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不快な静電気のスパークと共に、再起動した巨大なホログラムプロジェクターが、頭上の空間を強烈な光で切り裂いた。
カイとエリンが配管の隙間から這い出た広場には、すでに何百人もの下層民たちが集まり、言葉を失って頭上を見上げていた。煤けた天井に投影されたヴァルガスの顔は、十メートルを超える大きさで、彼らを冷酷に見下ろしている。
その銀髪は一筋の乱れもなく、左右対称な高級服をまとった姿は、薄汚れた下層の景色の中で異様なほど浮き上がっていた。彼のトーンは演説調で、徹底して『ドライ』だった。感情の起伏を一切排した合成音声が、広場の錆びついた鉄壁に反響する。
「アステリアの愛しき諸君。主機関オメガ・ドライブの起爆エネルギー変換効率は、設計限界値の四十一パーセントまで低下した。これは、正しき航路を維持するための不可避の試練である」
ヴァルガスの言葉に、群衆の間からじわじわと、地鳴りのようなざわめきが広がっていった。
エリンは青ざめた顔で頭上のホログラムを見つめ、無意識のうちに何もない空中で指先をせわしなく動かした。彼女の論理回路が、ヴァルガスの言葉の裏にある「数字」を瞬時に弾き出す。
「嘘よ……変換効率が四十一パーセント? 計算が合わないわ。そんな損失を補填するためには、船内の質量消費を物理的に減らすか、生存エネルギーの供給を強制遮断するしかない。生存確率が、一気に二桁は下落する……!」
そのエリンの呟きを肯定するかのように、ヴァルガスの虚ろな三次元の瞳がゆっくりと動いた。
「我々は目的地に到着せねばならない。例えそこがどんな地獄であろうとも、航路を止めることは許されない。星の沈黙は、正しき航路の証だ。そして、ノイズ(異分子)は排除しなければならない。よって、生存リソースの再定義――『プロトコル・デルタ』を発動する」
プロトコル・デルタ。
下層民にとって、それは単なる工学用語ではなかった。長年、彼らが「間引き」と呼んで恐れてきた、最悪の物理的清算。
ヴァルガスの背景に、猛スピードで発光する数式と、アステリア号の住人たちの識別コードが流れ始めた。
猛烈な速度でスクロールする文字列。下層セクター4の住人たちを示す『DE―4』の接頭辞が、青白いモニターを埋め尽くしていく。
カイは表情を変えず、ただ右手の親指の腹でスパナの柄のローレット加工をきつく撫で回した。
「ボルトの機嫌が悪いな」
彼の呟きは、ホログラムから流れるヴァルガスの「救済」を騙る論理を打ち消すように、低く、重かった。
スクロールの速度が徐々に落ちていく。
そして、ある一つの識別コードが、赤色に強調されて画面の中央で静止した。
『DE―4―〇〇九一:ガルド』
カイの漆黒の瞳が、一瞬だけ鋭く収縮した。
隣のエリンが、息を呑んで彼を振り返る。
「……師匠」
カイの指先が、スパナの冷たい金属の感触を物理的にめり込むほどに握り締めた。
ガルドの寿命は下層の平均を超えていた。余剰質量として、あるいは非生産的なパーツとして、船の管理システム(ヴァルガス)は彼を「最初の排除ノイズ」として弾き出したのだ。
広場全体に、絶望と怒りの怒号が炸裂した。
だが、その人間の感情を嘲笑うかのように、頭上の隔壁ハッチが重々しいモーター音を立てて開いた。
ウィィィン――。
開かれたハッチの暗闇から、漆黒の電磁ワイヤーを繰り出しながら、強固なパワードスーツをまとった治安維持ドローン部隊が、蜘蛛のように次々と広場へと降下してくる。
その赤い光学センサーが、獲物を定めるように一斉に明滅した。
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