第140話
しっかしあの封印具、やっぱりただの道具じゃなかった。
アエスさんの片手に嵌めた瞬間発動したそれは、当然ながらアエスさんが術を使おうとすると彼女を痛めつけるという説明通りの機能を見せつけたんだけど……。
(私の魔力をごっそり抜き取りやがった……)
元より少ない魔力が一気に抜き取られて、こちとら意識を失うかと思ったわ!
まあ幸いにも聖女と獣化騎士との関係が成立しているおかげで、すぐに私を支えてくれたアドルフさんとの繋がりによりそんなことも起きず魔力枯渇で死ぬかもしれない事態も免れたわけだけど。
(あれ、両方着けてたらやばかったかもな)
片方だけであの威力だったのか、発動が条件だったのかは不明だ。
それを探るのは私の仕事ではないので、余り考えないことにして後ほどレポートに記して王都で働いている上層部に丸投げするつもりである。
「なんで……なんでよお……」
「……アエスさん」
「なんでわかってくれないの……!」
心が折れたのかなんなのか、今度は先程までの悪女ムーブから一転して泣き出してしまったアエスさんにアドルフさんと私は顔を見合わせる。
「あの人はわかってくれたのに……正しいって、あたしのこと後押ししてくれたのよ? だからこれは正しいんだってばあ……不幸だから綺麗なのに……!」
「じゃあ現実の貴女は今、不幸ですけど……綺麗ですか?」
「違う! あたしは違うの! あたしはキャラじゃないもん!!」
「そうですよね。貴女は生きている。そして私たちも、生きています。傷つけば痛いし、大切な人が傷つけば心が痛む、人間ですよ」
「だって、それは……」
私の言葉に彼女は困惑した様子で顔を上げる。
涙で濡れるアエスさんは、年相応のあどけない泣き顔だった。
「いったい貴女を後押ししてくれたというその人は……」
「イリステラ。とりあえず、場所を変える。正気を取り戻した民衆が、怒りの矛先を向けて混乱を起こすと危険だ」
「あ……そうですね」
人々が正気を取り戻したら、今度は何があったのかと互いに記憶を擦り合わせ、アエスさんにたどり着いてしまうかもしれない。
そうしたら洗脳されていた人たちは彼女のことをよく思うわけがないし、不気味な存在を――それこそ彼女が自分の故郷を追われた時のように、人々が魔女狩りよろしく追い立てるかもしれない。
相手が一人や二人程度ならこちらの説得如何によってはなんとかなるかもしれないけど、群集心理ってのは厄介だからね。
戦場でどれほど苦労したことやら……!
「……一旦アエスさんを拘束して、ヴァセーヌさんたちの様子を見て判断、ですかね……?」
「妥当だな。行くぞ」
「え」
言うやいなやアドルフさんはアエスさんを適当に持ってきたロープでぐるぐる巻きにしたかと思うと私を片手に抱き上げて、彼女を荷物をぶら下げるようにして軽やかに屋根の上をかけ始める。
眼下では人々が困惑した様子で互いに情報交換している中、私たちの姿を見て指さす人たちもいたけど……まあ、ぱっぱと私たちはその場を後にするしかない。
でも、そうやって晴れ渡った町並みを見て、人々の声を聞いて、私たちはようやく一つ嵐が収まったと、そう実感するのだった。




