双子弟の敵意
(書記弟side)
僕と空は瓜二つな双子。
僕が弟で空が兄だけどそんなのは些末なことで。
ずっとずっと一緒に生きてきた。
母さんも父さんも家族の誰もが僕らを未だに間違える。
だから当然学校の人たちなんか僕らを間違えるのは当然で。
僕と空は何をするにも一緒、ずっとずっと一緒。
一つの動作も言葉も今では息をするように同じになれる。
幼い頃は空と同じっていうのがとっても誇らしくて。
間違えられるのなんてその証みたいで嬉しくて。
でもね、ある日気付いちゃったんだよね。
樋口兄弟でも双子でもない、『樋口海』個人が分かる人なんて居ないことに。
そしてそれと同時にもう一つ気付いた。
決して居ないわけじゃなく、僕ともう一人。
空は『樋口海』が分かるって。
空しか僕のこと分かんないんだって。
今考えればそれは当たり前なんだけど、その時の衝撃と言ったら。
それから空は僕にとって至上の存在になった。
空、空、僕の兄で僕の片割れ。
気付いているかな知っているかな、僕がこんな風に空を想っていることを。
僕の世界には空だけ居れば良いんだよ。
そう思っていた矢先、僕の世界に割り込んできた存在──井川優馬、季節外れの転校生。
迎えに行った副会長が生徒会室に戻ってきたら、いつもの王子スマイルはどうしたのと訊きたくなるくらいデレデレした顔で戻ってきた。
僕と空は面白い匂いを嗅ぎ付けて、仕事を抱えた会長を置いて四人で食堂に行った。
するとそこにはもっじゃもじゃなマリモみたいな奴がいて、副会長ってゲテモノ好きなんだなと新たな発見。
そして僕らは誰にもクリアされたことのない双子見分けゲームを自己紹介と一緒にした。
そうしたら優馬は、何故か当ててきて。
喋ってみれば家のことなんか気にせず天真爛漫な笑みで僕らに接してきた。
もしかしたら空は、二人だけの世界に突如現れた太陽みたいに感じたのかもしれない。
でも僕は、その時どう思ったか。
──僕の世界が、乱された。
僕の世界は空と海、たった二つあれば良い。
これまで、どこまでも広がる空と海で形成されていた僕の世界。
そこに太陽なんて、いらないんだよ。
空に浮かぶ太陽なんて、邪魔で邪魔で邪魔で…憎らしい。
空が至上の存在、地に広がる海は天に広がる空を焦がれながら満たされる。
なのにそこに太陽なんかが浮かんだら、空自身の美しさが邪魔される。
だから僕は優馬を排除しようと思った。
空に決して気付かれないように。
僕は優馬を気に入った振りをして、会長を、副会長を、ナオっちを掻き乱して、親衛隊を煽っていった。
予想通り親衛隊の下っ端は優馬に制裁をしようとしたらしい。
でも悉く失敗して今も優馬は空の隣で笑ってる。
何でだろう、そんなのおかしい。
いろいろと画策して失敗続きの中、新しく渦中に入ってきた赤髪。
霞桜学園の最恐不良と言われる神山司。
何がきっかけで会長と一緒に居るようになったのか知らないけど、これは使えると思った。
アイツが優馬を殴りでもすれば、きっと全生徒の抑圧していたモノが解き放たれる。
だから煽った、食堂で。
なのにアイツは、僕らを説教しただけだった。
期待外れも甚だしい。
白けた思いで横を見ると、何故だか少しホッとした表情の空が気になった。
それからも優馬と一緒に居つつ策が尽き掛けてきた頃、トイレから戻ってきた空の様子が変だった。
その時は生徒会室にナオっちを除く役員と優馬が居たから訊かなかったけど、その後然り気無く探りを入れるとナオっちのことが気になっているようで。
今更どうしてとは思ったけど、空の憂いは排除してやりたかったから僕は調べてみた。
するとびっくりしたことに、ナオっちは自分の親衛隊と仲良くなったらしい。
あのナオっちが、だよ。
優馬はナオっちを自ら切り捨てたけど、親衛隊が嫌いなことを踏まえれば充分掻き乱す要素になり得ると考えた。
だから副会長の部屋で煽ってみれば予想通り優馬はナオっちを取り戻そうと生徒会室に行った。
すると中に居たのは会長とナオっちと優馬。
ナオっち、会計に戻ったんだ。
会長に、許されたんだ。
そんなことが頭をよぎったけど今は優馬だ。
優馬は見たことがないくらいの素っ気ない会長に、わんわん喚いてた。
会長ってばお人好しだからここまで邪険にしたことなかったのにどうしたんだろう。
そんな時、不意に後ろの扉が開いた。
そして入ってきた人物に僕も空も目を見開いた。
そりゃ、神山司が入ってくれば誰でも驚く。
何がどうなってるのか分からないけど、優馬は神山司の言葉で明らかに動揺した。
ずっとずっと大声で自分の正義しか喚かなかった優馬が。
逃げるように出ていった優馬を放って目の前の三人に目を向ける。
何ていうか、普通に仲良さげだし。
するとその神山司に、追いかけなくて良いのか、海、と言われた。
いきなり呼び掛けられたからびっくりしたけど、神山司に言われる筋合いはない。
第一、片付け終わった副会長が追ってきてるはずだから、きっと優馬は副会長が保護してくれてるでしょ。
そんな言葉に返事すると、どうやら神山司は空に呼び掛けたつもりだったらしい。
なぁんだ、神山司も間違っただけじゃん。
いつものことか、と何気無く隣の空を見てぎょっとした。
有り得ないくらい、顔が真っ青だったから。
具合が悪いの? それともやっぱり神山司が怖いの?
大丈夫かと問うても反応がなく、空はただ真っ直ぐに神山司を見ていた。
そして生徒会室から出ていこうとする神山司にすがるように言葉を発した空を無視して。
仕事をしろ双子、と言って出ていった。
それを聞いた瞬間、空の顔が絶望に似た何かを称えた。
それを見て、僕は気付く。
何があったのか詳しくは分からないけど。
空の今一番の憂いはアイツだと。
「ねぇねぇあのさっ、…神山司を、排除してくれない?」
にっこりと笑う僕の前で、二人の生徒は目を見開いた。




