18
保安ドローンを過熱蒸気で大破させ、セクター4の入り組んだジャンクの迷路へと滑り込んでから、わずか数十秒後のことだった。
不快な耳鳴りのような金属摩擦音が、船体の骨組みの奥底から伝わってきた。
それはウンディーネの音ではない。アステリア号の推進力を生み出している主機関『オメガ・ドライブ』が、物理的なエラーによって出力を急激に低下させた時に生じる、低周波の「引き波」だった。
「……重力圧(G)が揺らいでいる」
カイは立ち止まり、ブーツの底に意識を集中させた。
自転による遠心重力が、コンマ数秒の周期で微かに軽くなり、また重くなる。まるでアステリア号という巨大な鉄のクジラが、不整脈を起こして苦しげに身震いしているかのようだった。
エリンは足元の不安定な浮遊感に胃をせり上げられ、思わず隣のカイの服を掴んだ。
彼女の指先が、何もない空中で狂ったように仮想キーボードのキーを叩く。
「主機関の磁場閉じ込め(マグネティック・シールド)がブレているわ……! 起爆ペレットの爆縮頻度が落ちてる。このままだと、数秒後に誘導サージが――」
彼女の計算が言い切られるより早く、すべての光が世界から消失した。
非常用の血のような深紅の照明すらも、一瞬にしてふっと掻き消えた。
アジトの陰極線管モニターが最期に放った青白い閃光が網膜に焼き付いたままで、文字通りの「完全な暗黒」が下層を支配した。船外の絶対的な暗闇と同じ、光子が一切届かない遮断された静寂。
だが、その静寂はすぐに、大音響の物理的な悲鳴によって打ち破られた。
バチバチバチバチッ!
暗黒の通路のあちこちで、老朽化した配線から数万ボルトの誘導雷(高電圧プラズマ)が蛇のようにのたうち回り、鉄の装甲板を焦がしていった。
チリチリと鼻を刺す、強烈なオゾンの臭い。
光を失ったことで五感が異常に研ぎ澄まされ、すぐ目の前で弾けるプラズマの熱線が、カイの肌をヒリつかせた。
「きゃああっ!」
エリンは短い悲鳴を上げ、カイの背中にしがみついた。
上層の徹底管理された環境で育った彼女にとって、この不完全な原始的エネルギーの暴走――磁気嵐と停電――は、文字通りの死の予兆でしかなかった。恐怖で冷たくなった彼女の細い指が、カイの作業着を千切れんばかりに握りしめている。
過呼吸気味になった彼女の「清潔な無臭」が、オゾンの焦げ臭いスパークの合間に、ひどく場違いにカイの鼻腔をくすぐった。
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