第22話:ナタリー様に文句を言われました
その日、教室に現れる事がなかったナタリー様。きっとそのままお屋敷に帰って行ったのだろう、そう思いながら、私たちも家路に着く。
「それじゃあエマ、また明日ね」
「ええ、また明日」
エマと別れてそのまま馬車に乗り込んだのだが、なぜか動かない。どうしたのかしら?そう思っていると、御者が私の元にやって来た。
「あの…お嬢様、ヴィノーデル公爵令嬢様からお手紙を預かっておりまして…お渡ししてもいいものかと…」
「まあ、ナタリー様から?すぐに読むわ」
その場で手紙を広げ確認する。すると“放課後、校舎裏に来なさい”と、書かれていた。大変、急いでいかないと!
馬車を降り、急いで校舎裏へと向かった。すると不機嫌そうな顔のナタリー様が待っていた。
「お待たせして申し訳ございません。あの、私に何か御用でしょうか?」
「何か御用ですって!あなた、よくも私に恥をかかせてくれたわね。私はね、あなたみたいに“私はか弱くて皆に守ってもらっています”みたいな女が嫌いなのよ」
ギロリと私の睨み、唾を飛ばしながら叫ぶナタリー様。目は血走り、怒りからか青筋が立っている。
「あの…申し訳ございません。私は別にそう言うつもりでは…」
「何がそう言うつもりではないよ!本当に見ているだけで虫唾が走るわ。今日はいつも助けてくれる口うるさい女がいないものね。あの女、本当に鬱陶しいわ。お父様に頼んで、消してもらおうかしら?」
「エマは私の為に色々と動いてくれているだけです!どうかエマに酷い事をしないで下さい」
「何?あなた侯爵令嬢の分際で、公爵令嬢で次期王妃の私に立てつくつもり?本当にムカつく女ね。自分の身分をわきまえなさいよ!まあいいわ、あの女には私も興味がないのよ。とにかくあなたが私の視界から消えてくれたらいいの。ちょっとモテるからって、本当にいい気にならないでくれる?私、あなたの様な男に色目を使う女、腹が立って仕方がないのよ!」
「そんな…私は別に色目など…」
「色目を使っていないですって?ならどうして誰よりも美しい私より、あなたが令息たちにチヤホヤされているのよ!目障りなのよ!」
そんな事を言われても、私が令息たちに何かしている訳ではないので、どうしようもないのだ。どうしていいか分からず、気が付くと涙が溢れ出ていた。
「都合が悪くなるとビービー泣くところ、大嫌いなの。本当にムカつくわ。もう我慢できない」
そう言うと、扇子を大きく振り上げたのだ。叩かれる!そう思い、目をギュッと閉じた。でもその瞬間、誰かに抱きしめられるとともに、バシッと言う大きな音が響き渡った。
「エヴァン様…どうしてここに?」
ナタリー様の声が聞こえる。
エヴァン様?
ゆっくり目を開けると、私を包み込む様に抱きしめていたのは、確かにエヴァン様だった。という事は、またナタリー様に叩かれたの?
ゆっくり私から離れると、そっと私の涙をぬぐい、ハンカチを手渡してくれたエヴァン様。
「助けに来るのが遅くなってごめんね。怖かったね。でも、もう大丈夫だよ」
優しい眼差しで私にそう伝えると、エヴァン様がクルリと反対側を向いた。
「ナタリー嬢、本当に君って人は、どうしようもない人間だね。1度ならず2度もルーナを殴ろうとするなんて」
そう言うと、急に服を脱ぎ始めたのだ。ちょっと、さすがにここで脱ぐのはお止めください。ナタリー様も同じことを思ったのか
「ちょっと、エヴァン様。私は次期王妃なのよ。あなたの裸なんて見たくないわ!」
そう叫んでいた。でも、気にせずエヴァン様は服を脱ぐ。すると
「見てくれ、君に扇子で叩かれたところが変色している。服を着ているうえ鍛えている僕でさえ色が変わるくらいなんだ。もしルーナの頬に君の扇子が当たっていたら…そう考えると恐ろしくてたまらない。確かに貴族界は縦社会だ!でも、だからと言って爵位が低い人間を無下に傷つけていい訳ではない。君だってそれくらい分かっているだろう?」
怖い顔でナタリー様に向かって叫んでいる。
「エヴァン様、あなた、もしかしてこの女を尾行していたの?気持ち悪いわね。第一あなた達は婚約破棄をしたのでしょう?それならあなたにとやかく言われる筋合いはないわ。あなたとこの女は、もう何のつながりもないはずじゃない」
「確かに僕は自分の愚かさのせいで、大切なルーナを傷つけ自ら手放した。でも…だからこそ、これからはルーナを守っていきたいんだ。たとえ僕の気持ちが伝わらなかったとしても。それに教室でも伝えたよね。これ以上ルーナに手を出したら、ただじゃおかないからと。もちろん今回の件も、父上と共にヴィノーデル公爵家に抗議に向かわせてもらうから、そのつもりで」
「…覚えていなさいよ!このままでは絶対に終わらせないから!」
悔しそうに唇を噛み、再びガニ股で去っていくナタリー様。ガニ股は行けませんわ…ガニ股は…そう訴えたいが、もちろん言える訳がない。ただナタリー様が去っていく姿を、見守る事しか出来なかった。




