副会長 戸高慎也の独白
お久しぶりです。
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(副会長side)
俺は欲望に忠実な方だと思う。
人の三大欲求は食欲、睡眠欲、性欲と言うけれど俺は萌え、何より萌え。
霞桜学園中等部に入学するのを決めたのも、ひとえにそれの為だった。
だって霞桜学園の特徴が、それまでインターネットや小説でしか読めなかった王道学園と一致してたんだもん!
だから俺は霞桜学園中等部に入学…そして更に、まさかの王道生徒会役員と同じような生徒が居た。
間宮裕貴、大塚尚輝、樋口空と海。
大塚は入学当初は身体が大きい地味な奴だったけど、成長期を迎えてから男前になった。
間宮と樋口たちはそれほど変わっていないから、この四人を見付けて俺は心躍った。
これで王道転入生が来たら、王道ラブが見れる! と。
でも、そこで問題発生。
副会長になるべく潔癖王子がこの学園に居なかったんだ。
副会長なんて王道転入生を迎えに行って真っ先に転入生にオちて、他の役員の転入生への興味を煽るっていう重要な役割を担っているのに。
俺は悩んだ、入学式からずっと探し回った。
だけどその結果、霞桜学園には副会長ポジの人間が居ないことが分かった。
ここでどうしよう、と悩んだのは一瞬。
俺は自分が副会長ポジになることに決めた。
幸い顔立ちもそこそこだったし、笑顔の練習しておけばなんとかなった。
そして俺たちは高等部になって、ようやく王道生徒会となった。
転入生を待っていたのは本当だけど、俺は間宮たちやそこに加わる風紀委員長の山下と過ごす時間が楽しかったのも本当だ。
生徒会と風紀の仲が悪いってのは王道のはずなのに、霞桜のこの二つの組織は協力していた。
樋口兄弟の悪戯に山下や俺が巻き込まれて、間宮はそれを見て煽ったりして。
俺はそれを副会長として背後にブリザードを吹雪かせながら窘めたりしていた。
友人のように、日々を過ごしていた。
俺たちが高校二年生の五月、転入生の情報が生徒会に入った。
あぁ、ようやく来たかと俺は思った。
元々はこれが目的だったんだから、やっぱり俺の心は躍ったよ。
そして迎えに行って一言目、井川優馬の台詞は想像通り、『お前の笑顔、気持ち悪い!!』だった。
あ、こいつ王道は王道でも、非王道、アンチの方だと気付いた。
まぁそれはそれで良いかと、続行することにした。
それから俺は優馬に惚れたフリをして生徒会役員の興味を煽った。
これで行くなら、間宮が優馬にキスするなりして一気に学園が混乱するはずだったんだ。
でも、そうはならなかった。
間宮は最初から、優馬にそういう性的な意味の興味が一切なかった。
そりゃ確かにここは小説とかじゃなくて現実なんだから、そういうことも想定内だったけど。
間宮のその興味の無さには、"興味が他へと向かっている"からだという感じがした。
結局優馬の取り巻きになったのは、大塚と樋口兄弟と俺。
間宮には生徒会の仕事を全て押し付けることになってしまった。
言い訳をさせてもらうなら、俺はそのことに対して人並みの罪悪感があった。
だから優馬が間宮に好意を抱いていると知った時、萌えを押しのけて優馬の間宮への興味を削ごうと思ったんだ。
だから俺は、『間宮はセフレと遊んでいる』と優馬に嘯いた。
優馬はそれで間宮に幻滅すると思ったんだ。
なのに優馬は決して間宮を諦めようとはせず、むしろセフレなんて止めて俺をなんて言い出す始末。
俺の落ち度だった。
甘く見ていた、井川優馬という男を。
現実は小説より奇なり、なんて言うけれど、本当にそうだ。
優馬の間宮への感情は、お綺麗なものじゃなかった。
それがどういうものなのか、どうしてそんな感情を抱いたのか知らない、分からない。
だけどそんな感情を抱いているからこそ、間宮がセフレと遊んでいようが関係なかったんだ。
俺が優馬を止める為に嘯いたそれは、優馬が声を大にして言うことによって学園中に広まった。
救いだったのは誰も間宮がセフレと遊んでいるなんて信じなかったことだろうか。
本当に、申し訳ないと、一人になって素に戻った時、心底悔いた。
それからは酷かった。
優馬は俺たちの親衛隊と争う日々だし、樋口たちと大塚も牽制し合うし。
まぁ、酷いってのは一般論であって腐男子の俺の視点から言うと萌えてたんだけどね。
でも、何だろう、どこか違うとは感じていた。
だって、大塚も樋口も、優馬のことが好きじゃない。
親衛隊たちは俺たちが優馬に惚れたから取り巻いているんだと思っていただろう。
でも近くで、ある意味第三者として観察していて俺はある日気付いたんだ。
大塚も樋口もどこか歪んでるなって。
でもそれが分かった所で、副会長の俺にはどうしようもない。
どこで間違ったんだろうと、小説の中のキラキラきゅんきゅんするような光景を思い浮かべながら、歪んだ光景を眺めてた。
でも、俺の中で、否、霞桜学園に関わる人間の中で、革命が起こった。
それが、あの、食堂での出会い。
鮮烈な赤、噂に違わぬ鋭い眼光。
神山司が、間宮の隣に立っていた。
神山司のテリトリーと言われる屋上をカップルウォッチングの為に使わせてもらってたから、何だか不思議な気持ちだった。
優馬は真っ先に間宮の名前を呼んでそちらに向かった。
神山の『何だコイツ』みたいな表情に、まさか優馬のことを知らない人間がこの学園に居たのかと愕然としたのを覚えてる。
そして同時に、どうして間宮の隣に居るのだろうとも疑問に思った。
生徒会長と最恐不良、どう見ても接点はないだろうに。
でも、だけど。
間宮の神山への態度を見て、俺は目を見開いた。
もしかして、間宮は神山のことが好きなのか、と。
伊達に恋愛を観察してきてない俺の目に、間宮の神山への想いが見えたんだ。
どうしてだとか、いつの間にフラグ立ってたんだとかそんなことはどうでも良い。
もしそうなら、今度こそどうにかしなければ。
そう思って、優馬には『彼は危険だ』と口にした。
神山が暴力的な面で危険だと分かれば、好んで近付きはしないだろう。
そして神山が近くに居る間宮にも近付かなくなるかもしれない、と。
なのに、またアンチ王道っぷりが発揮された。
本当に上手く行かない。
内心頭を抱えながら優馬の好き勝手な言動を見聞きしていると、どんどん神山の機嫌が悪くなって行った。
あぁ、このままだと殴られるかもしれない、なんてどこか諦めの境地で眺めていた…ら。
神山は俺たちを見て、こう言った。
『──人の話や噂だけでしか人を判断しない野郎どもは黙ってろ』
この言葉に、俺たちは、食堂に居た生徒たちは、優馬ですら、黙らされた。
神山だ、神山がこの舞台でのキーパーソンだと確信した。
それから俺はずっとずっと、優馬を取り巻き裏で密かに動いていた。
動いていたと言ってもそう大したことじゃないけど。
ただ、大塚や樋口たちが歪み切って壊れてしまわないようにギリギリでフォローしてただけ。
俺は神山に頼るしかなかった。
俺が副会長になんかならなければ、こうはならなかったかもしれない。
俺にとって萌えは大切だ、だけどそれ以上に仲間が大切なんだ。
キラキラキュンキュン出来ない萌えなんて、ただ萎えるだけじゃないか。
そして時間が経って。
大塚が、居なくなった。
優馬との結裂、いつか来ると思っていた。
大塚は本当に危うい子だから、心配だった。
どうなっただろう、独りになってはいないだろうか。
俺に出来ることは、大塚が自分から離れて行ったと優馬に気付かせないように、優馬を甘やかすことだけだった。
そして数日後に見たのは、生徒会の仕事をしている大塚の姿。
その傍には、間宮と、神山。
その時の安堵といったら…言葉に出来ない。
大塚から一身に信頼と友情と絆を受けている神山を見て、やっぱり神山がどうにかしてくれたと。
危うかった大塚に『芯』が見えて、救われたんだと。
それから俺は更に動くようになった。
樋口兄弟の溝が、深まっていたから。
大塚が居なくなったことにようやく気付いた優馬が向かったのは、生徒会室。
どうやらひと悶着あったらしい。
兄の空は沈み込み、弟の海は優馬より他の目的を持って動き出した。
密かに海を見張っていたら、聞こえて来たのは神山排除を頼む声。
相手は樋口たちの親衛隊隊長だった。
親衛隊が神山排除に動いたら、大変なことになる。
神山が襲われて勝ったとしても風紀の問題になるし、負けたとしたら…神山自身傷付くし、何より。
神山を大切に想っている間宮が、どういう行動に移るか分からない。
間宮は俺様だけどどこかお人好しで、大抵のことは気にしない。
だけど、神山に何かあった時はきっとそのお気楽さは発揮されないだろう。
そういう確信めいたものがあった。
俺の素をバラしてでも間宮に助けを仰いだ方が良いだろうかと考えた。
だけど…神山が木の上から降りてきた時に杞憂だったと分かった。
本人の居る前で話されていた排除計画なんて絶対に成功しない。
俺はそのままその足で生徒会室に向かった。
生徒会室には、間宮と大塚、そして空が居た。
俺が空に、弟が不良に絡まれてると教えてやると空は血相を変えて走り去った。
あぁ、これで終わるかなと安心した。
俺も生徒会室から出ようとすると、間宮から呼び止められた。
『お前は本当に、井川のことが好きなのか』
嬉しかったんだよ、俺は。
そんなことを訊くってことは、俺を見て疑問に思ったってことだろ?
ちゃんと間宮は、まだ俺のことを見ていてくれた。
俺は、優馬に気持ち悪いと言われた笑みを浮かべた。
好きだよ、だって小説でしか見られなかった経験をさせてもらえたんだから。
確かに少し違うこともあったけど、それも当たり前。
いろいろ大変なこともあったし、これからも大変だろう。
だけどそれら全てが辛かったかと言えばそうじゃない。
ちゃんと萌えさせてもらえる所もあったし、腐男子が副会長を演じるとどうなるかっていうことも学べた。
それに、王道転入生を待たなければ俺は副会長として間宮たちに出会うことはなかった。
王道転入生、優馬はアンチの方だったけど、見た瞬間今までのことが思い浮かんだんだ。
だから俺は間宮に、こう答えた。
『──好きですよ。あの子が私の目の前に現れた瞬間、心が躍ったくらいに』
霞桜学園生徒会副会長としての俺を作ってくれたのは、転入生という存在。
だからこそ、俺は心底優馬を嫌いになれないし、腐男子としてやっぱり優馬が好きなんだよ。
大塚や樋口たちもそうなんじゃないのかな。
だって、神山という支えが出来た今冷静に優馬のことを見れるはず。
そうして見えたのは、嫌悪や憎悪だけじゃなく、きっと他にもあるはずだ。
大塚も樋口も、神山に救われた。
感謝したかった、ありがとうと言いたかった。
でもそれは出来ない。
だってここまで大ごとにしてしまったのは、俺のせいなんだから。
だから俺は副会長として決して神山に"救われてはならない"。
…そう思っていた時期が俺にもありました。
だって!! 屋上で!! 神山が『食われる』なんて呟くもんだから!!
とうとう間宮が神山に手を出したのかと思って!!
声を掛けずにはいられなかったんだ!!
変装もしてたし大丈夫だと思っていた面もあった、それは認める。
でもまさか最初からバレてたとは思わないよね!!
それから芋づる式に全部バレた、というかバラした。
結果、俺も救われてしまった。
俺自身としても、副会長としても。
一緒に生徒会室に行ってやるなんて言葉ももらえた。
『誰にでも隠したいことはある。その時支えてくれる誰かがいれば楽だろ』
あぁ、カッコいいな神山。
さっきは四分の一本気で好きだとか言ったけど、嘘だったわ。
惚れるなよ、なんてそんなこと言うなよ。
生徒会長とイイカンジの不良を好きになる腐男子なんて、それだけで小説一本書けそうじゃん。
屋上から出て直近のトイレに入って、副会長の姿を作る。
鏡の前で整えていた髪に触れて、やっぱ綺麗だななんて何てことない風に言う神山が恨めしい。
副会長を演じる為の努力は惜しみませーん、と軽く言うと、ばぁかなんて少し笑みを浮かべて言ってくる。
何か性欲通り越して、神山に尽くしたくなってきた。
この調子で間宮や大塚たちをタラしていったのか…神山、恐ろしい子…っ!
そして生徒会室前、到着すると俺は背筋を伸ばして扉を叩いた。
霞桜学園高等部生徒会副会長、戸高慎也。
決して毅然とした態度を崩してはならない。
俺には俺の、プライドがある。
後ろには神山が付き添ってくれていて、この上ない安心感。
入れと声が聞こえて、俺は扉を開いた。
中には大塚と樋口兄弟、間宮、そして何か話があったのか、風紀委員長の山下まで居た。
わお、勢ぞろい。
そんな軽い思考で誤魔化そうとしても、足の竦みは誤魔化せなかった。
変な間が出来てしまって、踏み出せない、どうしよう、失敗した。
すると、後ろから背中を軽く押された。
「早く入れっつの」
「神山?」
俺の後ろから姿を現した神山の姿に、中の五人が目を瞬かせる。
一瞬五人の視界から俺が外れて余裕が生まれた。
ナイスアシスト、神山。
俺は一歩踏み出して、頭を下げる。
さらりと、副会長を演じると決めてからずっと手入れをしてきた髪が落ちる。
「申し訳ありませんでした」
まず、一言目。
声は震えていなかっただろうか、そんなことすら分からないほど緊張してる。
だけどこれだけじゃ、俺の罪は償えない。
「まず今まで生徒会役員としての役割を放棄していたこと。また、その仕事を請け負ってくださっていた間宮を貶めるようなことを言ったこと」
セフレと遊んだ云々は貶める意図はなかったけど、結局そうなったんだから言い訳せずに謝るべきだろう。
「大塚や空、海と共に居ながら優馬とのいざこざを止めることが出来なかったこと。優馬の暴走を止められず風紀にも迷惑を掛けたこと」
こうして挙げて行けばキリがない。
それだけのことを、俺はした。
俺が顔を上げると、皆俺を真っ直ぐに見つめていた。
「それ以外にも、沢山。今更何をと思われるかもしれません。大塚や空たちが役員に戻ったから怖くなったのかと思われるかもしれません」
「……」
「ですが、私は貴方たちに謝らなければならない。私は私の欲望のままに動いた、それが現状へと繋がってしまった」
欲望、つまり腐男子の部分は伏せて副会長として謝罪する。
「私は、貴方たちに明かせないことがまだ多くある。その上で、謝罪を受け入れてほしいなんて虫の良いことを言っている自覚はあります」
「……」
「受け入れてくださらなくても良い。これは私の自己満足です。伝えたいという、私の願いです」
──本当に、申し訳ありませんでした。
再び頭を下げる。
俺は俺の考えがあって動いてきた。
でも第三者からしたら、俺は生徒会の仕事をサボって自由気ままに過ごしてきた最低の人間だ。
そんな人間から突然謝られて、受け入れろ、仕事をさせてくれなんて言えない。
皆の優しさに付け込んではいけない。
大塚や樋口たちは自分の問題があったらしいけど、俺は完全に自分の欲求を目指してその結果失敗した。
そこには歴然とした差がある。
黙ったままの皆に、俺は静かに告げた。
「私は、副会長としてリコールされることも受け入れます」
そう言って、息を呑んだのは誰だったのだろうか。
樋口たちか、大塚か。
まぁ、誰にせよ間宮に決断を任せよう。
そう思って頭を下げ続けていると。
「おいこら戸高テメェ」
「え…あいたっ!」
どすっ、とお尻を蹴られて床に手を付く。
ちょっと、何でイキナリ蹴ってくんのさ神山!!
そう言おうと思って尻餅をついたまま神山を見上げると、神山が極悪な表情をしていた。
…何かめっちゃ怒ってる?
「今お前、なんつった?」
「今…?」
「副会長としてリコールされることも受け入れるっつったよな」
「言いましたけど…」
責任とるなら、リコールっていう選択を与えていないと間宮たちがツライでしょ。
すると神山はしゃがみ込んで苛立ちを隠さずに言う。
「俺は、お前が副会長として生徒会に戻るから付いて来てやったんだ。リコール? ふざけてんのか」
「だ、って、私はそれほどのことを…」
「逃げてんじゃねぇぞ、テメェ」
逃げる?
「私は副会長を辞することで責任を…」
「お前、副会長なんて役職一つ失っただけで、自分の罪が消えるとでも思ってんのか? あ?」
「なん…」
「たかが学校の役職と間宮や山下、他の奴らの苦労が釣り合うと? …嘗めてんじゃねぇぞ」
たかが学校の役職? 神山こそ分かってない。
霞桜学園の生徒会役員という立場がどれほどのものなのか…。
そこまで考えて、俺は止まった。
どれほどのもの、なのか…? そう言えば、どれほどのものなんだ?
この学校ではかなり上で、重要な役職だ。
でも神山が言っているのはもっと広義的な意味だ。
「大塚や空、海に関しては蒸し返すつもりはねぇ。あいつらはちゃんと自分のやるべきことをやり始めてる」
「かみ、やま…」
「だがテメェらも含めて知っておくべきだ。間宮がどれ程、お前らを待っていたのかを。風紀として再三リコールを促していた山下の言葉に首を振って、お前らを信じて待っていた間宮の姿を」
俺と大塚たちは目を見開いて間宮を見た。
間宮はどこか複雑そうな表情を浮かべている。
まさか…間宮が俺らを待っていた?
「お前らを迎えても文句が出ないように以前と変わらないよう生徒会を回していた間宮の努力を」
「…おい」
「知っても尚、リコールなんてふざけたことを宣うつもりか? 間宮の努力は、想いはどうなる?」
「…おい、神山」
「確かに俺は間宮と行動を共にし始めたのは最近だ。でもその短い期間ですら俺はこれだけのことを知ってる。多分間宮は俺の言った以上にお前らを待っていたはずだ」
「神山」
「それを無に帰すことをするのか? 役職を失うことで責任をとる? ふざけんな。副会長っつー責任から、逃れようとしてんじゃ…」
「かーみーやーまー。…そこまでで良い」
ぽすん、と。
間宮が神山の赤い髪を撫でた。
その瞬間神山は間宮を見上げて、俺を見て、口を閉ざした。
間宮は眉を下げて、でもどこか嬉しそうな表情を浮かべて俺と向き合う。
「お前の言いたいことは分かった。言えないことがあるのもな。それについては言及するつもりはねぇよ」
「間宮…」
「それで、リコールだったか? お前はどうしてぇんだ」
「え…?」
「リコールを受け入れると言ったな。じゃあ、俺たちがリコールを下さなかったら、お前はどうしたい。ハッキリ言ってみろ」
その言葉に俺は唇を震わせた。
なんだよなんだよ、それ、間宮は俺をリコールするつもりないみたいに聞こえるじゃんか。
お人好し、お人好しだよ本当に、俺様のクセにお人好し?
どんだけ萌えさせるつもりだこの野郎。
ぽろり、と目から雫が零れ落ちる。
ここには、間宮と大塚、空と海、山下っていう以前と変わらないメンバーが居て。
そこに最恐不良なんて言われてるクセに俺たちのことを想ってちゃんと叱ってくれる神山も居て。
俺がどうしたいかなんて、決まってんじゃん。
「副会長に、もどり、たいです…っ!!」
「そうか、ならしっかり仕事するんだな」
馬車馬の如く働きやがれ、なんて言ってくる間宮に俺はもう駄目だった。
副会長として泣いてんのか俺として泣いてんのか分からないくらいに涙が出て来て。
怒って悪かった、なんて手を差し出して俺を立ち上がらせてくれた神山に思わず抱き付いた。
戸惑ったような雰囲気だったけど、神山は何を言わずに俺に胸を貸してくれて頭を撫でてくれた。
俺は怖かった、間宮達にこれ以上嫌われるのが。
だからこそ俺は、副会長を辞めようと思ったんだ。
そう、神山の言う通り逃げようとしてた。
でも俺が思う以上に間宮はお人好しで。
これくらいの間違い大したことじゃない、と言うように俺を受け入れる。
ここに戻って来たかった、戻って来れて良かった。
ごめん、ごめん、まだ謝り足りない。
だけど涙が止まったらまず言わなきゃいけないことがある。
──ありがとうございます。
皆とまた一緒に居ることが出来て、嬉しい。
これから尽くそう、俺の全てで。
だから一緒に頑張ろうね。
想像以上に優しい手に慰められながら、俺は微かに笑みを浮かべた。




