幕間 何かが変わる予感がした
(……妙な女だ)
死神と呼ばれる第五部隊。
俺たちの部隊は、残念ながら死亡する率が高い。
それでも、志願する兵士は絶えない。
それだけ給金が良いからだ。
俺は、裕福ではなくとも善良な両親の下に生まれた。
だが戦渦が及び、両親は亡くなった。
そこを救ったのが、当時の獣神部隊だった。
俺は孤児院に預けられた。
戦争が憎かった。生きるのに必死だった。
だから兵士になることに、躊躇いはなかった。
部下たちも、同じような境遇の者ばかりだ。
失う者もなく、むしろ怪我を負って働けなくなった家族を養わねばならない者もいる。
いつ獣化するかわからなくとも、この危険な能力を使い続ける部隊にいる限り高給は約束されているのだ。
(……俺を、俺たちを癒やしたい、か……)
平民出身の荒くれ者。
そう陰で言われていることは知っている。
あまりにも兵士たちの入れ替わりが激しいものだから、教育するだけ無駄だと軍の方でも判断されたのだと思う。
そのため、礼節だの教養についてはからっきしだということは、隊長である俺を含め全員が苦笑するしかない。
みんな、気の良い奴らだが……貴族たちからすれば、獣神部隊として同列に扱われるのは、良い気分じゃないのだろう。
聖女たちは俺たちを凶暴な獣だとでも思っているのか、いつでも怯えた目で見ていた。
彼女たちも貴族出身の娘が多いことから、同じようなことだろうとそう思っていた。
(……魂の、疲弊)
正直、イリステラから話された内容をすべて理解したかと問われると否だ。
むしろ今までどうして隊長である俺が知らされていないのかと、腹が立つ内容だった。
だが、話された内容の一つ一つは、理由がある。それは理解できた。
それでも俺たちの部隊に一人でもいてくれたら。
あの時、死なないで済んだ命があったのではないか。
どうしても、そう思ってしまった。
彼女にもその考えはきっと伝わっていただろうに、何も言わないでくれた。
(妙な、女だ……)
俺の妻になりたいと言って真っ向から目を合わせてきた女。
俺に対して好意があるようで、話を聞けばどうやら以前うちの部隊に救われた経験があるようだ。
同じような経緯でうちの部隊に志願した兵士もいたから、それ自体は珍しい話じゃない。
だが、彼女の場合はなんていうか……あまりにも、真っ直ぐな好意すぎて、俺はどうしたらいいのかわからない。
(愛さないと宣言までしたのに、どうして落胆の色一つ見せないんだ? それなのにあんな……全身で、好意を示すくせに)
幸か不幸か、俺はそれなりの容姿を持っていた。
だから働き出した中で同じ孤児院にいた女や、商売女、それ以外にも声をかけてくる連中はそれなりにいたから寄せられる好意というものは、理解できているつもりだ。
彼女の目は、どこまでも俺を大切に思う……そんな眼差しだ。
憧れと、尊敬以外にも存在する甘さがそこには滲んでいて、俺はそれを直視できない。
俺を癒すと言って触れてきた彼女の手は、聖女という立場なのに指先があかぎれていて爪もそのまま。
……働く者の、手だった。
それが俺の妻なのだと、そう思うと何故か胸が騒いだが。
俺は誰かを愛さない。
そう、心に決めている。
だけど、そう。
結婚はしたのだから、彼女の手のあかぎれが痛そうだったから。
(……手荒れに効くクリームってやつが、売ってたな)
これはただの、同居人への思いやりだ。
そう俺は誰にともなく言い訳をして以前部下から聞いたそのクリームを扱う店へと足を向けるのだった。




