召し上がれ
境界の窯とは違う、木の匂い。
削られた木材と、土の混じった空気。
タツゾウの工房は、今日も賑やかだった。
弟子A
「棟梁!今日の作業は――」
タツゾウ
「その前にだ」
声を張る。
弟子たちが、ぴたりと止まる。
タツゾウ
「今日は、飯作る」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
弟子たち
「えっ」
「まじですか!?」
「やった!!」
一気に空気が弾ける。
タツゾウ
「……騒ぐな」
ぶっきらぼうに言うが、どこか以前とは違う。
弟子B
「棟梁の料理、久しぶりっすね!」
弟子C
「楽しみです!」
その言葉に、タツゾウの目がほんの少しだけ細くなる。
タツゾウ
「……あぁ」
短く返す。
だがその前に。
タツゾウは、振り返った。
タツゾウ
「……こっちだ」
視線の先。
白い姿。
ソルが、少し離れたところに立っている。
相変わらず、静かだ。
フワンも、にこやかに見守っている。
ソル
「……ここ?」
タツゾウ
「あぁ」
少しだけ間を置いて。
タツゾウ
「見て行ってくれ」
ソル
「……」
一瞬、沈黙。
ソル
「……いつも、外は出ないけど」
フワン
「ソルさん、新しい料理のヒントがあるかもしれませんよ」
ソルは、ほんのわずかに目を伏せる。
ソル
「……まあいいや」
小さく、息を吐く。
ソル
「……現場、確認する」
それだけ言って、足を踏み入れる。
フワン
「みなさん、おじゃまします」
弟子たちがざわつく。
弟子A
「え、誰すかあれ」
「フワンさんは知ってるけど」
弟子B
「なんか……すごい清潔感」
弟子C
「場違いじゃないっすか?」
タツゾウ
「気にすんな」
一蹴する。
タツゾウ
「……料理の神だ」
ソル
「……」
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、周囲を見ている。
木の粉。
土。
道具。
火。
そして、人。
すべてを、一つずつ。
---
やがて。
鍋が火にかけられる。
ジュッ、と音が立つ。
タツゾウは、手を止めない。
野菜を切る。
トン。
前より、音が軽い。
魚を切る。
今度は、潰さない。
鍋に入れる。
順番を、考える。
タツゾウ
「……」
ほんの一瞬、止まる。
思い出す。
におい。
色。
形。
タツゾウは、鍋を覗き込む。
タツゾウ
「……まだだな」
火加減を、少し変える。
弟子A
「棟梁、今日なんか違いますね」
タツゾウ
「うるせぇ」
だが、その声は荒くない。
味噌を入れる。
混ぜる。
香りが、立つ。
弟子たちが、思わず顔を上げる。
弟子B
「うわ、いい匂い……」
ソル
「……」
何も言わない。
ただ、見ている。
最後に。
タツゾウの手が止まる。
鍋の横に、置かれたそれ。
熟成粘着キノコ。
弟子C
「あ、それ!」
弟子A
「入れるんすか?」
一瞬の沈黙。
タツゾウは、それを手に取る。
そして。
――鍋には入れない。
タツゾウ
「……これは」
小さく言う。
タツゾウ
「仕上げだ」
細かく刻む。
鍋から火を外す。
ほんの少しだけ、上から散らす。
混ぜない。
そのまま。
ソル
「……」
わずかに、目が動く。
—
やがて。
器によそわれる。
弟子たちが並ぶ。
弟子たち
「いただきます!」
一斉に口に運ぶ。
一瞬の静寂。
そして。
弟子たち
「うまっ」
「え、なにこれ」
「前と全然違う!」
タツゾウ
「……」
黙って見ている。
誰も、顔をしかめない。
誰も、苦しそうじゃない。
ただ、食べている。
タツゾウ
「……そうか」
小さく、息を吐く。
そのとき。
横から、静かな声。
ソル
「……」
一口、食べる。
ゆっくりと、味わう。
飲み込む。
間。
ソル
「……料理」
短く。
だが、はっきりと。
タツゾウは、目を閉じる。
タツゾウ
「……あぁ」
弟子たちの笑い声が響く。
その中で。
ソルは、もう一口食べる。
ソル
「……」
そして、ほんのわずかに。
ソル
「……先、見れた」
誰にも聞こえないくらい、小さな声。
タツゾウだけが、ちらりと見る。
タツゾウ
「……なんか言ったか」
ソル
「……別に」
いつもの調子。
フワンは、その様子を見てにこにこしている。
モフリオンにもよそう。
モフリオン
「もふ〜♪」
みんなと一緒に鍋を食べて、
ぽん、と分裂した。
弟子たち
「棟梁!ありがとうございます!!」
「ソルさんも!めっちゃうまいっす!!」
タツゾウは、少し照れくさそうに笑う。
タツゾウ
「ソル、フワン、ありがとうよ」
ソル
「……うん」
フワン
「よかったですね」
ほんの少しだけ。
ソルの雰囲気が、いつもと違って見えた。




