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双子の兄弟

(書記弟side)



目の前に居るのは坂木と寒川──僕と空の親衛隊隊長。

空に害ある存在を排除しようとしても、相手が神山司なら僕じゃ到底敵わないのは分かってる。

だから一人で動くなんて無謀なことはせず、使えるものを呼び出した。

勿論隣に空は居ない、こんなのは空に似合わないもん。

坂木と寒川は二人して顔を見合わせて坂木が頭を掻いた。



「えっと…神山司って、あの神山司?」

「そーだよ、あの不良の神山司っ」

「何でまたンな狙いにくい奴を…」

「ってか、空様は? 俺、空様も居ると思ってたんだけど」



渋い顔で何かを呟いた坂木に被せて、寒川がキョロキョロと辺りを見回す。

寒川は空の親衛隊隊長だから気になるのは分かるけどねー。



「空にはナイショ。だぁって空、神山司にイジメられてるんだよっ」

「なに…?」

「だから神山司を排除しろってことか?」



そのとーり、と僕は頷いた。

寒川は目を細めて何かを考え込み、坂木はふむ、と顎に手を当てる。

神山司を見てあんなに真っ青になってた空。

僕と空はほとんど一緒に居るけど、時々単独行動をする。

僕がナオっちのことを調べたり、優馬を陥れるために動いた時みたいに。

僕が空と一緒に居た時、神山司に会ったのは食堂だけ。

と言うことは、その単独行動で神山司に虐められたに違いない。

生徒会室で鉢合わせてからずっと暗い顔してるんだよ。

僕の世界の空を翳させるなんて許せないなぁ、神山司。

親衛隊の規模は会長が群を抜いて大きいけど、僕と空の二つの親衛隊を合わせれば結構な規模になる。

質より数、それだけの人数を相手にするのは霞桜最恐不良でも流石に骨が折れるでしょ。

そう考えて二人の親衛隊隊長を呼んだのに。



「俺は…俺らの隊は様子見する」

「…え?」

「空様からの命令がないなら、樋口空親衛隊は動かない」

「な…なんで!? 空が虐められてるんだよっ!!」



寒川が僕の言葉に否を告げた。

空が虐められてるのに、様子見なんて生ぬるいでしょ!?

すると寒川は複雑な表情で頭を掻いた。



「つぅかそもそも、虐めって具体的に何されたんだ?」

「空、神山司を見て真っ青になったんだよ、見たことないくらいにっ!!」

「ぶっちゃけ、この学園の奴らならだいたいそうじゃね?」

「坂木、お前まで…っ」



僕の親衛隊隊長まで良い言葉を返さない。

僕が眉を吊り上げて坂木を睨むと、少し焦ったように手を振った。



「勘違いするな、オレたちは動くつもりはある。海様の親衛隊だしな」

「じゃあ何で神山司を庇うようなこと言うのっ」

「それは…なぁ?」

「…な?」



寒川と坂木が気まずそうに顔を見合わせた。

それは神山司が怖いからとかそういう理由じゃないのは見て分かる。

なんで、なんで、空が困ってるのに。



「僕らが困ってるんだから何とかしてよっ!!」



僕が叫ぶと二人は目を瞬かせて僕を見た。

だって、相手は神山司だよ、黒い噂がいっぱいで、食堂で僕らに怒った最恐不良だよ。

何かあってからじゃ遅いんだよ、僕だけじゃどうにも出来ないんだよ。

何とかしてよ、どうにかしてよ、空がこれ以上傷付く前に!!



「…お前らさぁ、場所くらい考えようぜ?」



突然。

第三者の声がそこに響いた。

僕たちはビクリとして辺りを見回す。

すると、すたっと木の上から現れたのは、今まさに排除計画を立てていた人物。



「か、神山司…っ!!」

「神山君…あんたいつから…」

「最初から」

「最初から!?」

「何か集まり出したと思ったら不穏な計画立て始めるし…ここがどこか分かってやってたのか?」



ここ、そう言われて僕はハッと気付いた。

僕が坂木と寒川を呼び出したのは、裏庭──神山司のテリトリーと言われている場所の一つ。

しまった、何で僕そんな重要なこと忘れてたんだろ…っ。

本人の前で排除を持ちかけるなんておバカにもほどがあるよ…っ。

神山司は、はぁと溜息を吐いて赤い髪をわしゃりと掻いた。



「大塚に始まりお前らまで…裏庭エンカウント率高ぇな。暫くサボる場所変えるか…」

「会計様?」

「やっぱり神山君が…」



ナオっちの名前を聞いた坂木と寒川が何か思い当たったような表情になった。

どういうこと、どうして他の生徒みたいに怖がらないのこいつら。

ところで、と寒川が神山司を真っ直ぐに見た。



「話聞いてたなら分かると思うけど、空様虐めたってのは本当か? 本当なら俺らは動くけど」

「虐めてねぇよ。ただ…ちょっと、いろいろあっただけだ」

「っ、いろいろって何だよっ! 空はお前のせいで最近じゃ笑わなくなったのにっ」



ぼかした言い方をする神山司にカッと頭に血が上った。

虐めてないなんて嘘に決まってる、だってそうじゃなきゃ空があんなに…っ。

神山司はスッと僕に目線を向けてきて、思わず肩を震わせた。



「あいつが言ったのか? 『神山に虐められたからどうにかして』って」

「い、言われてないけど…っ」

「じゃあ、お前に関係ないだろ」

「ッ関係ないわけない!!」

「う、海様!!」



僕は神山司の胸ぐらを掴む。

焦る隊長たちの姿が目の端に入るけど、そんなことはどうでも良かった。

関係ない、関係ないって言った?

関係ないなんてどの口が言うんだ、どうしてそんなこと言うの。



「僕と空は双子の兄弟で、ずっと一緒に生きて来た。空の憂いを払うのは僕の役目なんだよ…っ」

「…あいつの考えも聞かずにか?」

「空の考えなんて言葉にしなくても分かるよ。空の今の悩みはお前だって」

「あいつの悩みが俺だとしても、どうにかしてほしいなんて思ってねぇかもしれねぇだろ」



どうにかしてほしいに決まってる。

だって普通そうでしょ、悩みの種なんて排除するに越したことはない。

そう返そうとしたけど、続けられた言葉に目の前が赤く染まった。



「どこまで行ってもお前とあいつは別の人間なんだから、お前にはどうにも出来ねぇよ」



ガッ、と。

裏庭に鈍い音と、海様と叫ばれる声が響いて。

痛む右手と、荒い息。

目の前には、頬を殴られた神山司が居た。



「海様、何やってんだ!!」

「殴るなんて…っ!」

「空は!!」



僕は二人の言葉を遮って目の前の神山司に叫ぶ。



「空は、僕の世界だ!! 何も知らないくせに!! 誰も分からないくせに!! 僕の世界を守って何が悪いんだよっ!!」



はぁ、はぁ、はぁ、と荒い息を繰り返す。

空が居なくなったら僕はどうなるの。

そんなの知らない、分からない。

ただそこにあるのは、怖いという感情だけ。

空だけなんだ、空だけしか要らない──居ない。

僕は、僕は。

突然、ぐいっと胸ぐらを掴まれて足が少し浮く。

目の前には静かな目をした神山司がいた。



「か、神山君!!」

「ごめん、本当にごめん!! 謝るから海様だけは…!」

「うっせぇ、お前らがンな風に甘やかすからここまで拗れたんだろうが」



僕が乱暴されそうだと二人は必死に謝ったけど、神山司に鋭い眼光で一瞥されてひゅっと息を詰まらせた。

再び僕の方を見た神山司の頬は少しだけ赤くなっていた。



「自分の世界を守る、それは分かる。頭で考える前に感情が先行して止められないっつーのも知ってる。でもな、…だからこそ」

「ぐ…っ」

「自分のしたことには自分を賭けてでも最後まで責任持ちやがれ!!」



ごぉんっ、と僕と神山司の額がぶつかり合って鈍く大きい音が鳴ると共に激しい痛みが走る。

どしゃりと尻餅をついた僕は、頬と額を赤くして立つ神山司を見上げた。

その瞳が何故かゆらゆらと揺らめいている。

頭突きなんて初めてされた僕は額を押さえながらそれを呆然と眺めた。

どうしてそんな、泣きそうな目をしてるの。

僕の方が泣きたいのに、どうして。



「もしお前が自分でなり親衛隊なりを使って俺を排除したとして。それを知ったらあいつはどう思う、あいつとお前はどうなる」

「どう、って…」

「絶対に、今まで通りには過ごせねぇ」

「!!」



神山司は膝を曲げて目を見開く僕と目線を合わせた。



「それともあいつは、お前のことを大切に思ってないのか? お前が手を汚しても、何も思わないような奴なのか」

「空は…そんな人間じゃ…ないよ」

「だろうな。お前がそれでも一緒に居たいと思ってんだったら、あいつの行動はただ一つ。…お前に手を汚させたことを悔やんで、泣く」



はらはらと、涙を流す空の姿が頭に浮かんだ。

ごめんねと謝りながら、辛そうに、それでも無理に笑おうとする、空の姿が。

神山司の僕より大きくて骨ばった手が、優しく僕の頭に乗せられた。



「自分がその世界を壊すなんざ笑いものにもなんねぇぞ。守りたいなら…そいつの声を、言葉を、願いを聞いて」

「…ぅ…ひっく…っ」

「その想いに添い遂げるように行動しろ」



そうしたらきっと、一緒に居られる、と。

諭すような声が僕の頭の中に浸透する。

本当は、分かってたんだ。

僕が空のために一人で行動する度に、どこか遠くに行っている気がして。

僕の隠し事がどんどん増えていく度に、僕は独りになっている気がして。

ぽろぽろと落ちる雫を必死に拭いながら唇を噛み締める。

でももう遅い、僕は今回以外にもいろいろとやってきたんだから。

空、空、お願い。

僕を独りにしないでよ。



「──海ッ!!」



その瞬間聞こえて来た声と、僕と神山司の間に割り込んだ僕を守るかのような背中に。

あぁ、確かに空は僕のお兄ちゃんなんだなと。

再びぽろりと涙が零れた。

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