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ジンヤ登場

境界都市の外れ。




立ち入り禁止になった ルナヴェイル遺跡へ続く街道の脇で、 ユズハラは今日も占い露店を広げていた。




テントすらない。




木箱をひっくり返しただけの机に、 怪しい商品がずらりと並ぶ。




ユズハラ

「はいはい寄ってらっしゃい見てらっしゃい♪ 本日の運勢、恋愛運、金運、破滅運〜♪」


旅人

「破滅運って何だよ……」


ユズハラ

「当たったら記念になるやろ?」


旅人

「ならねぇよ」




旅人は引き気味に去っていく。




ユズハラ

「なんや、ノリ悪いなぁ」




ユズハラは頬杖をつき、 机の端に置いた水晶を弄ぶ。




細く欠けた、 更待月の形をした半透明の水晶。




妙に冷たい。




ユズハラ

「まぁ、ええ拾いもんやったけどなぁ」




昨日、 遺跡近くの道端に落ちていたのだ。




売ればそこそこになる。




そんなことを考えていると——




ドス、と。




露店の前に影が落ちた。




オールバックの黒髪。 無数のピアス。 サングラスの奥から覗く、柄の悪い目つき。




どう見ても堅気ではない。




男は、水晶を見たまま言った。




???

「おい」




ユズハラ

(……なんやのいきなり)




???

「それ、どこで手に入れた」




ユズハラ

(いかつ……輩か?)




ユズハラは営業用の笑顔を浮かべる。




ユズハラ

「お兄さん怖いなぁ! 急になんでっしゃろ?」


「質問してんのは俺だ」


ユズハラ

「商売人には順番っちゅうもんがありますえ? まずは名乗ってもらわんと♪」




男は舌打ちする。




ジンヤ

「……ジンヤ」




ユズハラ

「ほなジンヤはん。 うちはユズハラ♪ で、この石がどうかしました?」




ジンヤの視線が鋭くなる。




ジンヤ

「どこで盗んできた」


ユズハラ

「盗んだんちゃう! 遺跡近くの道に落ちてたんや! ほんまやって!」




ジンヤ

「…………」




ユズハラ

「その顔、“絶対嘘や”思ってるやろ」


ジンヤ

「あそこに落ちてる時点で終わってんだよ」


ユズハラ

「失礼やなぁ! ちゃんと綺麗に磨いたで?」


ジンヤ

「そういう話じゃねぇ」




その瞬間。




更待月の水晶が、 かすかに白く光った。




ジンヤの顔色が変わる。




ジンヤ

「——触んな!」


ユズハラ

「へ?」




ジンヤが机を蹴り飛ばす。




木箱がひっくり返り、 水晶が地面へ散らばった。




旅人達が悲鳴を上げて逃げていく。




ユズハラ

「なっ……! なにしてんのん!?」




ジンヤは答えない。




ただ、 更待月の水晶だけを睨んでいた。




その表面に、 一瞬だけ景色が映る。




血。


崩れた露店。


倒れたユズハラ。




そして—— その横に立つ、自分。




ジンヤ

「……チッ」




映像は消える。




ユズハラ

「……?」




ジンヤは乱暴に水晶を掴み上げた。




ユズハラ

「ちょっ! 商品!」


ジンヤ

「これは売るな」


ユズハラ

「はぁ?」


ジンヤ

「ロクな未来見えねぇ」


ユズハラ

「未来ぃ?」




ユズハラは胡散臭そうに目を細める。




ユズハラ

「……あー、お兄さん。 そういうタイプ?」


ジンヤ

「どういうタイプだよ」


ユズハラ

「終末論とか好きそう」


ジンヤ

「殴るぞ」


ユズハラ

「怖っ」




だが。




ユズハラは気づいていた。




この男、 本気で焦っていた。




演技でも脅しでもない。




ユズハラ

(……なんやろな)




商売敵とも違う。




金の匂いもしない。




なのに。




妙に目が離せなかった。




ジンヤ

「……とにかく、それ捨てろ」


ユズハラ

「嫌や」




即答だった。




ジンヤ

「は?」


ユズハラ

「危ない石ほど高く売れるやろ♪」




ジンヤは数秒黙り込み、 深くため息をついた。




ジンヤ

「……最悪だ」


ユズハラ

「褒め言葉やなぁ♪」




更待月の水晶が、 再び淡く光る。




今度は誰も気づかない。




ただジンヤだけが、 その未来の続きを見てしまっていた。




——自分が、 この胡散臭い女に振り回される未来を。

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