第138話
「ほんっとムカつく! ムカつく!! なんなの、あんたたち!!」
「ど~もぉ~、お邪魔しまっす!」
「きぃ~~~!!」
ダンダンと地団駄を踏むアエスさんに、思わず私も煽るような挨拶をしてしまった。
おっと、いけないいけない……ついムカついたからって煽っちゃったらこっちも同レベルに落ちちゃうじゃんね。
反省反省。
私はアドルフさんに見合う大人の女性にならなければならんのだ、こんな……ちょっと新婚旅行を邪魔されたからってムカついてないで余裕の表情見せつけるくらいじゃないといけないよね!
「イリステラ」
「すみません!」
ほらぁ、アドルフさんに注意されちゃったよ!
名前を呼ばれただけだけど、思わず背筋が伸びちゃった。
「なんなのよ、本当にもう! アタシのアドルフが女を抱いて優しくしてるなんてだめなの! 愛されたいのに愛されなくて、打ちひしがれながら仲間に依存して命を燃やしちゃうそんな不憫なアドルフじゃなきゃアドルフじゃないんだから!」
「うわっ」
人の夫の名前を連呼しながら術を展開するの止めてくれないかな!?
アエスさんは神官として魔法をいくつか使うってのはプセーマさんから聞いている。
というか、魔法的なものはこの世界に存在していて、国によって多少違いがある。
私たちの国の獣化と治癒ってのが特殊事例なのは事実だけど、ウーヌ国では古代から神の知恵で魔法の道具が発達して人の潜在能力をうんたらっていうね!
ちなみに隣国のリンドーンでは魔法を使わないというか使えない? らしく、それを補うように機械工業が発展したって閑話休題。
アエスさんは威力こそないものの、火の礫をいくつもこっちに投げてくるもんだからチリチリ焦げて熱いのなんの!
まあ私はアドルフさんに抱きかかえられて致命的ダメージはないけど、地味に来るなこれ。
「アドルフさん」
「妙な気分ではある」
「……魅了の力ってすごいんですねえ……!」
魂が繋がっている聖女と獣化騎士、そこに影響を及ぼす魅了の力は確かに危険だ。
アドルフさんが即座に彼女を捕縛できずに私を注意したに留めたのは、そういうこと。
「いけますか?」
「難しいな。彼女を傷つけてはいけない、そういう気分になる。腹立たしいことに」
じゃあやっぱり例の封印具を使うべきか。
でもよくわからない道具を使うことには抵抗があるので、できれば使いたくないんだよな……。
「そうよ、邪魔な聖女! アンタがアドルフを幸せにしちゃったんでしょ! アタシのアドルフを……」
「私の夫ですけど!?」
そこは聞き捨てならんな!
いやまあ確かに私がアドルフさんを幸せにしましたけども!!
どことなくアドルフさんも自慢げだし。
獣化姿だから余計に可愛い。尻尾が揺れている気もする。
さすが推し、私の萌えポイントだらけだ……!
ってときめいている場合ではなかった。
「アドルフさん、彼女に触れなくていいです。近寄ることはできますかっ!?」
「それならできる。……イリステラ、俺から手を離すな。今の俺の精神状態は不安定だ」
「え?」
ひそりとアドルフさんが声を潜めて、私の耳にそっと囁く。
うひぃ、ぞわぞわしちゃう! 耳はくすぐったいってぇ!!
「あの女を守れという違和感が、お前を手放すなと言う本能とせめぎ合う。もしお前が離れたら俺は本能を優先し暴走した挙げ句に、お前を連れ去ってこの町を見捨てることになるかもしれない」
「ひぇ……」
言われていることはものすごく恐ろしいことと同時に、洗脳に抗う本能が妻である私を奪われないように動いちゃうとかなにその熱烈具合……!
周囲からは火の礫が降り注ぐ中、いろんな意味であっついわぁ!!




