第9話:モテ期到来です
クラーク殿下のお別れ会も無事に終わり、それぞれが馬車に乗って帰宅する。
「それじゃあまた明日ね」
「ええ、また明日」
エマに挨拶をして、馬車に乗り込もうとした時だった。
「ルーナ嬢、もう日も暮れているし、万が一君が誰かに襲われたら大変だ。俺が侯爵家まで送っていこう」
1人の令息が声を掛けてくれたのだ。確かに辺りは暗くなっているが御者もいるし、王都の街を抜けて帰るので特に危険な事などない。そう思って断ろうとしたのだが…
「おい、抜け駆けは良くないぞ。ルーナ嬢、僕が送っていくよ」
「いいや、私が送っていこう」
なぜか何人もの令息が、急に喧嘩を始めてしまったのだ。どうしよう…
そんな状況に気が付いてくれたのが、エマだ。
「あなた達、ルーナが困っているわ。いくらルーナがフリーになったからって、がっつきすぎよ。ほら、ルーナ。気を付けて帰るのよ」
この令息たちは私が追い払うから、あなたは先に行きなさい。と言わんばかりに、目で合図を送ってくれるエマ。エマに目でありがとうと伝え
「それでは私はこれで失礼いたしますわ」
そう伝え、急いで馬車に乗り込んだ。
「「「あっ、ルーナ嬢」」」
令息たちの声が聞こえるが、そのまま馬車が動き出した。それにしても、一体どうしたのかしら?そう思いつつ、家路へと急いだ。
家に着くと、両親とお兄様夫婦、ロードが待っていてくれた。
「ルーナ、ずいぶん遅かったわね」
心配そうな顔で私のところにやって来たのは、お母様だ。
「ええ、実はクラーク殿下が、急遽明日国に帰る事になったのです。それで、お別れ会をやっておりましたので」
「まあ、クラーク殿下が?あなた、知っていたのですか?」
「ああ…メルソニア王国の国王陛下の体調が思わしくないみたいでな。陛下が動けるうちに、クラーク殿下に国王の座を渡すそうだ。クラーク殿下は非常に優秀なお方だから、きっとさらに良い国にしてくれるだろう。そうそう、クラーク殿下が、ルーナの事をとても気に掛けていたよ。自分に婚約者がいなければ、お嫁さんにしたいくらいだと言っていたぞ」
「まあ、クラーク殿下ったら。口がうまいのだから。そもそもクラーク殿下は、婚約者様一筋ですのよ。その事は、私が一番よく知っておりますわ」
毎日の様に婚約者の魅力を聞かされていたのだ。どう転んでも、私がクラーク殿下と結婚するなんて、あり得ない事なのだ。
「さあ、お腹が空いたでしょう。すぐに晩御飯にしましょう。今日はロイド達も一緒に食べていくそうだから。ルーナも早く着替えてきなさい」
今日は皆で食事をするのね。急いで着替えを済ませ、6人で食事をした。早速領地で採れた魚や魚介類が出た。ただ…やはり馬車で運ぶため、念のため全ての料理に火が通されている。
それでもやっぱり、領地の魚介類は美味しいわ。
食後、皆でお茶を楽しむ。するとお父様が、何やらたくさんの手紙をドスっと机の上に置いた。
「お父様、この手紙の山は何ですの?」
せっかく皆でのんびりお茶を楽しんでいたのに!
「これは、ルーナに来た婚約希望者からの手紙だ」
「それ全てですか?」
「ああ…そうだ」
あまりの量に固まってしまう。
「さすがルーナちゃんね。それにしても、どこも名の知れた貴族ばかりじゃない。あら?第二王子のアイザック殿下のもあるわよ。ルーナちゃん、モテモテね。この分じゃあ半年後、すぐに誰かと婚約を結ぶことになるのではなくって。今のうちに、品定めしておかないとね」
品定めって…
それにしても、凄い量だわ。こんなに沢山の殿方が、私に興味を持って下さっているなんて。そういえば、帰りも何人かの殿方に囲まれた。
「これってもしかして、空前のモテ期ってやつかしら…」
ポツリとそんな事を呟いてしまう。
「そうね、あなたは8歳で婚約をしたから、皆諦めていたのよ。でもこのタイミングで婚約破棄をしたから、今まで諦めていた令息たちが、一気にアプローチを開始したのね。ルーナ、あなた、これからちょっと大変かもしれないわね」
お母様がクスクスと笑っている。
「本当ですわね。ルーナちゃん、この際だから一番いい男と婚約して、エヴァン様をギャフンと言わせてあげましょう。案外今頃、エヴァン様もルーナちゃんと婚約破棄したことを後悔しているのではなくって?」
そう言ってお義姉様も笑っている。さすがにエヴァン様が私と婚約破棄したことを、後悔しているという事はないだろう。今日だって、私の方を一切見なかったし…
「とにかく、ルーナは選べる立場なのだから、じっくり吟味して決めればいいわ。家の為とか考えなくていいからね」
「そうよ、ルーナちゃんが好きな殿方を選べばいいのよ」
お母様とお義姉様がにっこり笑ってそう言ってくれた。でも…
今までこんな風に殿方に言い寄られた事なんてなかったのだ。戸惑うなという方が無理である。
でも、無残にも婚約破棄された哀れな令嬢の私と結婚したいと思ってくださる令息がこんなにいるという事は、やっぱり嬉しいものよね。




