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「下がれ」
カイは咄嗟に左腕を伸ばし、エリンの身体を自身の背後へ力強く引き込んだ。
それと同時に、右手に握りしめていたVウェルダーのトグルスイッチを手動で叩く。
ビーッ――!
限界出力を物理的に半減させた、カイ独自の安全バイパス。
アーク放電が不安定に、しかし一定の光量を持って青白く弾け、暗黒のジャンク通路を怪しく照らし出した。カイはVウェルダーを懐中電灯代わりに掲げ、プラズマの明滅の中に通路の構造を浮かび上がらせる。
前方から、パニックに陥った下層民たちの地響きのような足音が近づいてきた。
「電力が死んだぞ!」
「ウンディーネが止まる! 息ができなくなるぞ!」
怒号と悲鳴が入り混じり、暗闇のなかで人間たちが互いに衝突し合う生々しい衝撃音が響く。
まともにこの人波とぶつかれば、摩擦の無駄どころか、物理的に圧死する。
カイはエリンの手首をきつく掴み、アークの青白い火花を激しく散らしながら、壁際の幅わずか五十センチメートルの高圧配管の隙間へと滑り込んだ。
押し寄せる群衆の熱気と脂の臭いが、彼らのすぐ傍らを嵐のように通り過ぎていく。
カイはエリンの背中を配管に押し当て、自らの身体を肉体の盾として彼女を群衆から庇った。エリンは恐怖で目を閉じたまま、カイの胸元に顔を埋め、彼の荒く力強い心音だけを唯一の生存の証明として聞いていた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
アステリア号の骨格を揺らしていた電磁サージが徐々に収束し、不快なオゾンの臭いだけが充満する中、バチンッ、という巨大なスイッチが物理的に戻るような重い音が響いた。
ジーッ……。
下層の天井に点在する、埃を被った古いモニター群が、一斉にバチバチと火花を散らして再起動した。
しかし、そこに映し出されたのは、いつものノイズに塗れた下層の運用ステータスではなかった。
アステリア号の全セクター、全ての強制同期端末。
その光量レベルを最大に引き上げられたモニター群に、冷酷なまでに整えられた『あの男』の顔が、無慈悲に浮かび上がった。
大航法士ヴァルガス。
アステリアの絶対的な「神」の顔が、下層の暗闇を深紅の光で照らし出していた。
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