲板の一部に、不自然なものが刻まれていた。


 デブリの衝突による無骨な削れでも、スクラッパーの粗雑な溶接痕でもない。



 それは、異常なまでに滑らかな、完璧な幾何学模様の『傷』だった。

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