第134話
プセーマさんによると、ヴァセーヌさんの弟子として修行に励んでいた際に『特殊な能力を持っていて手に負えない』と連れて来られた子供がいたんだそうだ。
そう、アエスさんである。
見るからにボロボロで痩せこけた子供を、ヴァセーヌさんはウーヌゥ神の神官として受け入れた。
神官たちは慈悲と寛容の心を持つことが大事だって話だからね!
我々聖女にも説かれる話ではあるよ!!
ただ人間、心に余裕があるかどうかで優しさってのは変わってくるからさ。
神官とか聖女だって人間であることには違いないので……私の優しさは万人じゃなくて推しが一番、友人二番、知人が三番で余裕っていう越えられない壁の向こうに知らないどこかの人々となっております。はい。
できないことを安請け合いするより、目の前で助けなきゃいけない人がいたら私はそこに責任を持ちたい。
ついでにそれで優先順位をつけてしまうのは、人間としての情だ。
勿論それが間違っていることも多々あると思うけど、幸いにして私の推しはそれを只してくれる側の人だからね……! ふふ、私の推し最高。
「当時……といっても、まだ六年前の話です。彼女は十歳になったばかりだという話で、ウーヌの西にある農村で生まれ育ったと聞きました」
ピンクの髪の可愛らしい女の子。
牧畜を営む両親と、兄二人の後に生まれた末っ子ということで、大層可愛がられていたそうだ。
それなりに裕福な家庭で愛情たっぷりに育っていたはずなのに、ある日を境にそれは一転する。
五才頃、高熱で三日三晩魘されたかと思うと、アエスさんは突然『この世界』について知りたがった。
そして両親や兄たちにはよくわからないことを口走ったという。
(おそらく、その時に転生者だって気づいたのね!)
大方よくわからないことってのも『推しと国が離れてるとかあり得ない!』とか『あの不幸を間近で見物できないだなんて!』とかそんな感じのことじゃなかろうか。
実際に前線出て見ろよ! そんなこと言ってられねえからなあ!?
おっと、本音が。
「その頃から、彼女は大人びた言動で周囲の人々に一目置かれるようになり、そして神官たちに認められ教会への職、或いはもっと上の人たちに紹介をしようかということにまでなっていたようです」
「それは……すごいですね」
「はい。ですが、その件はなくなりました」
アエスさんは事件を起こしたのだ。
それは彼女と年齢の離れた、上の兄の結婚が決まった頃だった。
歳の離れた唯一の末っ子ということで大事にされていたアエスさんだが、当然ながら兄もその年齢なら妹だって成長して当然……つまり、妹離れというかなんというか、普通にアエスさんはお姫様扱いされなくなった。
それは兄が結婚を控えて『その家の息子』から『一家の主』となったことでもあり、寂しくも喜ばしい話だったわけだ。
その当時から可愛らしい女の子であったアエスさんは同年代の男の子にもてていたようだけど、それはまあ少年少女で彼女の恋愛対象(?)は年上の、それこそ兄たちくらいの青年だった。
周囲からはマセている、微笑ましいと言われていたようだけど……おそらくそれも転生者としての年齢が関係しているんじゃないかなと私としては思うんだよね。
で、だ。
アエスさんはそこで魅了の力に目覚めたらしい。
何を思ったのか、何があったのかはアエスさん以外の人によると漠然とした記憶しか残っていないとのことで、ただ原因がアエスさんだったと。
具体的に何をしたのかっていうと、魅了の力で操って兄のお嫁さんを傷つけようとしたってこと。
発現したてだったからその魅了はムラがあり、解けた人により事件は未遂に終わったけど……現場は相当混乱しただろうなと私でも想像に難くない。
(しかもそれが可愛がっていた末っ子が行ったこととあれば、家族はいたたまれなかっただろうなあ)
しかもその力が暴走してあちこちで被害が出たらしく、彼女は取り押さえられて折檻を受けたりもしたらしいのだ。
その状況からもう自分たちでは手に負えないと神殿に預けられ、神殿でも持て余した結果当時すでにそれなりの人数の弟子を抱えていたヴァセーヌさんのところに頼ってきたと……。
「これは、公開されていないことではありますが……ウーヌ教ではそうした己の能力の暴走で苦しむ信徒のために、封じの術が存在します。一定の位階以上の神官が複数人必要なもので、執り行うには複数人の司祭の許可が必要ですが」
「それを行ったんですか?」
「はい。そしてヴァセーヌ様は幼い彼女はその未熟さ故に導き手がいれば、きっと更生しその力も世界のために役立てることができるようになるだろうと仰って引き取ったのです」
つまり親代わりってわけかあ。
実際、ヴァセーヌさんの言うことだけは他の神官たちに比べればきいていたらしい。
そして予言(という名のシナリオ暴露)を行い、彼女はヴァセーヌさんがより高い地位に就くための努力を怠らなかったんだそうな。
対外的には『あたしの予言で困っている人を助ける先手が打てるかもしれないですよ!』ってな感じだったらしい。
どこまで上手くやれるかは上の人次第だから、言い方って大事なんだなあって思った。
「ですが、こんなことに……ヴァセーヌ様が目覚められたら、どれほど悲しまれることか……」
プセーマさんが悲しげにそっと目元を押さえる姿には同情するけど、それでもそんな野生児を連れてきたんだからそれは自己責任では……。
なんて思った私は情がない人間なんだろうか。
あっ、でも本国に置いとくのは不安だから連れてきたってのもあるのかあ!




