第137話
使うかどうかは別として預かった例の封印具、布にくるんで私がしっかりと『間違えて』使わないように封印を施した状態で鞄の中へイン!
ちなみに私の封印の威力だけど、同じ聖女だったらアニータ様は勿論のこと、なんだったら後輩のヒルデがちょいと力押ししたら簡単に外せると思うよ……!!
そんな柔い封印で平気なのかと思われるかもしれないけど、元々この封印具は装着者に向けて……つまり内向きの力であって、常に外にその能力が放出されているわけではないので難しい話じゃなかったんだよね。
要するに勝手に使われないようにしたって程度のものなので、本当に念のためってやつだ。
だってほら、万が一にも私が落っことしてそれをアエスさんが拾ったら?
封印具が能力判定するのが聖女の能力や、獣化も含めるんだったら困るでしょ!
ってことでね、念のためだよ念のため。
で、そんな準備をして出発した私たちだけど……アエスさんを見つけるのには苦労するかも、なんて思ったこともありました。
「……思ったより堂々としてますね」
「何も考えていないのか、あえて姿を見せることで俺たちを挑発しているのか。まあ、前者だろうな」
アドルフさん辛辣ゥ!
というのも、アエスさんはあまりにも堂々としていたからなんだけども。
彼女がいたのはこの町でも一等地である中心地、そこにある町長さんの家だったのだ。
他の家よりもででんと大きく、庭があって倉庫もでかいのが……ってまあ、おそらく緊急時用の備蓄倉庫とかそんなんだろうけども。
私が昔暮らしていた救済院があった町にも、町長さんとこと他にいくつか備蓄倉庫があったからね! 多分似たようなもんでしょ!!
で、まあそれはともかくとして、町長さんの家は緊急避難所の一つにもなっているらしく有事の際はそこから町の人たちに声をかけるため、でっかいバルコニーがある。
そこにアエスさんが立っていたのだ。
お祈りをするかのようなポーズは、例の魅了の力を放出しているのかもしれない。
……が、彼女の周辺に人の姿はなく、言ってしまえば無防備そのもの。
確かに町長さんちの周辺にもゾンビ……失礼、町の人たちがウロウロしているのである意味では警備兵代わりになるだろうけど、アドルフさんほどの獣化戦士だったら屋根の上伝いでちょちょいのちょいよ!
「行くぞ」
「はい!」
ってことで、獣化したアドルフさんは私を抱きかかえたまま軽々と宙を舞う。
はあー、推しかっけえ……間近で見られるとか最高……!
って見惚れてる場合じゃない。
私も働かないとね!!
「術式はわかりませんが、結界のようなものを張っているみたいです。このまま拮抗するので、私のことをしっかり抱いていてくださいね!」
「言われずとも離さない」
「んんっ」
ふっと小さく笑ったのが聞こえて胸がギュンッてしました。
私の推し、かっこよすぎじゃない……?
離さないですってよ、離さない!
聞きました? 言われずとも……なんて!!
はあーこんなかっこいい人が私の夫とかこの世界に生まれ直して良かったと改めて思っちゃうね!!
(この人の信頼に応えてみせる)
確かに私は最弱の聖女。
今や最弱どころか貧弱オブ貧弱にまで成り下がったと自覚はある……が、それでも培った経験と技術は他の聖女たちよりも上だと自負している!!
どんなに強い結界も、一瞬ならばひびを入れることくらい造作もない。
ただまあそれを突破するには私の魂を癒やし、補ってくれ、尚且つそこを飛び越えていくだけの身体能力を兼ね備えた……つまり、アドルフさんがいてこそ成り立つんだけどね。
彼には私じゃなくたっていい。
でも、私には彼しかない。
「アドルフさん」
「うん?」
「これが終わったら、新婚旅行楽しみましょうね」
「……ああ」
私の言葉に、抱えるその手に力を入れて応えてくれるアドルフさん。
この人が『死んでいなきゃダメだ』なんて現実、やっぱりどうあっても認めるわけにはいかないでしょ?
私の、現実に、愛しい人のその存在を否定するアエスさんに私も一言もの申そうじゃないか。
バルコニーを挟んで私とアエスさんの視線がぶつかった。
瞬間、バチッと静電気が弾けるような音が聞こえて、それが徐々に大きくなるけど気にしない。
いや実際は私の張っている結界をぶち当ててそこからあちらの結界を揺らして歪めて……ってことが起きていて、その反動でめっちゃ静電気のあの痛みが私を襲っているけども。
でもあえて私はにんまり笑ってみせた。
「ごきげんよう、アエスさん」
アドルフさんの腕の中にいる私を見るアエスさんは、顔を歪ませて私を睨む。
ぱちぃん!
弾ける音と共に、アドルフさんはバルコニーに降り立つ。
あれほど対策に悩んだ彼女を前に、あっけなかったなと思わなくもないけど……いや、今私の手足だいぶ痛いからあっけないとか簡単とかは思わないけども!
「なによ……なによなによなによ、なんなのよーーーー!」
アエスさんはそんな私たちを睨みながら、子供が癇癪を起こしたかのように大きな声で叫んだのだった。




