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転生者の私は〝推し活〟するため聖女になりました!  作者: 玉響なつめ
第十四章 推しへの愛なら負けません

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第139話

 私たちが封印具を使うことに躊躇いがあったのが、渡してきたのがプセーマさんだからに他ならない。

 これが使節団長であるヴァセーヌさんだったら話はまた別だ。


 しかしプセーマさんはこれをヴァセーヌさんにも秘密で持ってきたと言っていた。

 あの場ではまだ意識が混濁としていた老人相手に、何かあってもウーヌ側の責任……なんて言質が取れるわけでなし。


 つまりあの場にいた私たち夫婦と、プセーマさんだけが知る話ってやつだ。


 その場合、この封印具を使ってアエスさんの身に万が一のことがあったとして、まあ今回の騒ぎは彼女が起こしたってこと自体はすでにこちらの国でも掴んで報告済みなのでなかったことにはできないにしろ、いろいろとややこしいことになるのは目に見えている。


 その上、こんな騒ぎを引き起こした相手を今後どう扱うかの問題もあるし……本当にこの封印具を使って私たちはノーダメージなのかどうかの検証だってしていない状態で使うのはやっぱりリスクが高いと考えるからだ。


(でもそんなことも言っていられない)


 アエスさんの魅了は本物。

 アドルフさんが彼女を見る目には僅かな熱と、大きな苛立ちがある。


 私は言われたとおり離れないため、ぎゅうっと抱きついている形だけど……いや振り落とされないためにも大事なことなんだけどね?

 なんだろうね?

 見せつけている感が……!!


 アエスさんがイラァッとしているのが見て取れるよ!


(私はアエスさんから推しを奪った、悪役なんだろうなあ)


 確かに物語にハマる時、その不幸が美しさと感動を与えることってあると思う。

 原作を大事にする人からしたら、私の推し活は原作改変としかいいようがなく、許せないものだと思う。


 ゲームをプレイしている時に味わった絶望、あれがあったからこそ主人公が立ち上がるその瞬間の感動に繋がっていた……ということは事実なのだから。


 だからアエスさんの言いたいことは、結構わかる。わかっちゃう。

 私も……私もアドルフさんにハマったのは彼の壮絶な退場の仕方でがきっかけだったし、そこからストーリーでヒューゴーや他の登場人物たちの、彼を偲ぶ言葉に少しずつ気になったわけで……。


 そこから人物紹介や明かされる秘話! みたいな攻略本とか雑誌、ウェブに載っている情報を見てどうにか幸せになって欲しいと願ったクチだ。


 でも逆にどこまで行っても報われないのに、ただひたすらに真っ直ぐに〝自分〟を貫いた隊長としてのアドルフさんの尊さといったらそりゃもう筆舌に尽くしがたい美しさがあるんだよねえ!

 そこを愛して止まない人々からしてみたら、彼の魅力を減らすような真似をするなって言いたいのはわかる。


 わかるんだよ。

 わかるんだけどさ……!


「イリステラ」


「はいっ!」


 あっという間に詰められた距離。

 火の礫なんて、アドルフさんはなんのその。


 眼前に迫るアエスさんは、目を見開いていた。

 彼女にはアドルフさんと私の姿が、どう見えているんだろう。


 そんなことを思いながら――私は鞄から取り出した封印具の腕輪を彼女の右手に(・・・)嵌める。


「……アアッ!?」


 瞬間、彼女の口からか細い悲鳴が零れた。

 いや本当は大きな悲鳴を上げたかったのかもしれない。

 強い力を放出している彼女が、使おうとすると術者の手首を傷つける封印具を着けたんだから、そりゃ攻撃されるよね。

 手首からボタボタと流れ落ちる血が痛々しい。


「アドルフさん!」


「ああ」


 封印具は正しく作用したようで、アドルフさんはあっという間に彼女を持っていたロープで縛り上げてしまった。

 私は痛みに愕然とした表情を浮かべるアエスさんを一瞥してから、周りを見渡す。


 ああ、うん。

 このバルコニーの眺めは本当に良くて。


 まるでこの騒動の終わりを知っていたかのように雨があがり、人々がキョトンとした様子で次第にざわめいていくのを見てホッと胸を撫で下ろす。


 私はアドルフさんの元に戻って、にこりと笑って見せた。


「……彼女に通常の治癒魔法をかけます。いいですか?」


「ダメだと言ってもするんだろう」


「痛いのは、やっぱり辛いですからね」


 アエスさんは知らなかった。知る必要がなかった。

 こんな風に傷ついて、血を流す側じゃなかったから。


 魅了の力で彼女はこれまで迫害めいたこともされたかもしれないし、その原因を作ったこともあったかもしれないけど……今は、なんだか打ちのめされたただの子供のように見える。


「アエスさん。ここにいるアドルフ・ミュラーはあなたの知る世界の人ではないのかもしれません。同じかもしれません」


「……なに、よ。なによ、お説教?」


「いいえ。ただこれだけは知っていて欲しかったんです」


 ふわりと私の治癒を受けて、彼女の手首の傷が塞がっていく。

 血で汚れたところを拭うのは難しそうだったのでそのままだけど、まあいいだろう。


「推しへの愛を人に押しつけるのって、マナー違反ですよね」


「えっ」


「そしてそれ以前に、彼は私の夫なんです」


 ごめんね!

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