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第178章:凶星

「皆様、大変お待たせいたしました!!只今から準決勝、第一試合を開始します」

パジュンが試合再開の合図を出す。


「待ちくたびれたぜ!!」


「私はデイジーを応援するわ!」


「ここで勝った方がS級傭兵になる権利を得るって訳か…」

観客達は、試合の再開に大いに盛り上がる。


「試合が…もぐもぐ…再開だって」

アリアは物売りの傭兵からクッキーを購入し、それを食べていた。


シナモンの甘い香りを漂わせながら、小さな口を忙しなく動かしている。


「キュイッ!」

アルブも美味しそうにクッキーを口に運ぶ。


「次はデイジーさんとシェイさんだね」

サシャの瞳には、これから始まる戦いへの緊張が宿っていた。


「あぁ。デイジーさんはブランジェのコンビネーションと、策を重ねて相手を突き崩すタイプ」


「一方で、シェイさんはドラゴニア体術に加えて回復魔法もある…どっちが勝ってもおかしくない戦いだな」

リュウは双方の強みを分析する。


「(デイジー…カニサ一族出身の凄腕ハンター。フラッカーズ入隊から僅か4年でA級傭兵になった猛者)」

マヨは事務所で読んだ書類を思い返す。


「(シェイは元ドラゴニア王国の衛生兵。医療に関することは一通りできる優秀なヒーラー。面白い一戦になりそうね)」

これから始まる戦いに、思わず頬を緩めた。


「準決勝、第一試合。デイジー対シェイ!!両者、入場!!」

そして、パジュンが高らかに両選手の名前を叫んだ。


「ワーッ!!」

観客達の喝采が会場中に響き渡る。


「…(これに勝てば、私は)」

デイジーはいつもにも増して真剣な面持ちだった。


「さ、ここまで来たからには、勝利をもぎ取るわよ!!」

一方のシェイはやる気に満ちていた。


そして、双方が会場の中央で向かい合う。


「やぁ。いつもブランジェの傷薬を出してもらって助かっているよ」

デイジーがフランクに語りかける。


「だけど、勝負は勝負。手加減はしない」

そして、牽制するようにシェイへ、そう言い放つ。


「私だって負けられない理由があるの。あなたを倒してS級傭兵になる!」

シェイは負けじと、そう言い返す。


「ルールは一回戦同様。どちらかが戦闘不能。もしくは降参の意志を見せた時点で試合終了だ。何かしらのアクシデントで死んでも、フラッカーズは一切責任は負わない。以上だ。…ま、できればこれ以上、死んでは欲しくないがな」

アイアンホースが簡易的にルールを伝えるが、最後に小さな声で「死んでほしくない」と付け加えた。


「私が死ななきゃ、誰も死なないわ」

シェイが冗談を含んだ口調で呟く。


「ふっ…」

デイジーは鼻を鳴らす。


「キシャッ」

ブランジェが喉を鳴らし、低く身構えて臨戦態勢に入った。


しばしの沈黙が二人の間を包む。

そして…


「試合、開始!!!」

アイアンホースが、高らかに試合開始の宣言をした。


「悪いけど、あなたの戦闘方法は熟知しているつもりよ!!」

シェイは鉄鞭を構えると、一気呵成にデイジーに襲いかかる。


「おっと…」

デイジーは後方にバックステップをする。

そして、魔法を詠唱する。


「樹木魔法-鉄線-」

次の瞬間、地面から鋼鉄のようなツタが伸び、シェイを捉えようとする。

しかし…


「それは読んでいるわ…!熱魔法-赫騰(せきとう)-!」

シェイが魔法を詠唱すると、彼女の体が赤くなり蒸気を発する。


ツタは確かにシェイを捉えたように見えた。


「ジュッ…」

ところが、足に絡みつこうとしたツタは、炎をあげて燃え尽きてしまった。


「…やっぱりダメか」

デイジーの顔に冷や汗が浮かぶ。

それを、シェイは見逃さない。


「まずは、一発!もらいなさい!!」

シェイの鉄鞭による鋭い横薙ぎがデイジーの腹部を捉える。


「ドコッ!!」

鈍い音が響く。

そのまま、デイジーは後方に吹き飛ばされていく。


「グッ!!(骨にヒビが入ったか…)」

デイジーは咄嗟に腕を入れたが、鋭い痛みが腕を走る。


「このまま…押し切らせてもらうわよ!!」

シェイはデイジーに追撃を入れるべく、彼女の後を追う。


「そう来ると思ったよ」

すると、デイジーがポーチから小さな玉を取り出すと、足元に転がす。


「まずい!!」

それを見たシェイは急停止し、咄嗟に顔を覆う。

次の瞬間…


「チュドーン!!」

激しい爆発。

それと同時に広範囲に黒煙があがる。


「煙幕と炸裂弾ね…」

シェイは制止し様子を伺う。

その、次の瞬間だった。


「ダーン!!」

煙の中から、一発の弾丸が放たれる。


「うっ!!」

それは、シェイの脇腹を掠める。

彼女は咄嗟に距離を取った。


「ダーン!ダーン!ダーン!」

さらに、リズムよく3発の弾丸が次から次へと放たれる。

それはシェイを確実に狙っていた。


「(まさか、こちらが見えているというの!?)」

シェイは弾丸を器用に避ける。


「(こうなったら、一旦空から様子を…)」

そのまま様子を見るために上空へ飛行した。

そして、ある程度の高さまで飛行した時だった。


「キシャッ!!」

彼女の真横を一匹の影が飛来する。


それは、ブランジェだった。

ブランジェは、口をパクパクさせながら、こちらをじっと見つめていた。


「(まさか、ブランジェが私の位置を補足していたの!?)」

シェイは慌てたようにブランジェへ向かうと、鉄鞭を振るう。

だが、それよりも先に…


「ダーン!!」

シェイの片翼を弾丸が貫く。

乾いた銃声が会場に轟き、鮮血が空中に舞った。


「うっ!!」

翼の一部に穴が空き、血が吹き出る。

瞬く間に力が抜け、一気にバランスを崩す。


ドラゴニアの弱点である翼の付け根に、灼熱の杭を打ち込まれたような衝撃が走る。


「(翼はもいでやった、もう飛行はできないはず)」

黒煙の中からデイジーは、次の一撃を静かに狙い定めていた。

しかし…


「その程度で…!!」

シェイは気合いで痛みをこらえつつ、もう片方の手で鉄鞭をブランジェに振るう。


「キシャッ!!」

だが、ブランジェは回避しながら、煙幕の中へと戻っていく。


「…トドメだ」

その隙をつき、デイジーがピストルの引き金に指をかける。


「ダーン!!」

ピストルからシェイをめがけて弾丸が放たれる。


「…くっ!」

だが、シェイは力を振り絞り、その弾丸を避ける。


「(弾丸は煙の中から放たれていた。それなら…)」

次の瞬間、シェイはデイジーに向かって、勢い良く急降下していく。


「(このままやられるくらいなら…やってやるわよ!)」

そして、静かに魔法を詠唱した


「熱魔法-赫騰(せきとう)- …からの…」

すると、シェイの体が赤くなる。

紅い魔力が彼女を包み、大気を焼き焦がしながら落下していく。


煙が晴れると同時、デイジーの目には落下してくるシェイの姿が見える。


「いい的だ」

デイジーはピストルに指をかけ、シェイの翼を狙う。


「ダーン!」

弾丸が放たれ、シェイの翼を捉えた。

はずだった。


「ジュッ」

なんと、シェイが纏う熱気に弾丸が命中する前に、燃え尽きてしまったのだ。


「おいおい。冗談キツイぞ」

デイジーは冷や汗をかきつつ、魔法を詠唱する。


「樹木魔法-苧環(おだまき)-」

彼女の周りに太い木々が盾になるように生えてくる。


「キィィィン!」

シェイは隕石のように、赤い軌道を描いて落下してくる。


「(こりゃ、やべぇな…)防御班!!急ぎ観客達を守れ!!」

アイアンホースが慌てた口調で傭兵たちに指示を出す。


「了解しました!」

それを受けた彼らは頷くと、急ぎ魔法を詠唱する。


「風魔法-嵐砂壁-!!」


「黒鉄魔法-スチールネスト-!!」


「糸魔法-白影の使徒-!!」

防御魔法の一斉詠唱によって、観客席に巨大なバリアが形成される。


「わ!!なになに!?」

アリアが突然のバリアに目を丸くして驚く。


「どうやら、強力な攻撃が来るらしい…」

リュウは冷静に告げる。


「あれは明らかに危険…私の勘がそう言っているわ」

マヨの表情に焦りの色が浮かぶ。


「小僧。二人の言う通りじゃ。衝撃に備えとくんじゃな」

精神世界からトルティヤが警告するように告げる。


「あ、うん…」

サシャは戸惑いながら息を呑む。


「ゴゴゴゴゴ…」

赤い軌道を纏ったシェイがデイジーに迫る。


「(さ、耐えられるのかな?)」

デイジーは小さく息を呑む。


「ドラゴニア流体術奥義…」

刹那、シェイが地面に衝突する。

同時に赤い魔力が会場に迸る。


凶星堕(きょうせいお)とし!!!」

会場に地響きと共に、大きな亀裂が入る。

演習場の半分を飲み込むほどの土煙が立ち昇り、衝撃波で瓦礫が飛散する。


「おいおい!めちゃくちゃだぞ!!」

アイアンホースは、飛んできた瓦礫を盾にして、残りの瓦礫と衝撃を防ぐ。


「キャァァァァア!!」


「なんて衝撃なんだ!」


「無茶苦茶だぞ!?」

観客席では、傭兵達が防御魔法を使用したにも関わらず凄まじい衝撃と轟音が響いていた。


「ぐっ…すごい衝撃だ…」

サシャは座席に深く身を沈め、爆風が通り過ぎるのを必死に耐える。


「うわぁぁ!すごい揺れているよぉ!」

アリアは驚き声を上げる。


「キュイッ…」

アルブはアリアの腕の中で小さく声をあげる。


「なんて威力だ。まともにくらったら…」

リュウはシェイの技の威力に息を呑む。


「くっ…(…翼を撃ち抜かれたのを逆手に取るなんて、無茶苦茶ね)」

マヨはシェイの戦術に思わず舌を巻く。


「ゴゴゴゴ…」

衝撃が収まり、辺りは砂煙に包まれる。


「(…これ、死んでないよな?)」

アイアンホースは目の前の惨状に目を丸くした。


「おーい!生きてるか?」

そして、崩壊した会場に向かって声をかける。


しばらくすると、砂煙が少しずつ晴れていく。

そこには二つの影が映っていた。


「はぁ…はぁ…」

一つは、血まみれのシェイが地面に跪いていた。


片方の翼はボロボロで、体中には火傷を負い、肩で息をしている状態だった。


「…はぁ…はぁ…うっ」

もう一つは、傷だらけで同じく跪いているデイジーと、傷だらけで倒れたブランジェだった。


周囲には焼け焦げ、バラバラになった木が散乱していた。


「二人とも無事だ!!」


「だけど、すごい傷だよ…」


「このままじゃ共倒れになるんじゃ」

観客達は二人の姿にざわめきたつ。


「(どうやら、まだ戦いは続きそうだな)おい!」

アイアンホースが観客席の傭兵達に指示を出す。

すると、防御魔法が解除される。


「ああっ!二人とも傷だらけだよぉ!!」

アリアが思わず声を漏らす。


「それに、ブランジェ…大丈夫かな?」

そして、ブランジェのことを心配そうに見つめる。


「キュイッ…」

アルブも心配そうにブランジェを見つめている。


「二人とも満身創痍ね…」

マヨは二人の姿を見て呟く。


「それでも、二人とも生きている…」

リュウは二人の精神力と、耐久力に驚いた表情を見せる。


「この勝負、これでどうなるか分からなくなってきた」

サシャは思わず拳を強く握る。


「キシャッ…」

ブランジェは力なく声を上げる。

震える四肢を動かそうとするが、激しい消耗に耐えきれず地面に伏したままだ。


「(私は耐えられたが、ブランジェには厳しかったか)」

デイジーは痛みをこらえつつ、ブランジェをアイアンホースの元へ運ぶ。


「ブランジェは棄権です。すみませんが場外に…」

デイジーはアイアンホースに頼み込む。


「分かった…任せろ」

アイアンホースはブランジェを優しく手にすると、医療班に合図を出す。

そして、ブランジェは医療班によって運ばれていった。


「(ブランジェ…私…)」

その様子を見送った後、デイジーはピストルを手にすると、シェイと向かい合う。


「まったく…この一撃を凌ぐなんて…驚いた…わ」

一方でシェイも、ゆっくりと立ち上がる。

だが、足元は先程の攻撃による反動と戦闘で受けた傷の影響か、おぼつかなかった。


「ここまで来たんだ…負けるわけにはいかないだろう?」

デイジーは余裕そうにそう呟く。

だが、彼女の肉体も悲鳴を上げていた。


この戦いの行方は、もうすぐ終着へと向かおうとしていた。

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