検証しよう
湯気が、ゆっくりと立ちのぼる。
タツゾウは、自分の作った鍋を見ている。
さっき“料理”だと認められたそれとは、違う。
あのときの失敗。
あの鍋のことだ。
タツゾウ
「……なぁ」
ソル
「……?」
タツゾウ
「じゃあよ」
一度、言葉を選ぶように間を置く。
タツゾウ
「あの鍋、どこがダメだったんだ」
ソルは少しだけ目を細める。
ソル
「……検証する?」
タツゾウ
「おう」
ソル
「……じゃあ、順番に」
静かに促す。
タツゾウは記憶をたどる。
タツゾウ
「まず野菜切って」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「魚を切って」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「鍋に放り込んで」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「煮て」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「味噌入れて」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「最後に、俺の好きな……」
少しだけ、声が落ちる。
タツゾウ
「熟成粘着キノコを入れて、さらに煮た」
一瞬の沈黙。
ソル
「……そこ」
タツゾウ
「……あ?」
ソル
「……そこだね」
変わらない声。
だが、はっきりとした断定。
タツゾウ
「……キノコがか?」
ソルはわずかに頷く。
ソル
「……熟成粘着キノコは」
間。
ソル
「……加熱で、菌が増える」
タツゾウ
「……は?」
ソル
「……煮ると、繁殖する」
タツゾウの顔が固まる。
ソル
「……食べたら、どうなるか」
タツゾウ
「……腹、壊すな」
ソル
「……うん」
静かな肯定。
タツゾウ
「……っ」
ぐっと拳を握る。
タツゾウ
「……そうだったのか……!」
ソル
「……もし使うなら」
少しだけ間を置く。
ソル
「……煮ない」
タツゾウ
「……!」
ソル
「……仕上げに少し、とか」
タツゾウは、言葉を失う。
今まで“好きだから入れる”だけだった。
考えたこともなかった。
タツゾウ
「……じゃあよ」
顔を上げる。
タツゾウ
「そういうの、どうやって気づく?」
ソルは、ほんの少しだけ考えるように目を伏せる。
そして。
ソル
「……におい」
タツゾウ
「……」
ソル
「……色」
ソル
「……形」
短く、区切る。
ソル
「……変わる」
タツゾウ
「変わる……?」
ソル
「……加熱で」
ソルは鍋を指さす。
ソル
「……嫌なにおいになる」
ソル
「……濁る」
ソル
「……崩れる」
タツゾウは、思い出す。
あの鍋。
やけに強いにおい。
妙に濁った汁。
どろりとした感触。
タツゾウ
「……あったな」
ぽつりと漏れる。
ソル
「……それ」
タツゾウ
「……」
ソル
「……サイン」
タツゾウは、ゆっくりと頷いた。
タツゾウ
「……見てなかったな」
ソル
「……見てないと」
ほんのわずかに、間。
ソル
「……料理にならない」
タツゾウ
「……」
その言葉は、静かに落ちた。
だが、しっかりと残る。
タツゾウは鍋を見る。
今度は、ただの“出来上がり”じゃない。
途中も、見る。
変化も、見る。
タツゾウ
「……なるほどな」
小さく、息を吐く。
タツゾウ
「……面白ぇ」
もう一度、同じ言葉。
だが今度は、少し深い。
タツゾウ
「……木と、同じだな」
ソル
「……そう」
いつもの声。
フワンは、少し離れたところで静かに微笑んでいる。
モフリオンも、湯気のまわりを漂いながら、
匂いを確かめるように「もふ」と鳴いた。
タツゾウは、鍋に向き直る。
タツゾウ
「……次は」
ソル
「……うん」
タツゾウ
「ちゃんと見る」
ソルは、わずかに頷いた。
ソル
「……それでいい」
白い調理場に、また湯気が立つ。
今度は。
さっきより、少しだけ違って見えた。




