コッチャン放浪記「芸術とすべり」
その日も、コッチャンは村のあちこちを歩き回っていた。
コッチャン
「ときめき☆マーガリン!!」
畑の前。
農夫は、くわを止めることなく土を耕している。
コッチャン
「ランデブーあんたぶー!!」
井戸のそば。
水を汲む女性は、一瞬だけ視線を寄こして――すぐに戻した。
コッチャン
「大丈夫?いやバッティング♪」
子どもが一人、くすっと笑った。
……が、そのまま走り去っていく。
コッチャン
「……うーん、むずいぺん」
頭をかきながら歩いていると――
???
「……な!なんざます、あれは!!」
高く、よく通る声。
思わず足を止める。
???
「あれ、神ですの!?本気でおっしゃってますの!?」
振り向いた先にいたのは、
ひときわ目立つ存在だった。
ピンクのドリルヘア。
光を弾くドレス。
全身から“完成された何か”があふれている。
リベルティーナ
「……信じられませんわ……」
コッチャンを、まじまじと見つめる。
コッチャン
「なんだぽん?」
リベルティーナ
「あなた、今の……“芸”のつもりですの?」
コッチャン
「そうだぷん!!俺ぴっぴは笑いとすべりの神だぷん!!」
胸を張る。
リベルティーナは、扇子で口元を隠し――
リベルティーナ
「……はぁ」
深いため息をついた。
リベルティーナ
「見ていられませんわ」
コッチャン
「なにぃ!?」
リベルティーナ
「いいこと?人を惹きつけるというのは――」
扇子を、すっと閉じる。
リベルティーナ
「こうやるのざます!!」
次の瞬間。
空気が、変わった。
彼女が一歩、前に出る。
指先が、わずかに動く。
――歌が、響いた。
透き通るような声。
高く、柔らかく、まっすぐに伸びていく。
風が止まり、音が止まり、
その場にいたすべての意識が、そこに集まる。
畑の農夫が顔を上げる。
井戸の女性が手を止める。
通りすがりの人々が、足を止める。
気づけば――
人だかりができていた。
歌い終わると同時に、
静寂。
そして――
「……すごい……」
「なんて声だ……」
大きな拍手が鳴り響く。
近くにいたモフリオンも、沢山分裂する。
リベルティーナは、ゆっくりと微笑む。
リベルティーナ
「オーッホッホッホ!!ありがとう、ありがとうですわ!!」
堂々たる姿。
まさに、“芸術”。
その光景を見て――
コッチャン
「……」
口をぽかんと開けたまま、固まっていた。
コッチャン
「……なんだそれ、ずるいぷん……」
ぽつりとつぶやく。
コッチャン
「めちゃくちゃ集まってるぽん……」
足元では、モフリオンが一匹だけ、
「もふ」
と鳴いた。
コッチャン
「……悔しいぺん」
ぎゅっと拳を握る。
リベルティーナは、人々からの視線を一身に受けながら――
ゆっくりと人だかりを離れ、コッチャンの方へ歩いてきた。
コツ、コツ、と靴音が石畳に響く。
リベルティーナ
「わかりまして?」
コッチャン
「……」
リベルティーナ
「人を惹きつけるというのは、“完成された美”ですのよ」
コッチャン
「……でも」
顔を上げる。
コッチャン
「笑ってくれるやつも、いるぽん」
少しだけ、真剣な目。
リベルティーナは、ほんの一瞬だけ――
言葉を止めた。
リベルティーナ
「……ふん」
扇子で軽く風を送りながら、
リベルティーナ
「名前を聞いておきますわ」
コッチャン
「コッチャンだぽん!!俺ぴっぴ、笑いとすべりの神だぷん!!」
リベルティーナ
「リベルティーナ」
ドレスの裾をつまみ、優雅に一礼する。
リベルティーナ
「芸術の神ですことよ」
視線がぶつかる。
コッチャン
「リベル氏……なかなかやるんだぷん……!!」
リベルティーナ
「あなたこそ、その芸……理解不能すぎて逆に興味深いざます……」
ふたりの間に、妙な沈黙が流れる。
次の瞬間。
コッチャン
「次は負けないぽーーーん☆!!」
リベルティーナ
「受けて立ちますわ!!」
火花が散るような視線。
――こうして、
笑いと芸術。
正反対の神が、出会った。




