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それは, アステリア号のどの区画でも聞いたことのない, ひどく乾いた, しかし若々しい, かつての地球の言語だった。
『――こちら、地球統合宇宙軍所属、第六世代実証艦プロメテウス。超空間跳躍試験、成功。繰り返し送信する。プロメテウスはこれより、アステリアの予定軌道を追尾する――』
音声ログに混じるキィィィンという超高周波の電磁ノイズが, カイの鼓膜を不快に突き刺す。
しかし, そのノイズ以上に, 語られた物理的事実が, カイの脳の計算回路を完全にフリーズさせていた。
「プロメテウス……? 超空間, 跳躍……?」
カイは低く呟いた。
アステリア号が二百年かけて, のろのろと宇宙空間を自転しながら這いずり回っている間に, 地球の人類はとっくに空間を飛び越える『次の物理』を完成させていた。
「そうよ, カイ。このログのタイムスタンプを見て」
エリンの声は, 知的興奮と, 足元の世界が全て崩壊していくことへの底知れぬ恐怖で, かすかに震えていた。
彼女の鋭い瞳が, ドット抜けだらけのモニターの数値を正確に読み取る。
「アステリア号が地球を出発してから, わずか五十年後の出来事よ。彼らは, 私たちの二百年という時間のすべてを, 一瞬で追い越してしまったの。……そして, 航法士たちはこの事実を知っていた。自分たちが『追いつかれ, 無用なガラクタになること』を恐れたヴァルガスたちは, この歴史の真実を教義で塗り潰したのよ!」
アジトの薄暗い光の中で, 二人の顔がモニターの青白い波紋に交互に照らされる。
カイは無言でスパナを握り直した。手のひらに伝わるローレット加工のギザギザだけが, 彼を現実へと繋ぎ止めている。
自分たちが二百年間, ボルトを締め, ウンディーネの悲鸣をなだめ, 処刑される恐怖に怯えながら目指してきた目的地。そのすべてが, とっくに後発の「影」によって通り過ぎられ, 定義し直されていた。
「計算上……」
エリンはモニターのデータファイルを見つめたまま、ゆっくりとカイを振り返った。
彼女の清潔な無臭の匂いに、アジトの古い油の生々しい匂いが混ざり合っている。
「その地球の最新鋭艦プロメテウスが、私たちのこのアステリア号に物理的に追いつくのは……。誤差を考慮しても、まさに『今』よ」
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