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 スマホを強く握りしめる私であったが、周りの音がやけに静かに聞こえた。

 何も考えないでいると、逆にそれが集中しているような感覚となり、周りの音が私の耳から消えてしまった。


 来ない。

 あれほど、楽しみにしていた彼との初めてのデートであったのに彼は来ない。

 なんと悲しいことか。


 確かに、コーヒーショップでは、隣の意識高い系大学生に対して、イライラとしていたが、それと引き換えに私の楽しみを奪うというのか。

 

 私は、目から涙が出そうになる。

 スマートフォンをカバンにしまい、一瞬両手で顔を隠す。

 こんなにも人が大勢いる場所で人目をはばからず泣くわけにはいかない。私もそれなりに良い年齢である。悲しくたって、泣くことを我慢しないといけない年頃である。


 しかし、我慢できなかったのか、瞳から涙が流れ落ちた。


 私は、右手で目元をこすった。

 『泣いてなどいない、泣いてなどいないよ』と自分を鼓舞するように心の中でつぶやいた。


 しばらくして、感情の高まりも収まり、目元に涙が溜まることは無くなった。

 

 私は、顔を覆っていた両手を膝の上に置いた。

 深呼吸をして心を落ち着かせる。そして、周りを見ると多くの人がいることに気がつく。ようやく、私の耳に音が戻ってきた。なんだか別の世界に行っていたかのような気分になった。


 私は、リラックスをするため、両手をソファーの後ろに置いて少しだけ伸びる体勢を取った。

 この体勢は中々悪く無いと思った。両足は伸びるし、両腕も伸びる。かといってそんなに恥ずかしい格好でも無い。

 『シネコンの中でのリラックス法を編み出した瞬間だ』とドキュメンタリー番組のようなナレーションが私の頭の中に流れた。

 

 私がリラックスをしていると、私の手に誰かが触れた。

 リラックスしていた私は、急に自分の体の一部を触られたため、拒絶反応を起こし、瞬時にその手が伸びてきた方向を見た。

 手を体に寄せ振り返った先にいたのは、冴えないどこにでもいそうな高校生くらいの男の子だった。

 びっくりするくらい残念なルックスで、『まだ童貞だろうな』と私は一瞬で断定した。


 私は、自分があまりにも幼稚なことを考えたため恥ずかしくなった。

 すぐに立ち上がり、スタスタとシネコンの出口に向かって歩いた。先ほどの高校生のお詫びの言葉は、聞こえないふりをして逃げた。


 出口に向かっていく際に、イケメンの若い男性とすれ違った。

 さっきの高校生とは大違いなほどにイケメンであった。ちらっとすれ違いざまに上目遣いで見た程度であったが、さきほどのセクハラ高校生とは大違いなほどの魅力的な男の子だった。しかし、年齢は高校生くらいだろう。大学生がやると子供っぽいが、高校生であればあのような格好は年相応でカッコよく見える。

 なかなかセンスが良いと、私はすれ違い様に驚嘆したのだった。


 私は、空いてしまった休日の時間をこれからどう消化しようかと考えた。

 消化するには結構な時間であり、かと行って家に帰るのも惜しい(どうせ、ベットに入って寝てしまうのだから)。


 わたしは、シネコンの階からとりあえず、エレベーターに乗って1階に行こうと思った。

 エレベーターのボタンを押して、到着を待った。

 到着を待つ間、暇であったので、各階にどのようなお店があるのかと思い、エレベーター横の案内図を眺めた。

 

 上から順に見ようと思ったので、自然と屋上の状況について書かれていた。

 この建物の屋上には、どうやらバッティングセンターがあるようだ。

 私は、少し驚く。

 なぜなら、バットがボールに当たるような音は聞こえたことがなかったし、第一屋上にネットが張ってある光景はみたことがないからである。

 いや、私はいつも屋上を見ながら歩いたりなどしていない。

 空を見ながら歩いていたら、この都会では命を危険にさらすだけである。

 横から、車が飛び出してくるかもしれない。

 前から自転車が猛スピードで駆け抜けてくるかもしれない。

 足元で酔っ払いが寝ているかもしれない。


 そういうわけで、私は屋上など見て歩いてはいないのである(だいぶ長ったらしい説明である)。


 ストレス発散でも兼ねてバッティングセンターにでも行こうと思ったのであった。

 

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