第23話:エヴァン様をどうしても許せません
「ルーナ、また怖い思いをさせてしまって申し訳ない。怪我はなかったかい?」
「ええ、大丈夫ですわ。私の方こそ、私を庇って下さったばかりにエヴァン様が怪我をしてしまい、申し訳ございません。それにしても、こんなに色が変わるなんて…」
扇子とは言え、色が変わるだなんて、ナタリー様は体を鍛えていらっしゃるのかしら?
「ルーナ、謝らないでくれ。僕が愚かでなければ、君はこんな思いをする事はなかったんだ。僕の婚約者のままでいれば、さすがのあの女も手出しが出来ないだろうからね。それなのに僕は、自分の醜い嫉妬心のせいで、君を傷つけ、さらには危険に晒してしまった。本当に申し訳ない」
再びエヴァン様が頭を下げる。とても辛そうな顔をしているのが、どうしても胸に突き刺さる。
「どうかもう謝らないで下さい。そもそもナタリー様の嫌がらせは、エヴァン様のせいではありませんわ。ですから、気にしないで下さい」
「ありがとう、ルーナ。君は本当に優しいね。さあ、もう帰ろう。万が一あの女が絡んでくると大変だから、家まで送るよ」
「いいえ、その様な事はして頂かなくても大丈夫ですわ。1人で…」
「どうかこれも償いの1つだと思って、受け入れて欲しい。確かに僕はもう婚約者ではないが、それでも君の事を大切に思っている。それに僕はあの女と爵位は一緒だが、我がクリスティロソン公爵家の方が今は上だ。僕が傍にいれば、あの女は手出しできないだろうから。せめて僕に君を守る権利を与えて欲しい」
エメラルドグリーンの瞳が真っすぐ私を見つめる。こんな風に見つめられたら断れない。
「分かりましたわ…でもだからと言って、あなた様との婚約は…」
「分かっているよ。そう簡単に婚約を結び直せるなんて思っていない。だから、その点は別だと思ってもらって構わない。あくまでも償いをさせて欲しいだけだから」
そう言うとほほ笑んだエヴァン様。この顔、昔のエヴァン様の笑顔だわ…でも、やっぱり私は、1年間受けた苦痛を忘れる事なんて、出来ない…
「ルーナ、そんな顔をしないで欲しい。君が悲しそうな顔をすると、僕も悲しくなるんだ。と言っても、散々君を悲しませてきた僕が言える言葉ではないね。さあ、行こう」
スッと私の手を繋いで歩き出したエヴァン様。振り払わなければいけない事は分かっている。でも…この大きくて温かい手に触れた瞬間、さっきまでの恐怖がスッと消えていく。
やっぱり私、ナタリー様と2人きりで怖かったのね。
ねえ、エヴァン様、どうして今頃優しくするの?冷たくされた1年、私は何度もあなた様の優しさを求めていたのに…
スッとエヴァン様の手を振り払った。
「エヴァン様、昨日も申し上げましたが、私たちはもう婚約者ではないのです。気軽に手に触れるのはお止めください」
「そうだったね、ごめん。僕は君を見ると、どうしても触れたくなってしまって。自分から拒んでおいてこんな事を言える立場ではないのは分かっている。でも…僕はずっと君に触れた…」
「もうその話は結構ですわ。私、やっぱり1人で帰ります。屋敷までは王都の街を通っておりますので、きっとナタリー様はこれ以上何かをしてくることもないと思うので」
「待って、ルーナ」
後ろで叫んでいるエヴァン様を無視し、小走りで校門を目指した。
せっかく助けてくれたエヴァン様に、何て酷い事を言ってしまったのかしら?でも…
やっぱり1年もの間冷遇されていた時の事を思い出してしまうのだ。そして、一方的に婚約破棄された事を。だから今更優しくされても、どうしても気持ちが付いて行かない。
泣きながら校門を目指し、走っていると
「ルーナ嬢、どうしたんだい?泣いているのかい?」
私に話し掛けてくれたのは、第二王子のアイザック殿下だ。私の涙を見て、心配して駆け寄ってきてくれた。
「アイザック殿下、何でもありませんわ。目にゴミが入っただけでございます」
「そんな訳ないだろう?もしかして、エヴァンに言い寄られているのかい?あの男、君と再度婚約を結び直したいみたいだね。あれほどまでに君を傷つけたのに、よくそんな図々しい事が言えるものだ!」
そう言って怒っている。
「あの…本当にエヴァン様の件ではないのです。それでは失礼いたします」
ペコリと頭を下げてその場を去ろうとしたのだが…
「待って、せっかくだから少しお茶をしないかい?僕も君の婚約者候補に名乗りを上げているんだよ。僕は第二王子だし、いずれ公爵の名を貰う事になっている。僕と婚約を結べば、もうエヴァンに言い寄られることもない。だから、真剣に考えて欲しい」
「アイザック殿下…」
「さあ、せっかくだから中庭で一緒にお茶をしよう」
アイザック殿下に連れられ、中庭へとやって来た。そして向かい合わせに座った。




