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カイの指先が、フラッシュドライブの鏡面仕上げされた金属外装をなぞる。
この閉鎖された鉄の牢獄で、ただの一度も外部からの接触を許さなかったはずの、絶対的な教義。その背後に隠された、物理的な『嘘』が今、自分の手の中にあった。
カイは黙って、アジトの隅にある木箱の蓋を蹴り飛ばした。
現れたのは、煤けた銅線と、過酷な深宇宙で唯一、論理回路を維持できる物理的な盾である真空管が剥き出しになった、彼の旧式端末だ。
カチャ、と鈍い物理音がして、エリンの持ってきた超精密なフラッシュドライブが、カイの自作した錆びついた銅製ソケットに強引に押し込まれた。そのあまりに不釣り合いな物理接続に、エリンは息を呑んだ。
「そこ、接触抵抗が大きすぎるわ。電気信号の伝達効率が十五パーセントは低下して……」
「摩擦の無駄だ。見てろ」
カイは古いトグルスイッチを物理的に跳ね上げた。
ブゥゥゥン……という、重苦しい唸りが部屋に響き始める。
旧式端末の真空管がゆっくりと、まるで生き物の体温のようにオレンジ色の鈍い光を帯びて暖まっていく。と同時に、限界寸前の冷却ファンがキィキィと悲鳴を上げながら回りだし, アジトに澱む油まみれの熱気をかき回した。
ジ, ジジ……ジジジ。
不規則な高周波ノイズが端末の剥き出しの基盤から弾け, 部屋の電磁環境を乱暴にかき乱す。
だが, その不規則なアナログノイズこそが, エリンの計算通り, 上層の完璧なデジタルプロトコルに致命的な「バグ」を物理的に誘発させていた。
ピピッ。
ドット抜けだらけの, 緑色の陰極線管(CRT)モニターが, バチバチと激しい火花を散らしながら起動した。
エリンのフラッシュドライブに施されていた何重もの暗号化隔壁が, ノイズの奔流によって物理的にショートし, 強制的に解除されたのだ。
「暗号解除完了……。論理エラーの発生確率, コンマ零零四パーセント。私の計算通り, 完璧だわ!」
エリンは思わず声を弾ませ, モニターの青白い光にその端正な顔を照らした。
彼女の指先が, 興奮を抑えきれずにまた空中で目に見えないキーボードを激しく叩き始める。
モニターの緑色の走査線が激しく揺れ, 見たこともない形式の, 膨大なテキストデータと音声の波形ログが, 音を立ててスクロールされ始めた。二百年の間, 航法士ギルドの最深部でさえ「存在しないもの」として暗黒に葬られていた, アステリア号出発から五十年の節目に記録された本物の航海ログだった。
「再生するわよ」
エリンが端末の古びた物理ダイアルを回すと, 激しい静電気ノイズの中から, 信じられないほど明瞭な『声』が再生された。
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